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木の中にいる

「2話」

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あれからそろそろ1週間がたつ。
さすがに毎日地面から養分吸っていると、この木の体にもいい加減慣れてくるものだね。あまり慣れたくはなかったけど……はははっ。

ちなみに今何をしているかというと寝起きに朝食というなの養分をちゅーちゅー地面から吸っているところだったりする……これ腹が膨れるのはいいんだけどやっぱ味気ないというか、そもそも根っこだから味覚もくそもないというか……。

いかんいかん、飢えと渇きから解放されるだけでも良しとせねば。



しかし暇だ。
てかね養分吸うの時間掛かりすぎなんだよね。 食事はさ、ほら手を動かして、噛んで味わってと楽しみがあるじゃない? でもこれただ黙って座ってるしかないんだよね。

うん、暇だ。
暇すぎるので養分吸ってる自分の手足の様子をまじまじと見てみる。
元気に根っこ生やしてますね、はい。
いつも通りですねーふふふー。


本当慣れるもんだよね、ほんと。
はふうと大きなため息が出た。

「最初は本当に神様を呪ったけど……まあ便利っちゃ便利な体だよなあ……便利なんだけど」

……なんというか地味だ、こういかにも吸ってます! って感じで根っこがぐいんぐいん動いたりとか、なんかないのだろうか?
異世界きてこんな体になって出来ることと言えば根っこ生やしてちゅーちゅー吸うだけという。 地味すぎる。


ううむ……せめてぱぱっと一気に養分吸ったり出来ないもんかね? なんて俺が考えたその瞬間だった。

「……っうお!?」

俺の考えに反応したのだろうか根っこが一気に波打ち、養分を吸い始めたのだ。

なんだよやれば出来るじゃまいかマイボディ。
これなら食事?もすぐ終わるなー……って、あれ?

もうお腹はいっぱいな感じなんですけど……?
え、待ってなんか吸いすぎじゃない? な、なんか体がミチミチいいだしたんですけど!?

「おおおぉぉぉっおぉお!?」

地面から急激に養分を吸い上げたからか木の部分がミチミチと怖い音を立てて膨れ上がっていく。
右半身は当初左半身と大差ない太さだった、だがものすごい勢いで膨れ上がったそれは既に元の2倍ほどの太さへとなっている。

「すっごい吸ってる! けどすっごい勢いで枯れてね!?」

そして異変が起きたのは俺の体だけじゃなかったらしい、自分を中心にして半径10mほどの範囲にある草木が猛烈な勢いで枯れだしたのだ。
これ、もしかしてもしかしなくても俺のせいだよね……。
なんか養分というか生命力とかそんなのまで吸っている気がする。

1分ほどで根っこは養分だか生命力だかを吸うのをやめる。
吸っている間ずっと膨れ続けた手足は最終的に元の3倍ぐらいになっていた。

「やべえ……こんなん出来たのかよ」

ごんぶとになった手足をしげしげと眺める。
……なんかもうすっごいマッチョだ。 木なんだけどすっごい肉久々しいというか……すっごい詰まってそうな感じ。

「ところでさっきからこう……力が溢れてやばいってか、なんかハイになってきたんだけど。 これやばくね?」

そう、吸いきってからというもの何というか力が溢れてきて、全能感というかなんか色々と滾っていてやばい。
じっとしているのが辛い……なんだこれ、何か発散させないと不味いんじゃないのこれ。

でも発散させるといったってどうやって……と考えて握りしめた自分の拳を見て、そして目の前にある干からびた感じの大木を見る。
俺は深く考えることなくおもむろに拳を振りかぶり、大木に叩きつけてみた。

「ほぁっ!?」

何気なくやったことだけど思ってた以上の結果がまっていた。
ゴリュッという音と共に拳大に幹がえぐれちゃったのだ……これ、やばい。てか手がむちゃくそ痛い。これ折れたんじゃね?ってぐらい痛い!

攻撃力だけじゃなく防御力もあげてくれよとしばし悶え苦しむ俺であった。


数分後、拳の痛みはすっかり引いていた。
なんていうかこれ回復力?みたいのも上がってる気がする。そうじゃなければあの痛みがこんな短時間で引くはずないし……正直折れたかと思ったね、ほんと。

あと防御力上がってないかと思ったけど、実は上がってるかも知れない。
木の幹をあんだけえぐるとなると鉄製のハンマー叩きつけるでもしないと無理なんじゃないかな? 当然そんな威力でぶっ叩けば拳が無事ですむわけもなく、それで指がぼっきぼきになってない……ただ痛いだけで済んだんだ。防御力も上がっていると考えていいだろう。

しかし……地味な能力かと思ったけどこんな隠し球があったとは。
予想外の能力に思わず頬が緩んでにやけてしまう。

「これ実はチートなんじゃ……いや、まて、待つんだ俺。その判断はまだ早いぞ」


俺はにやけた頬をぴしゃりと叩き、自分に言い聞かせるように呟いた。

何せ比較対象がない。
チートに見えて実はくそ雑魚ナメクジな可能性もある……。
変に調子に乗ると後で手痛いしっぺ返しを食らいかねない。

「とにかく人里に行かんことにはどうにもならんか」

比較対象を探すにしても、これからの生活をどうするかにしてもこのまま森の中にいたんじゃどうしようもない。
ここ10日間ぐらいずっと歩き続けて未だに道を見つけることすら出来ていない……けど。

「でも……この体なら」

そう、さっき木をぶん殴ったときの力。あれがおそらく足でも発揮できるはずだ。片足だけってのがネックだけど上手く行けば……。
そう思い俺は前歩を見据え右足へとぐっと力を込めた。
すると右足は地面をえぐり、まるで何かが爆発したかのような加速度を俺に与えていた。

「うおぉおぉおお!? いってぇぇええっ!!」

予想以上の加速に最初は戸惑って体をあちこちぶつけたけど……何とかコツを掴み木々を避けながら駆け出すことに俺は成功していた。

「やっぱりだ! 全力で走ってるのに全っ然疲れない!」

速度もそうだけど、この右半身は全く疲れなというものを感じなかった。まさに期待通り……いや、期待以上のパフォーマンスを見せてくれる。

高速で移動しているのにまったく疲れない、そのことに俺はまるで今までの鬱屈を晴らすかのように夢中で森の中を駆け抜けた。
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