上 下
102 / 304

「102話」

しおりを挟む
クロを頭に乗せ、船に揺られること数分。
あまり沖に出ても……と言うことで、適当な場所で釣りを開始する事となった。

……この湖だけどさ、めちゃくちゃ広いみたいで対岸が見えないんだよね。
下手に進むと、どっちが来た方向か分からなくなりそうなので、あまり奥まで行かないほうが良い予感がする。



釣りのほうだけど、適当な竿を一つ選んでぽちゃんと仕掛けを水面に投げ入れ、そのままぼーっと待つだけだ。
こんなんで釣れるのかなーと思ったけど、すぐにツンツンとあたりが来た。

「お?……お、おぉっ……おうっ」

「オットセイかな?」

最初は気のせいかな?と思ったけど、何度もあたりが来るので気のせいでは無いと分かり……ぐんっと強く引いた瞬間に合わせる。
オットセイでは無いです。


「釣れたっ!」

決して釣るのが上手い訳では……と言うかやった事ないんで、下手で当たり前なんだけど、幸いな事に魚はバレることなく釣り上げることが出来た。

「ヤマメかな?……ク、クロ??」

釣れたのは体長20cmぐらいのヤマメだった。
湖で釣れたっけ?と疑問が沸くが……まあ、ここはダンジョン内だし、そう言うものなんだと理解することにした。

それよりもですね……。

「よこせーと言われても……これ生でも食べられるの?」

さっきから頭の上でクロがにゃーにゃーと騒いでいるのです。
ヤマメにちょいちょいと手を伸ばしてくるし……よこせってことなんだけど、これ生で食えるか分からんのよね。
安全を考えるなら戻って焼かないといけないのだけど。

なんて考えていると、不意に背後から声が掛かる。

「可能です。ここにいる生物は全て生で食べられます」

「おぉ……ありがとうマーシー?」

振り返ると、ミニサイズのマーシーが居た。
……びっくりしてちょっと固まってしまったよ。

後で聞いてみたところ、マーシーの子機の様だ。
料理を作ったりは出来ないが、BBQの広場に関する質問であれば何でも答えてくれるとの事。


まあ、とりあえずこれで生で食っても大丈夫な事が分かった。

……さすがにこのまま渡すのは無いよね。
丸ごとバリバリ食べちゃいそうな気もするけど、さすがにちょっと気が引ける。
ただナイフとか持ってきてないし、手で捌く……?ないよなあ。

と、手の中でぴっちぴちと元気に動くヤマメを見て、どうしようかなーと考えていると、太田さんが近寄ってきて手を差し出した。


「どれ、貸してみろ」

差し出された手にヤマメを渡すと、太田さんはポーチからナイフを取り出し、あっと言う間に捌いてしまう。

「ほれ」

「あ、ありがとうございますっ」

「手慣れてんねー」

太田さんに捌いてもらったヤマメをクロに渡すと、クロはすごい勢いでムシャムシャと食べ始める。


「……クロ、こぼさないでね」

……俺の頭の上で。






「乗った!」

背後からそんな声が聞こえ、後ろを見ると太田さんの竿が大きくしなっていた。

太田さん、それに都丸さんは俺と違い二人とも釣り経験者である。
使っている竿も仕掛けも俺のとは違って……ルアーと言う、疑似餌を使って釣りをしているそうだ。

なんでもこれで鮭系統が釣れるらしく、実際竿のしなり具合から言って俺がさっき釣ったヤマメよりも大分大きい事が察せられる。

「良い型だ……雌だな、マス子を食えるかも知れんぞ」

「おぉっ、やったー」

太田さんが釣り上げたのは60cmぐらいの鮭っぽい魚だ。
鮭の一種なんだろうけど、俺には区別は付かない。

分かるのはマス子は美味しいってぐらいである。
普通のやつより粒が小粒で結構好き。

昼飯が豪華になりそうで嬉しい。



「っと」

「おう?」

マス子が食えるぞーと喜んでいたら、今度は都丸さんがHITしたらしい。
こっちもいい感じで竿がしなっているね。1匹だけだと足らないかもだし、また雌だといいなー。


「サクラマスまで居るのか……」

「うまそうっす」

マスってぐらいだから、鮭の仲間だろう。
丸々と太っていて美味しそうだ。



「んー……なんだろこのあたり」

都丸さんが、釣り上げてから10分後ぐらい。
俺と同じくぼーっと竿を持っていた北上さんが、首を傾げながらリールを巻いている。
竿は結構しなっているので、それなりに大きいのが掛かっていそうではあるが……。


「うわっ、鰻釣れたし」

まさかの鰻であった。
お昼がどんどん豪華になっていくねっ。

てか、本当にこの湖いろいろ釣れるなあ……俺がヤマメでしょ、太田さんと都丸さんが鮭っぽいので、北上さんが鰻。

え、大野さん?

「カジカしか釣れないんっすけど」

「美味しいからいいじゃない」

使っている竿か、それとも仕掛けが悪いのか、なぜかカジカしか釣れてないらしい。
北上さんは美味しいからいいじゃないと言うが、大野さんの表情は微妙そうだ。

まあ、まわりが結構良い型の釣り上げてるからねー、気持ちはわかるっ。
俺もヤマメ以外を釣り上げないと、何とも言えない釣果になってしまう……そもそもクロに食われて、手元にもう居ないんですけどね!

しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

イレギュラーから始まるポンコツハンター 〜Fランクハンターが英雄を目指したら〜

KeyBow
ファンタジー
遡ること20年前、世界中に突如として同時に多数のダンジョンが出現し、人々を混乱に陥れた。そのダンジョンから湧き出る魔物たちは、生活を脅かし、冒険者たちの誕生を促した。 主人公、市河銀治は、最低ランクのハンターとして日々を生き抜く高校生。彼の家計を支えるため、ダンジョンに潜り続けるが、その実力は周囲から「洋梨」と揶揄されるほどの弱さだ。しかし、銀治の心には、行方不明の父親を思う強い思いがあった。 ある日、クラスメイトの春森新司からレイド戦への参加を強要され、銀治は不安を抱えながらも挑むことを決意する。しかし、待ち受けていたのは予想外の強敵と仲間たちの裏切り。絶望的な状況で、銀治は新たなスキルを手に入れ、運命を切り開くために立ち上がる。 果たして、彼は仲間たちを救い、自らの運命を変えることができるのか?友情、裏切り、そして成長を描くアクションファンタジーここに始まる!

現代ダンジョンで成り上がり!

カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる! 現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。 舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。 四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。

この世界にダンジョンが現れたようです ~チートな武器とスキルと魔法と従魔と仲間達と共に世界最強となる~

仮実谷 望
ファンタジー
主人公の増宮拓朗(ましみやたくろう)は20歳のニートである。 祖父母の家に居候している中、毎日の日課の自宅の蔵の確認を行う過程で謎の黒い穴を見つける。 試にその黒い穴に入ると謎の空間に到達する。 拓朗はその空間がダンジョンだと確信して興奮した。 さっそく蔵にある武器と防具で装備を整えてダンジョンに入ることになるのだが…… 暫くするとこの世界には異変が起きていた。 謎の怪物が現れて人を襲っているなどの目撃例が出ているようだ。 謎の黒い穴に入った若者が行方不明になったなどの事例も出ている。 そのころ拓朗は知ってか知らずか着実にレベルを上げて世界最強の探索者になっていた。 その後モンスターが街に現れるようになったら、狐の仮面を被りモンスターを退治しないといけないと奮起する。 その過程で他にもダンジョンで女子高生と出会いダンジョンの攻略を進め成長していく。 様々な登場人物が織りなす群像劇です。 主人公以外の視点も書くのでそこをご了承ください。 その後、七星家の七星ナナナと虹咲家の虹咲ナナカとの出会いが拓朗を成長させるきっかけになる。 ユキトとの出会いの中、拓朗は成長する。 タクロウは立派なヒーローとして覚醒する。 その後どんな敵が来ようとも敵を押しのける。倒す。そんな無敵のヒーロー稲荷仮面が活躍するヒーロー路線物も描いていきたいです。

「残念でした~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~ん笑」と女神に言われ異世界転生させられましたが、転移先がレベルアップの実の宝庫でした

御浦祥太
ファンタジー
どこにでもいる高校生、朝比奈結人《あさひなゆいと》は修学旅行で京都を訪れた際に、突然清水寺から落下してしまう。不思議な空間にワープした結人は女神を名乗る女性に会い、自分がこれから異世界転生することを告げられる。 異世界と聞いて結人は、何かチートのような特別なスキルがもらえるのか女神に尋ねるが、返ってきたのは「残念でした~~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~~ん(笑)」という強烈な言葉だった。 女神の言葉に落胆しつつも異世界に転生させられる結人。 ――しかし、彼は知らなかった。 転移先がまさかの禁断のレベルアップの実の群生地であり、その実を食べることで自身のレベルが世界最高となることを――

巻き込まれた薬師の日常

白髭
ファンタジー
商人見習いの少年に憑依した薬師の研究・開発日誌です。自分の居場所を見つけたい、認められたい。その心が原動力となり、工夫を凝らしながら商品開発をしていきます。巻き込まれた薬師は、いつの間にか周りを巻き込み、人脈と産業の輪を広げていく。現在3章継続中です。【カクヨムでも掲載しています】レイティングは念の為です。

ダンジョン配信 【人と関わるより1人でダンジョン探索してる方が好きなんです】ダンジョン生活10年目にして配信者になることになった男の話

天野 星屑
ファンタジー
突如地上に出現したダンジョン。中では現代兵器が使用できず、ダンジョンに踏み込んだ人々は、ダンジョンに初めて入ることで発現する魔法などのスキルと、剣や弓といった原始的な武器で、ダンジョンの環境とモンスターに立ち向かい、その奥底を目指すことになった。 その出現からはや10年。ダンジョン探索者という職業が出現し、ダンジョンは身近な異世界となり。ダンジョン内の様子を外に配信する配信者達によってダンジョンへの過度なおそれも減った現在。 ダンジョン内で生活し、10年間一度も地上に帰っていなかった男が、とある事件から配信者達と関わり、己もダンジョン内の様子を配信することを決意する。 10年間のダンジョン生活。世界の誰よりも豊富な知識と。世界の誰よりも長けた戦闘技術によってダンジョンの様子を明らかにする男は、配信を通して、やがて、世界に大きな動きを生み出していくのだった。 *本作は、ダンジョン籠もりによって強くなった男が、配信を通して地上の人たちや他の配信者達と関わっていくことと、ダンジョン内での世界の描写を主としています *配信とは言いますが、序盤はいわゆるキャンプ配信とかブッシュクラフト、旅動画みたいな感じが多いです。のちのち他の配信者と本格的に関わっていくときに、一般的なコラボ配信などをします *主人公と他の探索者(配信者含む)の差は、後者が1~4まで到達しているのに対して、前者は100を越えていることから推察ください。 *主人公はダンジョン引きこもりガチ勢なので、あまり地上に出たがっていません

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

処理中です...