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35話 「夕飯はおさかなです」

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「こっちあいてっぞ」

「お、ほんとだ。らっきー」

バザーをぐるっと一回りした後、一行は夕飯を買うと飲み物を扱っている店に入る。
あたりはすっかり暗くなっているが、この店は夜でも営業しているようだ。

また食べ物の持ち込みが自由な為、回りを見渡すと皆同じように何かしら食べ物を持ち込んでいる。

「俺は……ビールはないよな? そうか……じゃあウォッカをくれ」

持ち込み自由ではあるが、代わりに何か一つ飲み物を頼むシステムのようだ。

注文を取りに来た店員にバクスはビールはなかったのでウォッカを、八木はワイン以外に酒があることに気づきウィスキーを頼んだようだ。
なお、加賀は果汁ジュースを頼んでいた。

「おっし、あったかい内に食おうぜ」

「お前もなかなかチャレンジャーなものを買ったなあ……」

バクスの呆れるような視線の先にあったのは、たこ足を焼いたものであった。
こんがりと焼かれたそれは八木や加賀には美味しそうに見えるが、バクスには得体の知れないものにうつったようだ。

「うちらのとこじゃ割とポピュラーな食いもんだったんすよーっと。 んっ……んぎぎっ」

堅かったのか食いちぎるようにたこ足を食べる八木。
なんとか飲み込むと歯ごたえすっげえと大はしゃぎである。

「見た目あんまよくないからねー」

なれると平気だけど、そういう加賀の手元にあったのは脂の乗りまくった鯖の塩焼きとパンである。

「脂すっごいなー、レモン買っといてよかった……ん、おいし」

魚はをパンに挟むと器用にも頭と中骨、尻尾をとりのぞき、ぱくりとかぶりつく。
パンは少し固めでボソボソしていたが、それが脂をすってちょうど良い感じになっているようだ。

「お、ウィスキーいける……あん? うーちゃんどうした? 口にあわんかったかな」

先ほどから静かだったうーちゃんだが、魚の串焼きを一口かじりお皿に置くとそれっきりもう口をつけてないようだ

うー(……味しない、忘れとったわい)

「ああ、そうだったな。……どうする? ここで調理するわけにいかんし、一度宿戻るか?」

「いあ、宿にもどっても調理道具とか馬車の中だし……うーちゃんちょっとこれ食べてみて?」

絶望したと嘆くうーちゃんをなだめ、自分が食べていたパンを少しちぎり、うーちゃんに渡す加賀。
受け取ったパンを少しだけかじると、もそもそといった感じで食べるうーちゃん。
呑み込んだところであれ?と首をかしげ再びパンにかじりつく。

うー(これ、いけるぞいっ)

「んん? どゆこと?」

加賀から受け取ったパンを美味しそうに食べるうーちゃんを見て、不思議そうにしている八木。
加賀はうーちゃんの串焼きをとり、骨を外しながら口を開く。

「たぶんだけど、パンにおさかな挟んだのが調理した判定になったんじゃないかなー」

「ええ……判定ゆるゆるじゃん」

「厳しいよりいいじゃんー。ほい、うーちゃん」

おさかな挟んだパンをうーちゃんに渡し、自分も残りの分にとりかかる。

「ふむ、まあ判定ゆるいほうが助かるな」

そう言って魚を口の中に放り込み咀嚼すると、間髪入れず酒をあおるバクス。
ちなみにバクスが買ったのは塩をきかせた小ぶりな魚屋をじっくりあぶり、骨まで丸ごと食えるようにしたものだ。

「いつでも加賀が飯作れるとは限らんし、俺が作っておいて後で加賀が挟むなりすれば良いってんなら大分楽になる。あとは加賀が作った料理がどこまで適用されるかだな」

「と言いますと?」

八木の問いに再び口に入れた魚を飲み下すと酒をあおり、口を開く。

「例えば加賀が前に作ったトマトソース。あれを俺が使って料理造った場合加護は適用されるかどうか……他人が作ったものに少し手を加えただけでも適用されるんだ、逆の場合も十分あり得るだろう」

このあたりは帰ったら検証だな。そう言って再び魚を口に放り込む。
大分気に入ったようだ。

うっ(魚もなかなかええもんだの)

「そだねー、海のものは塩漬けとか干物ぐらいしか手に入らないけど……川のならたまに売ってるし、次見かけたら買っておこっか」

うーちゃんも魚は気に入ったようだ、仰向けになりぽっこりふくれたお腹を満足げにさすっている。

「さて、腹もふくれたし戻るとするか」

そう言うとバクスはコップに残ってた酒を飲み干し席を立つ。
その足取りは度数の高い酒をかなり飲んだにも関わらずしっかりしている。

「バクスさん酒強いっすね」

「まあ、それなりにはな。……二人とも明日の予定は決めてあるか? ないならまずギルドに行って情報もらおうかと思うが」

「ボクはそれでいいと思いますー」

「俺もギルドは元々いくつもりだったし、それで構わないっす」

宿への帰り道、明日の予定日を二人に尋ねるバクス。
情報集まるためにも先にギルドに行ったほうが良いだろう、そう判断した二人はバクスの提案に賛同する。



「それじゃそろそろ寝るが……その皿何に使うんだ?」

店をでて間もなく一行は宿へと到着していた。
後は各自部屋に戻り寝るだけといったところで加賀は店員に頼み皿を受け取っていた。

「これはお供え用ですよー」

「お供え?」

お供えと聞いて不思議そうな顔をするバクス。
加賀はパンに残しておいた魚を挟むと手を合わせる。

「精霊さん、今日は港でとれたお魚です。よかったら食べてみてくださいー」

「精霊もくえるのか……?」

「いやあバクスさん、それがきっちり食えるみたいなんすよ」

そう八木が言った直後皿にのっていたパンの三分の一ほどが消えるように無くなる。

「うおっ!?」

驚き声をあげるバクス。いったいどうなっているのか、まじまじとパンを観ようとしたところで残りも消えるように無くなってしまう。

「こんな感じですよー」

「まじで食えるのか……絶対人前ではやるなよ?」

そう念を押したバクスは疲れたように自室へと戻る。
残った二人も皿を店員に返し、今日はそこで解散となった。
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