上 下
77 / 156
森の賢人

「76話」

しおりを挟む

「アグレッシブ過ぎんだろお!?」

木々をなぎ倒して止まった巨大魚はその場でピチピチ……というかズシンズシンと跳ねている。

あれ食らっていたらどうなっていたことか。
食われるか潰されるかどちらにしろ痛いじゃすまなかったかも知れない。
本当、冷や汗もんですわ。

「……餌ってこういうことね。 縄張りに入ると即襲いかかってくると」

いくら縄張りに近付いたからといってアグレッシブ過ぎやしませんかね。
……まあおかげ捕まえる手間が省けたけどさ。 お魚が自ら陸に飛び出すってどうかと思うのです。

「食われないように気を付けるニャ」

「へっ?」

食われないようにとタマさんが俺に注意するが、ちょっと遅くやありませんかね…………なんかすっごい嫌な予感がしたのでバッとお魚の方を振り返る。



我ながらナイス判断だった。
さっきまでズシンズシンと跳ねていた巨大魚が、地面をズリズリと這うように猛スピードで俺目がけて突っ込んできていたのだ。

元気過ぎんだろォォオ!?

「あぶなーい!?」

デッドボールを避けるときのように腰をぐいっ引いて飛び退る俺。
巨大魚はガチガチと歯を鳴らし、俺の横を掠めるように過ぎていく。

メキョリと鈍い音がして、俺の変わりに噛まれた木が食いちぎられていた。

「がんばって捕まえるニャ」

「どうやって!!?」

ちょっと無理があるんじゃないデスカねっ!?
あれの正面に立ちでもしたら間違いなく食われる、盾とかおかまいなしに一口だろう。
かといって横からとなるとあの巨体と早さを考えるとこれも厳しい。

「触手で何とかするニャー」

「蔦だから! これ蔦だからね!」

触手じゃないってば!

くそうタマさんめ……でも突っ込み入れたおかげか、何か冷静になれた。

でかいと言っても所詮はお魚、蔦の網で捕まえてやるわ!



どうせまた俺を食おうと突っ込んでくるのだろう。
ならばと俺は蔦を伸ばして編み上げ、あの巨体が何とか収まるぐらいの網を用意した。

すると丁度タイミング良く巨大魚がつっこんで……というか飛び掛かってきたので、網を広げ受け止める。

あ、もちろん俺本体は横に逃げております。
ひかれちゃうからね。

「どっせい!」

すっぽりと網にくるまれ暴れるお魚を押さえつけようと、網の目をぎゅっと絞っていく。

巨大魚も自分がとらわれた事が分かるのだろう、身をぐるんと回転させ、湖のほうへと向かい逃げようとする。

「いだだだだっ!?」

この巨大魚、力が半端じゃない。

足元に根っこをはった俺事引っ張ってぐいぐい地面を這っていくのだ。

こりゃかなわんと周囲の木々に蔦を伸ばしまくって踏ん張り……それでもしばらく進んだところようやく巨大魚動きを止めた。

つってもまだ暴れてはいるけど、その場でビッチビチしてるだけである。
もう逃げられまい。

「……つ、捕まえた」

疲れた……。
まさか釣りに来たつもりがこんなことになるなんて……まあでも後は普通に釣れば良いんだし。 タマさんと一緒に釣りしてお魚いっぱい食べ……る……この巨大魚どうするの?

どう考えてもこいつ食べるとなると他にお魚なんていらないよね?


「ニャ。 あとはまかせろニャー」

そう言ってやたらと長い包丁やらなんやら……道具一式をもったタマさんがトコトコとこちらへ向かい歩いてくる。

やっぱ食べるのねこいつ。


タマさんはまだ暴れている巨大魚に近付くと、ひょいと頭の上にのった。

そしてその前足を巨大魚の頭にてしっと叩きつけると……破砕音と共に地面がべっこりと割れ、魚がピクリとも動かなくなった。

前足を押し当てただけでこの威力…………いや、お魚捕まえるだけなら最初からそうすれば良かったんじゃ……え、それじゃお魚の捕まえ方が身につかないだろうって? うん……まあ、確かに。


気絶した?巨大魚をやたらとぶっとい紐で縛り上げたタマさん。
木を利用して巨大魚を宙吊りにし始める。

「あ、それ吊るす用だったのね」

「吊るしたほうが切りやすいニャ」

吊したほうが切りやすいかー。
そういやそんなお魚居たような……アンコウだっけ? 吊して切る奴。

言われてみればこの巨大魚なんかそれっぽい見た目してなくもない。
胴体に比べてでっかい頭部とかまさにそんな感じだ。

ただ、鱗が怪しげに光ってて丈夫そうだったりとアンコウがでかくなっただけって訳じゃ無さそう。

あの鱗うまく剥げるんだろうか?


吊し終わった巨大魚にタマさんが包丁もって近付いていく。
どうやらすぐに解体するつもりのようである。

一体どこから切るのかなーと思っていると、何やら首元にぶすっと包丁を刺して、次に尻尾をぶすっと、腹をちょっと裂いてぶすっと刺している。

刺したところから血がだばだばと流れているので太めの血管を切ったのだろう。
血抜きってやつですな。

「اسحب هذا الدم إلى الخارج」

「おー……」

こんだけでかいと時間掛かりそうだなーと思っていたら何やらタマさんが魔法を使った。

するとだばだばと流れているだけだった血が、蛇口を全開にあいたような勢いで噴き出し始めた。

血はやがて一箇所に集まり、丸くて巨大な血塊が一つ出来上がる。

「いるかニャ?」

絶対いりません。
しおりを挟む
感想 171

あなたにおすすめの小説

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

転生5回目!? こ、今世は楽しく長生きします! 

実川えむ
ファンタジー
猫獣人のロジータ、10歳。 冒険者登録して初めての仕事で、ダンジョンのポーターを務めることになったのに、 なぜか同行したパーティーメンバーによって、ダンジョンの中の真っ暗闇の竪穴に落とされてしまった。 「なーんーでーっ!」 落下しながら、ロジータは前世の記憶というのを思い出した。 ただそれが……前世だけではなく、前々々々世……4回前? の記憶までも思い出してしまった。 ここから、ロジータのスローなライフを目指す、波乱万丈な冒険が始まります。 ご都合主義なので、スルーと流して読んで頂ければありがたいです。 セルフレイティングは念のため。

攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?

伽羅
ファンタジー
 転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。  このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。  自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。 そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。 このまま下町でスローライフを送れるのか?

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ステータスブレイク〜レベル1でも勇者と真実の旅へ〜

緑川 つきあかり
ファンタジー
この世界には周期的に魔王が誕生する。 初代勇者が存在した古から遍く人々に畏怖の象徴として君臨し続ける怪物。 それは無数の魔物が巣食う、世界の中心地に忽然と出現し、クライスター星全土に史上、最も甚大な魔力災害を齎したとされている。 そんな異世界に不可解に召喚されてから激動の数年間を終え、辺境の村に身を潜めていた青年、国枝京介ことレグルス・アイオライトは突然、謎の来訪者を迎えることとなった。 失踪した先代と当代の過去と現在が交差し、次第に虚偽と真実が明らかになるにつれて、暗雲が立ち込めていった京介たち。 遂に刃に火花を散らした末、満身創痍の双方の間に望まぬ襲来者の影が忍び寄っていた。 そして、今まで京介に纏わりついていた最高値に達していたステータスが消失し、新たなる初期化ステータスのシーフが付与される。 剣と魔法の世界に存在し得ない銃器類。それらを用いて戦意喪失した当代勇者らを圧倒。最後の一撃で塵も残さず抹消される筈が、取り乱す京介の一言によって武器の解体と共に襲来者は泡沫に霧散し、姿を消してしまう。 互いの利害が一致した水と油はステータスと襲来者の謎を求めて、夜明けと新たな仲間と出逢い、魔王城へと旅をすることとなった。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

処理中です...