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81話 「ダンジョン再び 2」

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早朝、ギルドの掲示板を半目でじっと見つめる目つきの悪い男。
宿屋の客の一人、ギュネイである。

(あんま良い情報ないな……)

じっと掲示板を見つめる彼の目が探すのはダンジョンの情報だ。
ダンジョンに行きだしてからしばらく立つが今のところ目立った成果は得られていない、ここいらで何かでかいものを……と考え掲示板を見ていたようだが食指が動くような情報は出ていないらしい。

(アルヴィンたちはそこそこ良いの見つけてるんだよなあ、こっちもそろそろ……)

ざっと張り出された情報を見回して軽くため息を吐くギュネイ。
別に懐が寂しいとかそう言った訳ではない、今までの蓄えだけで一生遊んで暮らせるだけの財産はある。
ただ、宿でちょくちょく自慢げにダンジョンの成果物を見せびらかせているのを見ると……やはり対抗心のようなものが芽生えてくるのだ。
宿の従業員は神の落とし子だ、この世界の情報には疎い。
その分ダンジョンの話を聞くときなどは子供のように目を輝かせて食いついてくるのだ。

「……っと、いけねえ」

そう呟いて顔を掌でほぐすような仕草を見せるギュネイ。
自分たちが得たダンジョンの成果物を見せる、その場面を思い浮かべ自然と顔がにやけそうになっていたのだ。
そんなギュネイの横から掲示板にへと紙が握られた手が伸びていく。

「ちょっと前失礼しますねー」

「ああ……それ、ちょっと見せてくれないか」

ギルド員が掲示板に追加で貼ろうとしていた紙をさっと受け取り目を通す。
その書かれていた内容に今度こそ口角が上がってしまう。

「高さ幅共に5mの隠し扉……! よし、これ受けるぜ」

「え、しかし……それかなりの大物がいると思いますが」

少し渋る様子を見せたギルド員にすっと自らのギルドカードを見せるギュネイ。
カードに表示されていたのはダンジョン踏破者の印だ。

「……失礼しました。あと半時もすれば依頼者が来ますので、交渉は空いている部屋をご自由にお使いください」

「半時ね、了解。いまのうちに仲間も呼び集めておくよ」


それから半時後、ギルドの一室に10名ほどの人間が集まり打ち合わせを始めていた。

「へぇ、良いんじゃない? しばらく大物にありつけてなかったし丁度良い」

そう言ってニッと笑うのは男性陣に劣らず大柄な体を持つヒルデだ。
その他の面々も久々に大物に出会えそうとあって皆乗り気のようである。

「それじゃ、いくらで買うかだが──」

交渉はあっさりとまとまる。
対価として基本の1割と、追加で1割の計2割が報酬としてこの情報を得たものに渡る事となる。
攻略するメンバーに加わればもう少し分け前も増えるが、扉の大きさから自分たちでは無理と判断したようで、早々に辞退する旨をギュネイ達に伝えていた。
一同は契約を交わすと早速隠し扉に向かうべく準備のため宿に戻るのであった。


お昼にはまだ早い時間、宿の厨房がにわかに忙しくなる。
これからダンジョンの隠し扉へと向かうメンバーが弁当を作ってくれと加賀に依頼したのだ。
もしかすると夕食に間に合わない可能性もあるということで、弁当は持っていくのに邪魔にならないぎりぎりの量を用意する事となり、加賀は急ピッチで弁当を作る事になる。

「おまったせー」

「急に依頼してすまないですな、加賀殿」

弁当を受け取ったのはチョビ髭のロレンだ。
他のメンバーに比べ幾分軽装な彼は重量に余裕があるのと後衛であるため前線には出ないという理由から弁当を持つ役となった様だ。

「それじゃ行くとするか」

全員の準備が終わりダンジョンへと向かう一同。
目的の隠し扉までは何も遭遇しなければ歩いておよそ1時間といったところだ。
前日に通った人もいるため、おそらくその時間でたどり着くことが出来るだろう。


「えっと……この先に壁が縦に避けた個所があるみたいね、そこを奥に進むと隠し扉の場所につく……まって、何かいるわ」

精霊を先行させ斥候役をやっていたダークエルフのイーナであるが、前方に何かが居るのを見つけたようだ。
同じく斥候役の長髪の男、カルロも先行し何者であるかを確認しに向かう。

「オークが6体ねえ……それも物陰に隠れるように居ると」

「とりあえず倒さないと進めそうにないな……イーナ、姿隠しの魔法を使ってくれ。ソシエは近づいたら眠りの魔法を頼む」

調べた結果前方にいるのはオークが6体、正面から戦うと消耗が激しいと判断した探索者たちは姿を隠して近づき眠りの魔法を使用するようだ。
何匹かは抵抗するだろうが、起きてる奴だけを奇襲すればさほど苦労せず倒せるだろう。

姿隠しの魔法をイーナが使い、魔法が解けないようゆっくりと近づいていく探索者たち。
近づくにつれ、敵の全貌が見えてくる。

「…………」

オークの群れは見張りであろう1匹を残しいびきを立て眠りこけていた。
気が抜けるギュネイであったがづぐに気を取り直し、握っていたソシエの手に力を軽く籠める。
それを合図にソシエが魔法を発動したのだろう、残っていた1匹もその場に崩れ落ちるように眠ってしまいい。同時にソシエも姿を現す。

「まさか寝てるとはな……」

すべてのオークが寝たことで話し始める探索者たち。
掛かっていた姿隠しの魔法はしゃべったことにより解けたようで、その姿はもう目で見えるようになっている。

「まあ、まともにやってたら面倒な相手だったろうし、良いんだけどさ」

そういって岩の上に腰かけたまま寝ているオークの1体に目を向けるギュネイ。
その1体のみ他と比べて体格がよく、着ている装備もかなり立派なものである。
戦えばそれなりに苦労したであろう。

「ま、こう寝ちゃってれば後は止め刺すだけ……あっ」

あとは止めを刺すだけ、そう探索者たちが楽観した直後にそれは起きた。
岩の上で眠っていたオークが体制を変えた弾みで地面へと落ちていったのである。
その落下地点にいるのはもう1匹のオーク、このままでは2体とも起きてしまうだろう。

「ちっ」

「フッ」

それを見てとっさに反応した地味男sのラドルフとアドルフ。
持っていた弓を即構え狙いを定めると矢を放つ。

狙いは1匹だけ装備の良いオーク、その装備に覆われていない顔の部分である。
狙いは正確で2本ともオークの顔へと向かっていくが、地面に落ちた弾みで頭が跳ね1本は兜にはじかれ、もう1本は下敷きとなったオークの頭部へと突き刺さった。

「まじか……構えろみんな」

一瞬何が起きたかわからずキョトンとした顔をしていたオークだが、その視界に武器を構えた探索者たちを捉えるとその醜悪な顔をさらに歪め探索者たちへと襲い掛かるのであった。 
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