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22話 「石鹸の出来栄え」

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湯気を立てて並ぶ朝食を前にしてソワソワと待ちきれない様子の八木。
バクスはそんな八木を見て小さく笑うと席について軽く何かをつぶやいた後、二人へと口を開く。

「よし、じゃあ食うとするか」

バクスの言葉に二人はいただきますと一言つぶやくと食事へと取り掛かる。
八木は丸型のパンを手に取ると、手に伝わる温かさからパンがまだ焼き立ててである事がわかりその顔に笑みを浮かべる。

「うひょ、パン焼き立てっ」

そう言って八木がパンにかぶりつくとバリバリと良い音が響く、音からさっするにパンはおそらくフランスパンに分類されるものなのだろう。
一方加賀が手にしたのはコッペパンのようなシンプルなパンである、加賀はパンを開くと中にオムレツを挟み込みかぶりつく。

「うまうま」

「フランスパンは本当焼きたてうまいなあ~」

バクスもおいしそうに食べる二人を見つつパンにかぶりつくと満足そうに頷いた。
その後3人は雑談しつつ朝食を終え、一息つくと今日の予定について話すことにしたようだ。

「さて、今日の予定だが……俺は午前中領主とギルマスの所に行く。二人はギルドに登録に行くんだったか?」

「ああ、そのつもりだぜー」

「あ、ごはんたべたらすぐ行くー?」

「ああ、そう思ってたけど……どした?」

「んにゃー、朝早いと混んでるかなーとか。あと石鹸の出来栄えみてからがいいなーなんて」

どちらかと言えば後者のほうが主な理由な気がしなくもないが、加賀の言葉に八木はたしかに混んでるのは避けたほうが良いかも、と思ったようだ。
それに石鹸の出来栄えを見る…というよりはこちらの世界にきてから濡らした布で体を拭くだけで済ませるのに、八木自身少し耐えられなくなってきたのだろう。
出来れば水浴びを…あわよくば石鹸を使って洗いたい、と思ったようで八木は考え込むそぶりを見せる。
それを見たバクスが口を開く。

「ふむ、ならギルドには俺が戻ってからにした方が良いだろう。二人はまだこちらの世界に慣れていないだろうし、何か面倒ごとが起きる気がする。昼には戻るだろうから二人はそれまで自由にしててくれ」

「は~い」

「了解だぜ」



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「さってと、石鹸はどんな様子かなっと」

「できてるといいねーいい加減石鹸で洗いたいよー」

八木は石鹸をいれた型をそっと手にとると、その表面を指で軽くつつき始めた。
いくつかの石鹸はもう固まっているようで八木が指で突いても指がめり込むことは無かった。
それを見た八木は何か考えるように顎を手にあてると加賀へと話しかけた。

「うん、いくつかはもう使えそうだな」

「えっほんと?」

「これとこれと…あとこれ、もう固まってんね。本当はここからしばらく寝かせるんだけど」

「おしゃー、早速使ってみよっ」

石鹸ができたことがよほど嬉しいのだろう、加賀は井戸へ行こう行こうと声を上げながら八木の袖を引っ張っている。
八木はそんな加賀の様子に苦笑しつつも加賀に引っ張られ外へと向かった。

「とりあえず俺から使ってみるな?」

「うぇ?」

「昨日いったろ、肌荒れるかもしれないって。とりあえず俺使ってみて問題ないようなら加賀も使うと良い」

「そういやそうだった! ……それじゃ悪いけどお願いしてもいーかな?」

「あいよ」

加賀に軽く返事を返した八木は石鹸を手に取ると井戸のそばへと向かい…いきなりがばっと上着を脱いだ。

「ちょっ、八木ストップ! ストーップ!」

「む?」

それを見た加賀が慌てて静止の声をあげる。
ズボンに手をかけていた八木が動きを止めたのを確認すると、加賀はきょろきょろとあたりを見渡しながら八木へと話しかける。

「なにいきなり脱いでんのっ道から丸見えだよ! 衛兵にすたあぁぁーっぷとか言われても知らないよ!?」

「え……いやでもほら、バクスさんも外にある井戸使えって言ってたし大丈夫なんじゃないの? そういう文化なのかもよ?」

「いやいやいやっ、いくらなんでもそんな訳ない……ないよね?」

「どうだろうなあ……あれ使うんでね?」

「? なになに?」

あたりを見回していた八木が何かに気が付き家の壁へと向かう。
そこには人ひとり隠れるのに十分な大きさの立て板が置かれていた。

「ほら、たぶんこれ使うんだろ。人ひとりなら十分隠れれるし」

「……うん、こっち側から見えないしたぶんだいじょぶと思う」

加賀に確認してもらい道側から見えないことを確認した八木は立て板に隠れ再び服を脱ぎだした。
そして服を脱ぎ終えると井戸か水を汲み上げ、石鹸を濡らし指先で軽く泡立てると出来た泡を腕に少しだけつけていく。

「さてどうなるかな…」

3つ共つけ終えた八木はそのまましばらく様子を見ていたが、10分ぐらい立った頃石鹸を洗い流す。
しばし洗い流した跡を観察していた八木だが何か納得したようにふむと独り言ちると、改めて石鹸を泡立て体や髪を洗いはじめた。

八木が立て板に隠れてからおよそ20分ほど立っただろうか、軽く引きずるような音と共に立て板が動かされそこからひょいと八木が顔をだした。
八木は自分に背を向け石鹸を眺めている加賀を確認すると声をかける。

「加賀~、悪いけどそのへんにおいてある布とってくれー」

「ほいほいタオルだよ~……うげっ」

八木の声に返事をした加賀は用意しておいた布を八木へと手渡そうと振り返り…立て板で隠しきれていない八木の裸体をばっちり見てしまい思わず声を上げてしまう。
八木は加賀の反応に苦笑いしつつもタオルを受け取り、濡れた体を拭きながら加賀へ話かける。

「うげっておま……、石鹸のほうはこいつだけ問題ないな、そっちの2個は皮膚がひりつくからだめっぽい」

「ほほー」

「あと髪がギシギシするからレモン汁しぼった水で洗い流したほうがいい、これは石鹸だししゃーないな。そのうちシャンプー作るからそれまではがまんしてくれや」

「レモン? レモンねえ…たしか昨日八百屋さんで売ってたのみたかな……ちょっと買いに行きたいんだけど…いいかな?」

「ええぞ、着替えるからちょっと待っててな」

「うん、準備してまってるねー」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


準備を終えた二人はレモンを買いに外へと向かった。
八百屋はバクス宅の近くにあり、ものの数分で目当てのレモンを手に入れる事が出来たようだ。
二人は他に特に用事もなかったのだろう家路につく。
道すがら何気なくあたりを見回していた八木がぽつりと独り言ちる。

「思ってたより治安よさそうだなあ……」

八木としてはただ何となくつぶやいただけであり、これと言って反応を期待していたわけではなかったが独り言が聞こえた加賀が八木の方へと顔を向け話かける。

「そーだね、思ったよりは良さそうだけど…やっぱ何があるか分からないし、しばらくは買い物一緒にいってもらってもいい?」

「おうよ」

ここ数日の間街中を歩いてみた感じ割と治安がよさそうだというのが二人の認識ではあるようだ。
だが同時に何が起こるかわからない為、当分の間ひとり行動はしないほうが良いと二人とも思っている。
こちらの世界に転生して間もなく命の危険に晒された事もあり、慎重になるのは無理も無いことだろう。


その後バクス宅へとついた加賀は早速とばかり井戸へと向かい石鹸を泡立て始めた。
髪のギシギシ感もレモン水を使い洗い流すことで解決できたようであり、肌を痛めるといった事もなく無事……加賀が自分の体にある模様に驚き悲鳴を上げるというトラブルがあったが、無事石鹸作り成功に終わる事となった。
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