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「241話」

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ゴロゴロと床を転がり、ゴスッと壁にぶちあたった生首はそのまま動かくなる。

「ふふふ……楽しみだねえ」

部屋の隅っこで動かなくなったかと思ったら急に笑い出しやがったぞ。

「私の造ったダンジョンを見て、あいつがどんな顔をするか……くふっ」

「……」

「……うわぁ」

俺も中村もドン引きだよ。
生首の様子をみて平気そうな顔してるのはクロぐらいだ。

てか、静かだなと思ったら猫缶あけて食ってるし!
ほんと自由だなっ。

しっかし……ほんとアマツも災難だよな、こんなのに目を付けられて……俺もちょっと目を付けられてそうだけど。

アマツが生首を押し付けたのも、魔除けって意味以外にもこいつと一緒に居たくないってのがでかそうな気がする。
クーリングオフできませんかね? 洗ったからだめ?

はぁ。

「中村の家ってさー」

「いやだよ」

ちっ。

中村に押し付けるのも無理そうだ。
てか実家暮らしのはずだし、家族に見られたら大惨事だもんな。そりゃ無理だわ。

「このまましばらくうちで様子見るか……」

一応魔除けだしな。

「ダンジョンっていつごろ造るんだろうな? うちの会社も何人か脱落してるから、さっきの話聞いて割と期待してんだけど」

「あー……」

俺とか中村であればせいぜい息抜きが目的とかで、そこまで行く必要があるダンジョンではないけど、そうだよな。中村の会社の人って、あくまで普通の人だろうし、そりゃ脱落した人だっているよな。
中村? 中村は普通ではないと思うぞ。俺がいうのもあれだけど、結構精神的にタフだよね。

まあ、それはさておき。
ダンジョン潜っている人とそうじゃない人で差が生まれそうだし……社内がギクシャクする前になんとかしたいってのが中村の思いだろう。

生首に聞くのもなんか嫌だし、アマツに聞けば教えてくれたりするのだろうかね?

いやまあ生首に聞けば一発なのは分かってるんだけどね。
なんかやだ。


と、俺が生首に聞くのをどう避けようかと思っていると……さっきまで上がっていた気持ち悪い笑い声がピタリと止まり。

こちらへと向かい生首が転がりだした。

「なんだいなんだい、興味があるのかいっ」

「いや、ない」

器用にも転がりながら話す生首に、否定の声を掛けるが……回転は止まらず、ついに俺たちの足も元へと転がり込んできた。
思わず蹴りそうになった、

「ならば教えてあげようじゃないか!」

「人の話し聞こうぜっ」

ほんとにこいつは……今度アマツに投げつけてやる。

「一つだけなら、3か月ってところかな」

「お、思っていたより早い」

俺の言葉をガン無視して話し続ける生首であるが……中村が食いついたし、今更止めてもあれだし、しゃーないこのまま続けるか。

しかし3か月かー。
春には新しいダンジョンが出来ると……どこに造るんだろうな? まさかアマツのアホみたいに、渋谷のど真ん中に出したりしないだろうなこいつ。
不安だ……。

「……事前にお偉いさん方に話しておけよ?」

「それもそうだね」

本当に大丈夫だろうな? と思いっきり疑いの眼差しを生首に向けるが……イースは確かにその通りだと頷いている。
まあ、ダンジョンに関してはまとも……なのかな。

てか、どうお偉いさん方に話すつもりなのか知らんけど。
……いや、本当にどうするんだろな? 生首だよ生首。

「今度夢枕にでも立つとしよう」

「……あー、うん」

毎夜毎夜、夢の中で生首が話しかけてくるのか。まじで悪夢だな。
……一応大塚さん経由で伝えておこう。へんな生首が夢に出るかもしれません。有害ですが話きいてやってくださいって。


「くふっ……よきかなよきかな。なんなら一生手伝ってあげても……ふふっ」

なんか生首がアマツの反応を想像しているのかそのままトリップしだしたので、俺と中村は生首になるべく視線を向けないように顔を背ける。

顔をそむけた先では、クロが猫缶の乱れ食いをしていた。
……缶切り必要なタイプもあるんだけど、どうやって開けたんですかねえ?

「なんか変わった猫缶だな。アメリカの?」

「ああ、そうそう。アメリカで買いまくってきたんだよねー」

見なかったことにした。
中村はたぶん気が付いてない。

「……あ、そうそう」

「おう?」

アメリカで買ってきたで思い出した。
お土産あるぞって話してなかったね。

「中村にもお土産あるから、今度渡すよー」

「お、すまんな。って今じゃダメなのか? 別に持って帰るぐらい……そんなでかいん?」

「うんにゃ、輸出許可が出るのが明日らしいから、渡せるのは明日以降なんよ」

大塚さんにお願いしたやつだけど、昨日の今日じゃさすがに間に合わなかったよ。
それでもすぐ許可でるあたりが凄いよね。普通はもっと掛かるはずだ。


「え、なに買ったの。てかアメリカにおきっぱなのか?」

「いや、個室に放り込んである」

「ああ、なるほどな」

個室まじ便利。
変な目的に使うんじゃなければ、個室に入る量なら距離関係なく荷物の移動できるもんね。

「買ったのは刃物類だね。いま中村が使ってるナイフあるっしょ、あれと同じメーカーがダンジョン素材使った装備売っててさ、買いまくってきた」

「おおっ」

買い占めてはいないので安心してねっ。
各種一本づつ買ったぐらいだよ。

「ダンジョン素材とはいっても、いま中村が使ってるナイフよりは大分性能落ちるだろうし、サブで使うか日常で使うか、それか会社で作る製品の参考にするとか……まあ、好きに使っておくれ」

「いやまじで嬉しいわ、ありがとな!」

「おう」

ダンジョンの攻略を始めたのは日本が最初なんだし、この手の製品開発もできれば先頭を走って貰いたいところだよね。
ちゅ〇るとかはぶっちぎりで日本がトップだけど、武器とかになるとねえ。規制とか色々あるんだろうけど……中村の会社にはぜひとも頑張ってもらいたい。


「ほんとありがとなー、助かったよ」

「おーう。それじゃまたなー」

中村は明日会社があるってことで、夜中になる前に解散になったよ。
帰ってぐっすり寝れば寝不足もたぶん取れていると思う……。

「さて……」

あとは俺も何か食って寝るだけなんだけど……その前に一つ済ませておこう。

「イースって飯食うのな」

「そりゃあねえ」

今回中村を巻き込んでしまった、原因をどうにかしようと思う。

「今までどうしてたんだ?」

「クロのを分けて貰ってたのさ」

まさかイースがここにきて、ずっと食ってなかったということはないだろう。
そう思い尋ねて見たが、答えは予想通りだった。

ちらりと視線をクロに向けると、クロは『ふんっ』と鼻をならして横になる。そして小さく『にゃ』と鳴いた。

どうやらクロとしては、イースが生首となり自力で餌も取れなくなった時点で、敵ではない、敵にはならないと判断したらしい。
で、家の中の上位者としては、下位の者が飢えているのを黙ってみているつもりはなかったと。
それでカリカリとかを分け与えていたんだそうな。

「あー……クロ、あんがとな」

クロにお礼を言うと、尻尾がパタパタと揺れた。
あとはお前がなんとかせいってことだろう。

「とりあえず今後飯は用意するから……カリカリじゃなきゃダメとかないよな?」

「それはないねえ」

まあ、俺が食う分を少し多めに作るだけなんだけどね……まさか、生首と一緒に食事する日がこようとは思ってもみなかったよ……。
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