上 下
44 / 156
木の中にいる

「43話」

しおりを挟む
「素晴らしく美味しい果物でした……これ、いくつでも作ることが出来るのですか?」

布巾で口元をぬぐい、落ち着いた雰囲気でそう話すリタさん。
でもさっきまでの取り乱した様子はばっちり脳内に保管済みなのでもう手遅れだと思います!

「あ、いやそう言うわけじゃないです」

作れはするんだけどね。
ここは嘘ついちゃおう、禿げ山量産する気はねーのです。神様のならいくらでも歓迎するけど。

「そうでしたか……残念ですが安心しました。相場が崩れるようなことは無さそうですね」

残念てのは自分が食えないからだろう。ふふふ、お願いしてくれたら何時でも出しますよ?
お礼はデートでいいでひゅぅっ!? ちょ、タマさんいきなりなんで猫パンチを……え、タマの分が減る? あ、はい分かりました。爪にょきってしないでっ!

「自分達の分を確保するので精一杯ですからね」

タマさんとの無言の会話によりそうなりました。
んもータマさんてば欲張りなんだからー。

「それではお時間取らせてすみません、こちら今回提供頂いた情報への報酬となります……どうぞお納めください」

「ありがとうございます」

結構ずっしりと重たい袋を手渡された。
中身確認したいけど我慢である。
あとで寝る前にでもこっそりのぞいてみよう。

リタさんは袋を俺に渡すとぺこりと頭を下げ、そして再び受付へと戻っていった。

見えなくなったのを確認してふいーと息を吐く。
美人と話すのは緊張しますなあ。……納品してとか言われるかなと少しだけ身構えてたけど杞憂に終わった。

そうは見えなかった? 身構えて態度に出ちゃってもあれだしね、そのへん気を付けてたのですよ。ふふり。

「そろそろ梨が食べたいニャー」

「あいあい」

タマさん本当マイペースね。
そこが良いんだけどね! あ、梨食べているあいだモフっていいです? ……タマさん? あれ、さっきまで意思疎通出来てたのにおっかっしいなー? タッマさーん?

手を伸ばしたらはたかれた。ひどい。





オーガを狩り始めてからそろそろ1週間が経とうとしていた。
だが未だに装備持ちはその姿を現さない。

「装備持ち本当にいないねえ」

「そんな簡単にでたら苦労しないニャ」

そろそろ500匹近く狩ってることになるんだけどね。
オーガとの戦闘にも慣れて大分狩る速度も上がってきたよ。
あとレベルも結構上がってきてる。ガードの上から昏倒させるたりも出来るようになったし、徐々にだけど強くなってきてるなと実感する。

徐々にといっても他の人と比べたらとんでもなく成長早いらしいけどね。


「そういやさタマさん」

「ニャ?」

狩りをしていると時々敵がまったく居ないタイミングがあったりする。
ずっと待ってるのも暇なんでこんな時はタマさんとおしゃべりするに限るのです。
コミュニケーションは大事だからね、モフれる確率が大分変わってくる。

「向こうに見える建物って何なんだろ?」

中層にきてからずーっと気になっていたあの建物について尋ねてみる。
それなりに距離があるにも関わらずしっかり見えているので、結構な規模の建物があるはずだ。

「集落ニャ」

「へー……へ? しゅ、集落? ダンジョンの中に?」

え、誰か住んでるってこと?
こんなモンスターわきまくりな場所なのに……。

「オーガのニャ」

……うん。ソーダヨネ。
こんなとこに人が住むわけないじゃん!ちょっと考えれば分かるだろ俺ぇ。

しかし集落ね。
……特別な個体とかいるのかな?装備持ちとかいたら嬉しいけども。

「あーなるほど。 ……もしかしてそこに装備持ちがいたり?」

「居ることもあるニャ。 でもまず居ないニャー」

まーそうだよね。
居たら真っ先に狙われるもんね。

集落がしばらくの間健在ってことはそこまで攻める旨味がないってことだろう。
それか旨味があっても手を出せない理由があるか。


「残念、そう上手くはいかないか。 でも集落ねえ……宝物があったり、ボス的なものがいたりするのかな?」

「死んだシーカーの荷物があったりするニャ。 あとは集落には大抵長が居るニャ」

「荷物かー……それはちょっち気まずいなあ。 長はやっぱ強いのかな?」

荷物はちょっと。
亡くなった方の持ち物だし……手をつけるのは気が引ける。


それよりも長ですって奥さん。
いかにもって感じですごく良い。

「強いのニャ。 倒すなら単体でも推奨レベル40ぐらいニャ。集落丸ごとやるなら50ぐらいニャ」

「わー厳しい。それってしかもパーティー組んでだよね? しばらくは無理だねー」

割と無理ゲーな感じだった。
今ソロで突っ込んでも確実に死ぬね。
タマさんと一緒ならいけるだろうけど、それだと俺はただの足手まといだしー。

当面の間は行くことなさそうだ。

「ニャ。焦りは禁物ニャ。 まずは5体に囲まれても大丈夫になるニャ」

「5体はさすがにまだきつい……」

4体までは何とかいけるんだけどね。
蔦の扱い大分慣れてきたし、出会い頭に1体は潰せる。
武器か防具を叩きつけたと同時に蔓を這わせて目に突っ込むのである。あとは中身をシェイクするだけの簡単なお仕事です。
んで、残りの3体を無理せず蔦を駆使して削っていけば無傷ですんでしまう。

これが1体追加になっただけで、攻撃する余裕がなくなるんだよね。
蔦を這わせてどうにかする前に、相手の攻撃をどうにか防ぐ必要があってどうしても後手に回ってしまうのだ。
5体同時に相手にするにはもう少し基礎能力上げないとダメそうである。
それか新たな能力を見つけるかだ。

新たな能力については時間が空いた時に色々と検証はしているけど、まだ分かっていない。
何となくまだまだありそうな気はしてるんだけどね。
しおりを挟む
感想 171

あなたにおすすめの小説

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

転生5回目!? こ、今世は楽しく長生きします! 

実川えむ
ファンタジー
猫獣人のロジータ、10歳。 冒険者登録して初めての仕事で、ダンジョンのポーターを務めることになったのに、 なぜか同行したパーティーメンバーによって、ダンジョンの中の真っ暗闇の竪穴に落とされてしまった。 「なーんーでーっ!」 落下しながら、ロジータは前世の記憶というのを思い出した。 ただそれが……前世だけではなく、前々々々世……4回前? の記憶までも思い出してしまった。 ここから、ロジータのスローなライフを目指す、波乱万丈な冒険が始まります。 ご都合主義なので、スルーと流して読んで頂ければありがたいです。 セルフレイティングは念のため。

攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?

伽羅
ファンタジー
 転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。  このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。  自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。 そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。 このまま下町でスローライフを送れるのか?

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ステータスブレイク〜レベル1でも勇者と真実の旅へ〜

緑川 つきあかり
ファンタジー
この世界には周期的に魔王が誕生する。 初代勇者が存在した古から遍く人々に畏怖の象徴として君臨し続ける怪物。 それは無数の魔物が巣食う、世界の中心地に忽然と出現し、クライスター星全土に史上、最も甚大な魔力災害を齎したとされている。 そんな異世界に不可解に召喚されてから激動の数年間を終え、辺境の村に身を潜めていた青年、国枝京介ことレグルス・アイオライトは突然、謎の来訪者を迎えることとなった。 失踪した先代と当代の過去と現在が交差し、次第に虚偽と真実が明らかになるにつれて、暗雲が立ち込めていった京介たち。 遂に刃に火花を散らした末、満身創痍の双方の間に望まぬ襲来者の影が忍び寄っていた。 そして、今まで京介に纏わりついていた最高値に達していたステータスが消失し、新たなる初期化ステータスのシーフが付与される。 剣と魔法の世界に存在し得ない銃器類。それらを用いて戦意喪失した当代勇者らを圧倒。最後の一撃で塵も残さず抹消される筈が、取り乱す京介の一言によって武器の解体と共に襲来者は泡沫に霧散し、姿を消してしまう。 互いの利害が一致した水と油はステータスと襲来者の謎を求めて、夜明けと新たな仲間と出逢い、魔王城へと旅をすることとなった。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

処理中です...