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「52話」

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スキップしそうな勢いで、扉の中へと突撃する俺。

……何てことはさすがにしない。しないよ?


まずは荷物を下ろしてポーション飲んで盾を構え、何時ものようにそろーっと扉を開けて中を覗き込む。

特に攻撃される事は無いので、遠距離攻撃持ちは居ない、と……じゃあ次は中を良く観察してみよう。

そして俺はさらに扉から顔を出して、中の様子を窺う……するとそこには良く見知った生き物がぽつんと立っていた。


「……ジンギスカン」

ジンギスカンがいた。



「違うわ、羊だ羊」

焼肉の食いすぎかな?


しかし、見れば見るほど普通の羊にしか見えない。
やたら白くてモコモコしているけれど、ダンジョン内だと汚れないからだろうか?

なぜか体を上下にふよんふよんと揺らしていて……なんか可愛いぞ。ゆるキャラ感があるなあ。


「鹿の後だとずいぶん可愛く見え……見えない!」

まあ、なんにせよ今まで相対してきた敵と比べれば大分可愛……なんかバチバチしてるんですけど。

「なんで帯電してるのぉ……」

騙された。
何がゆるキャラ感だよ! めっちゃ帯電してバッチバチしてるじゃん! あちこち放電してるし殺意しかねーですわ。

あの上下運動は発電のためだったのか、まじで騙された。

「やべーよ、殺意高いのばっかじゃん」

そもそもダンジョンに可愛いとかそう言うの求めた俺が間違いだった。
あれはモンスターなのだ。ぱっと見可愛かろうがモンスターなのである。



バチバチする前に倒せば良かったのだろうけど、もう遅い。

今から帯電中のあいつと対峙せねばいかんのだ。

武器で攻撃するのはやめた方が良いかも知れない。
金属だし、電気いっぱい通しそう。

となるとやっぱ盾かな? 手袋もしているし、こっちの受けるダメージは大分減ると……いいなあ。


「いくよ……ちょっと距離とってね」

ま、行きますかね。

クロと俺だと、間違いなく俺が食らった方がダメージは少ない。
まず俺があいつを止めるなりして、そこをクロに攻撃してもらおうか。
クロの爪や牙ならあの電撃を受けずに済みそうだしね。


クロに一声掛けて部屋に入ると羊がこちら目がけて駆け寄ってくるが……動きは大分遅かった。

これなら避けるのも楽そうではあるが、避けた時にこいつが何をするか分からないのがアレだ。

電撃飛ばしてくるかもだしね。
俺に来るなら良いけど、クロに向かったら最悪だ。

いくらクロが素早かろうと電撃を避ける事は出来ないだろう。


と言うわけで、俺は覚悟を決めて羊の体当たりを盾で受け止めた。



「っっんっがぁ!」

ぽふんと言った感じの体当たりなのに、恐ろしい破裂音と共に盾を持つ腕にかなりの衝撃が走る。

血管が破裂するとか、腕がはじけ飛ぶとか、ぱっと見はそこまでのダメージは無いがそれでも腕が痺れて感覚が無い。

目も痛むし耳も痛くて耳鳴りが酷い。


俺は咄嗟に足で羊を蹴り飛ばした。

「んがっ」

すると足にも軽い衝撃と痛み、それに軽いしびれが起きる。
こちらは靴を通してなのでダメージが少なくて……いや、違うな。最初に盾で受け止めた段階で溜めていた電気の大半を消費したのだろう。

だから足にはダメージが余りなかったのだ。


蹴飛ばした羊に向かい、クロが爪を振るう。

分厚い毛が邪魔をするのか、一撃で仕留める事は出来なかった。
だが、動きの鈍い羊に対して追撃を加えるのはクロに取っては容易い事だ。

程なくして羊は床に沈み動かなくなった。


「タフだなこいつ……やっと感覚戻ってきた」

戦闘が終わるころには事前に飲んでおいたポーションのお陰で、痺れや痛みはほぼ治っていた。

強いか弱いかと言われると何とも言えないが答えになる。
俺との相性が悪いだけで、クロとの相性はよさそうだ。

これで動きまで早かったらきつ過ぎるけど、動きは遅いからね。
クロが距離を取りつつ戦えば問題なく倒せる相手だろう。

でも俺にはちと無理だ。
2~3発くらったら動けなくなると思う。
やるとしたらいらないナイフを投げ……全部ポイントに変換したんだった。

もう逃げ回るしかねーですわ。

「こりゃクロに頼るしかない……いけそう?」

クロだけに頑張ってもらうのは心苦しいけど……そう思い、クロに尋ねてみるが、クロは嬉しそうにうにゃーと鳴くと、階段を下りて先に進もうとする。

……トカゲに鹿と苦手な敵が続いていたからフラストレーションが溜まっていたのだろうか、階段を降りるクロはすごく嬉しそうで……っと、いかん置いて行かれる!

とりあえずこの羊はバックパックに突っ込んでと、入るかな? 入ったわ。
足の先っちょ出てるけど入ったことにしよう。

羊を詰め込んだ俺は、慌ててクロの後を追うのであった。


その後、昼食の時間になるまでクロは羊を狩って狩りまくった。

羊はやはりタフで、クロの爪はもちろん牙でも一撃では致命傷に至らない。
さらに分厚い毛のせいで、氷礫もあまり効果がないようだ。
もちろん足を狙えば凍り付いた地面と毛がひっつき、いい感じで足止めは出来る……が、ダメージはあまりないのと、ぶっちゃけ足止めしなくてもクロなら関係ないんだよね。

最終的には比較的防御の薄い顔を狙うことで短時間で倒せるようになっていた。
ちょっとばかし顔面がスプラッターになっていたけれど……気にしちゃいけない。


で、昼食なんだけど。
さっそく獲れたばかりの羊を焼いて食うことにした。

マーシーにお願いして焼いてもらったのは、よくラムチョップとか呼ばれている部位である。
どう考えても大人な個体だから、マトンチョップとか呼んだほうが良いのかもだけど、まあ気にしたもんではない。
美味しければ良いのだ。


そして実際に羊肉はおいしかった。

「んほほほっ! ……うっま!」

「ありがとうございます」

羊独特の匂いがほぼ無いね。
まあ、あっても食い慣れてるからそこまで気にならないんだけど。

それより驚いたのが。

「羊ってレアでも行けたんだね。 本当うまいわこれ」

羊ってレアでも食えるって知らなかった。
ちょっぴりピンクなお肉がジューシーでうまし。

「クロもいっぱい食べるんだよー」

クロの反応も上々である。
自分が主力となって狩った肉なもんで、余計美味しく感じているのかもね。

「ポイントも良くて肉旨いし、良いね羊」

ちなみにポイントだけど、1匹で6000ポイントになったよ。
たぶん大部分が毛だろうね。

戦闘中あんだけバチバチいってた毛だけど、戦闘が終わって触ってみると、ごく普通の毛だったんだよね。
あ、放電しないって意味でね? 手触りとかはすっごい良かったよ。これで何か作ったらすごい良い感じの出来そうな気がする。

この毛はお肉と同じで誰かに渡しても大丈夫かもね、ぱっと見は普通の毛だし。

お肉も美味しい、ポイントも良し、そして何よりクロが楽しそう。
これでカードもよかったら完璧だな!





「羊肉飽きたでーす」

3週間羊肉続いてるんですぅ。

マーシーの用意するお肉は美味しいけれど、さすがに飽きる。


「羊も飽きたでーす……」

と言うか羊自体に飽きてきている。

てかちょっと前にもこんなことあったなっ!


それもこれも羊のカードの効果が良すぎたのがいけないんだ。
誰だよカードも良かったら完璧だなとか言ったの。

いやまあ……実際かなりぶっ壊れ性能じゃ無いかと思うんだよね、これ。

「全ての属性攻撃に対する耐性を上昇(7%)」って効果なんだけどね、7%って少ないと思うけど、全属性って書いてあるし、あとこれも鹿と同じで3枚まで効果あるっぽいのね。
つまり全属性に21%耐性付くって事。

あとこれ、全属性があるってことは各属性もあるはず。
それと合わせたらもっとカット出来るって事だよねたぶん。

こりゃ集めるしかねーですわ、とクロと一緒にひたすら狩ることにしたのである。
今回はクロがメインアタッカーになるので……と言うか俺だとダメージがちときつい。 一応既に3枚羊カードをセットしているので、大分ましにはなってるんだけどね。

多少痺れるけど耐えられない程では無い……21%カットの割には結構楽になるなーと思ったけど、たぶんこの21%カットって俺が食らうダメージをカットするんじゃなくて、元々の威力っていうのかな? それを21%カットするんだと思う。

羊の電撃ダメージが100として、俺は盾とか手袋で軽減して60しか食らわないとする。
ここから21%カットってことで、羊の電撃ダメージが79になり、食らうダメージが39になる見たいなイメージ。

たぶん実際に食らった感じ、それであってると思うよ。

てかこのカードさ、羊出てくる前に入手出来ないとダメなんじゃないかなーと思うのです。
羊を狩るのに有用なカードが、羊を狩らないと出ないってどうかと思うんですがっ。
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