上 下
193 / 304

「193話」

しおりを挟む
とは言ったものの、依然としてこちらが不利であることには変わりない。

こちらの攻撃は当たらず、向こうの攻撃は致命傷にはならずとも確実にこっちを削っていく。
相手はどうも障壁を持っていないようで、通常攻撃でもまともに当たればダメージは大きい。

とにかく頭部や心臓への攻撃を避け、まぐれ当たりを期待して攻撃を繰り返すしかない。
一撃でも当たれば体勢を崩して土蜘蛛をあてるチャンスがくる可能性はある。

そう思い、戦闘を続けていたが……このままじゃ埒が明かないとこいつは考えたようだ。

足に激痛が走り、膝がガクリと折れそうになるが、何かに止まりそうはならない。
膝を武器が貫通していたのだ……こいつ、意外とアホかも知れない。

俺は曲がらない膝を無理やりに曲げ、武器を抜けなくすると鉈をそいつに向かい叩きつける。
もちろん土蜘蛛も使う。こんなチャンスは二度と来ないかも知れない……少し引っ掛かるので保険はかけておこう。


……敵は武器を引き抜こうとして動きが一瞬止まった。
きっと当たるはずだ。

そう思い、俺は土蜘蛛を放つ。


「ッ土――」

土蜘蛛を放とうとしたその瞬間、耳がわずかに高音を捉え、そして足の痛みが消え、逆に右腕に激痛が走る。

足に刺さっていた武器……槍とも剣ともどちらとも取れるそれは、敵の手にしっかりと収まり、綺麗に振り抜かれていた。

鉈を持つ俺の腕は、肘から切断された。
土蜘蛛は武器がなければ発動しない、このままでは不発に終わるだけではなく……最悪の場合は武器を失うかも知れない。

現に敵は俺の腕を……武器を回収しようと動き始めている。

保険をかけておいて正解だった。


「蜘蛛!!」

俺は切断されたはずの腕でもって、土蜘蛛を発動する。

ずっと笑っていたそいつの表情が驚愕に代わる。
さすがに切断されたはずの腕で攻撃してくるとは思わなかったのだろう。

タネを明かせばなんてことはない。
単に液体操作でもって、切れた腕を即座に繋いだだけである。


俺の武器を回収しようとしなければ、避けれたかも知れないがさすがにこれは避けられないだろう。
それにダメ元で足を踏み抜いてみたが……これが成功してしまったのだ。

こいつはもう自分か俺の足を切る以外逃げる事は出来ない。


体の中心を狙い発動させた土蜘蛛だが、相手の武器を持つ腕と胴体の3分の1を吹き飛ばした。
この状態でも体を捻り直撃を避けたようだ。だが、武器を使えなく出来たのが大きい。


「っらあ!」

俺は鉈を腕を振りぬいた反動で体を起こし、そいつの顔面を殴りつける。


盛大にすっ飛ぶなんてことはない。
まだ足は踏み続けている。べきべきと足があらぬ方向へと曲がるが千切れてはいない。

地面に叩きつけられ、弾んで浮かんだ体を押さえつけるように伸し掛かる。
無事な足はもう片方の足でがっちり固定する。

俺は動けなくなったそいつの頭目掛けて鉈を……ではなく、横にふるう。
残った片腕もそれで切断された。

こっそり俺に見えにくいように、自分の足へと手を近づけていたのだ。
扇状に光が伸びる攻撃を放って足を切断するつもりだったのだろうか。それか俺を攻撃するつもりだったかだ。


腕を切られた敵は慌てた。
俺のほうを見て、腕を振りながら口を開き何か話そうとしているが、俺がそれを理解することはなかった。

敵の首が宙舞う。

俺はすぐに首を叩き落し、踏みつぶした上で追加で土蜘蛛ですり潰した。

ここまでやれば再生持ちとは言えさすがに死ぬだろう。


「島津無事かっ!?」

その言葉に振り替えれば、隊員さん達を足止めしていた天使は全て糸が切れたかのように地面に倒れ、再び動き出す様子はない。

どうやら無事倒し切ったようだ……。

「無事っす。てか、こいつなんなんすかね……アマツが言ってたやつかな?」

「アマツさんが?……ああ、同僚とか言ってた奴か」

「飛んでもない同僚も居たもんだ」

ほんとだよ!
あとで何があったのかきっちり絞ってやらんと……てか、この戦闘放送してないよな?思いっきり刎ねた上で踏みつぶしちゃったけど……まあ、何かしら対応しているとは思いたい。

てか、こんな乱入とか止めろよなーって話だよね、まったくもう。

……はー、とりあえず景品戻って帰るかな。



「きみ、面白いね」

……全身の肌が粟立つ。

首を刎ねて潰したんだ、生きてるはずはない。


「ちょっとした悪戯のつもりだったんだけど……あいつも酷いな、こんなおゴッ」


潰したはずの顔が元に戻ってやがる!
咄嗟にもう一度きり飛ばしたけど……くそ、今度は生えてきやがった。

「不死身かこいつ!?」

「人が喋ってるときに攻撃するなんてゴヒュッ」

こうなったら死ぬまで殺すしかない。
こいつ、頭を再生している間はあまり動けないようだ、その間にひたすら攻撃するしかない。

『だから、人が喋ってるときに攻撃はしないで欲しいな』

……刎ねた首まで喋るのかよ。

「私は君と話したいだけなのにねえ……っと、時間切れか」

時間切れ?
どう言うことだと思ったら、上空から風切り音が聞こえてきた……やっとアマツがきたのか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...