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木の中にいる
「30話」
しおりを挟む「生えたニャ。 これがリンゴかニャー」
微妙な気持ちな俺とは裏腹にタマさんは大はしゃぎである。
リンゴをまん丸な目で見つめ、スンスンとしきりに匂いをかいでいる。
分かる、リンゴって結構良い匂いするもんね。
しかしどうしたもんだろうか? これたぶんリンゴなんだろうけど……普通は人の体から生えるもんじゃないし、こんな短時間で実が出来るもんじゃない。
食べても大丈夫だろうけど……どこかで見て貰ってからのほうがいいだろうね、タマさんには悪いけど毒とかだったら洒落にならないし……などと俺が考えているときであった。
「いってええええっ!?」
「えっ、それ痛いの??」
腕に激痛……ってほどじゃないけど痛みが走る。鼻毛抜かれたぐらい。
不意打ちだったため思わず叫んでしまった。
なぜ痛みが走ったかはすぐ分かった。このにゃんこ、いつの間にかリンゴをもいでたのだ。
それ自体は別にたいした問題ではないんだけど……カールさんがビックリしたように言うが、俺自身もまさか痛いとは思ってなかった。ビックリだよ。
「躊躇せず食ったぁ!?」
そして俺が痛みに混乱しているあいだに、このタマさん躊躇うことなくリンゴに齧り付きおった。
毒だったら怖いから止めようとか、もうそんなことする間も無くパクリといきおった。
「……っうまいニャー!!」
そして俺産の林檎は美味しかったらしい。
尻尾をピーンとさせ、リンゴに夢中になって齧り付くタマさんの姿はとても可愛らしく見てて幸せな…………じゃなくてっ、毒かも知れないから止めなきゃだ!
「いや、ちょっ……食うのストップ! って離す気微塵もなさそうねっ!?」
食べるのを止めさせようと手を伸ばすが、タマさんは両腕でリンゴをガッシリとホールドすると、リンゴに齧り付いて決して離そうとしない。
「めちゃくちゃ美味しいニャ! これはタマのニャ、絶対わたさないニャー!!」
「あだだだだっ!? と、とらないから蹴らないでぇっ」
それでも何とか止めないと……そう思いリンゴへと手を伸ばすが、タマさんが後ろ足でガシガシガシッといわゆる猫キックで抵抗してくる。可愛い。
……でも威力は可愛くないぞ。手加減はしているのだろうけど、俺の右腕が押し戻されるぐらいの威力はある。
そうこうしている内にもリンゴはタマさんのお腹へと収まっていき……俺は止めるのを諦めたのであった。
数分後、タマさんはリンゴを芯だけ残してすっかり平らげてしまっていた。
苦しむとかそういう様子もないので少なくとも毒ではなかったらしい。それが分かり俺も少しほっとしている。
「しかしお前……まさか木の実がなるとはなあ」
いや、本当だよね。
ゴリさんが呆れたような表情で俺の右腕を眺めている。
ちなみに生い茂っていた枝葉だけど、タマさんがリンゴをもいだ直後からシュルシュルとオレの腕に収まっていき、今では元の姿へと戻っている。
「もっとリンゴだすニャー」
「自分もまさかなるとは思ってなかったです……はいはい、リンゴね……っふん!」
ご飯も食べたし、リンゴも結構でかかったのにまだ食べますか。
お腹壊してもしらないぞっと……腕をてしてしと叩いてリンゴくれとアピールするタマさんのリクエストに応えるため、俺はリンゴよなれと意思をもって腕を見つめる。すると腕からぴょこんと芽が出たかと思うとあれよあれよという間に再び枝葉が生い茂り、立派なリンゴが一つ枝からぶら下がっていた。
俺はリンゴをむんずと掴むと息を吸って吐いて吸って止めて……気合いの声と共に一気にリンゴを枝からもぐ。
ブチッと音を立ててリンゴがもげるが……やっぱ地味に痛い。耐えられないほどじゃないんだけど、ちょっぴり涙目になりそうなそんな痛みである。
「それやっぱ痛いのか?」
「そうっすね……全身の鼻毛を毟られるぐらいです」
「どういう例えだよ。普通に毛でいいじゃねえか……」
……うん、たしかにその通りだ。
全身の鼻毛とかわりと意味不明である。
ゴリさんは呆れたような表情を浮かべるが、その目はじっと俺の腕を見つめたままだ。
……な、なんでしょう?
「……すまんが、俺たちも貰ってもいいか?」
「もちろんっすよ」
なんだゴリさんも食べたかったのね。
もちろん良いですとも。俺産のリンゴをたらふく食べるが良い。お腹壊しても責任はとらないけどね!
まあ、ゴリさんだけじゃなくパーティメンバーもやっぱ欲しかったらしく、俺は合計4回リンゴをもぎとる痛みに耐えることとなる……あれ?
「お……おぉ?」
な、なんかフラフラするぞ?
これは前に一度なったことがある……具体的に言うとこの世界にきて二日目ぐらいの時だ。
「ねーねー、ウッドくん急に萎んでない?」
「ええ、何かこれ……やばいぐらいお腹空いて……」
これ絶対リンゴに栄養とか色々持ってかれてる!
お腹がものっすごいへってるし、何より右半身がものすっごい萎んでる。
なんというかもう枯れかけてるんじゃないかってレベルだ。
「よし、飯食え飯!」
「あ、全然足らない……」
これは不味いと思ったんだろう、ゴリさんがテーブル上の料理をかき集め俺の前にどんと置く。
俺もこれはやばそうと思ったので飯をかっこむが……全然足らない。
「森行って吸ってこい! ……だあ、もう行ってくる!」
飯を食ってもダメと判断し、森に行けというが……ちょっとふらついて行けそうにない。
そんな俺をみてゴリさんは肩に担ぎ上げるとギルドを飛び出した。
「おらぁ!」
そして森につくと同時に地面にぶっ挿された。ひどい。
その後、何カ所か位置を変えては地面にぶっさすと言うことを繰り返して俺の右半身は元の太さへと戻っていった。
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