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14話 「お出かけ準備」

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パチパチと油が弾ける音と共に香ばしい匂いが漂ってくる。
匂いからして焼いてるのは豚肉だろうか、それにこの音は目玉焼きも一緒に焼いてるとみた、等と加賀が寝ぼけながら考えているとふいに扉の外から声がかかる。

「加賀、八木そろそろ朝食だぞ」

「っほ!?」

その声に加賀の意識が一気に覚醒する。

「やばっ寝過ごした! 今いきまーっす!」

どたどたと慌てた音を立てて加賀が部屋から出てくると朝食はもう作り終わっておりバクスが皿に盛り付けているところだった。
バクスは加賀の方へと振り返ると苦笑しつつ声を掛けた

「そんな慌てなくてもよかろうに、あとはパンを切るだけだから座ってて……あー悪いが八木起こしてきてもらってもいいか?」

さっきも声かけたが起きてこないのだと言うバクス。加賀は起こしてきますと返事をし八木の部屋へと向かった。

「八木~? そろそろご飯だよー、起きてるー?」

加賀が声をかけるが部屋の中から反応は返ってこない。
さらに扉をノックするがこれもまた反応ない。

どうやらかなり熟睡しているようだ。
先日ウォーボアから逃げ回ったり、背負子で街まで運んだりしたのが響いてるのだろう。
大分お疲れのようである。

「八木~はいるよ~?」

加賀は一応声をかけると扉を開け部屋の中へと足を踏み入れる。
八木は確かに熟睡中ではあったがなかなかにすごい格好で寝ていた。
どんな格好で寝ているかと言うと、手は万歳した状態で仰向けに上半身をベッドにあずけ、下半身は膝を床につけ酷く仰け反った状態である。

「どんな寝相だよ……」

その寝相に若干引きつつも加賀は八木を起こすべくベッドへと向かう。

「八木~起きろ~ご飯だよ~」

ゆさゆさと八木の体を加賀の手が揺する、だが八木は一向に起きる気配を見せない。
さらに頬を手がぺちぺちと叩くがこれでも起きない。
一向に目を覚まさない八木に加賀はついには腕をひっぱり上半身を床に落としはじめた。
ゴツンと硬いものがぶつかる音と軽い地響きがあたりに鳴り響くが、それでも八木は目を覚まさなかった。

「えぇー……」

そこまでやっても起きない八木に加賀はどうしたものかと頭をひねる。
そしておもむろに八木の顔へと手を伸ばし、鼻と口をふさいだ。


経過すること2分。

「ぶはぁあっ!?」

あれ、これやばいんじゃ?と加賀が思い始めた所でようやく八木が目を覚ます。

「おはよう。ご飯だよ~」

「ぜぇっはぁ……お、おはよう…つか、もっとまともに起こしてくれよ…」

「何度も声かけたり体揺すったのに起きないほうが悪い」

二人が居間へと戻ると丁度ご飯が出来上がった所のようだ。
八木がまだぶーぶー不満を言ってるがそれをスルーし二人は席へとついた。

「「頂きます」」

「おう」

朝食は加賀の予想通り、塩豚の薄切りを焼いたものと目玉焼きだった。
それにプラスして大量のパンと牛乳、リンゴがついている。
朝から結構なボリュームである。

昨日の夕飯の時もそうであったが地球での食事に比べて量が大分多い。加賀はかなり厳しい量だろう。
尤も八木とバクスはぺろっと食べていたが。

「「ごちそうさま」」

「おう」

八木は満足気に、加賀は苦しそうにお腹をさすっている。
やはり加賀にはかなりきつい量だったのだろう、お昼は少な目にしようと呟いている。


食事が終わり片付けを行った所で加賀は昨日八木と話した事を思い出したようだ。
バクスへと質問すべく声をかける。

「バクスさん。ちょっと聞きたい事あるんだけど、良いですか?」

「あぁ、かまわんぞ」

「あざっす。…水酸化ナトリウムか重曹を使いたいんですが、どこかで売ってたりしないでしょうか?」

「スイサンカナトリウム? …すまん聞いたこと無いな。重曹ならそこの棚にはいってるぞ。洗濯でもするのか?」

幸いな事に重曹はあるらしい、バクスに詳しく効いてみると重曹をフライパンで熱したものを水に溶かすなりして洗剤代わりに使っているようだ。脂汚れとかは結構落ちるとの事だ。

重曹はあるのが分かった、店にいけば売ってるそうなので入手するのも簡単だろう。
残るは油だが…

「後は獣脂以外の油売ってたりしませんか? ……それか椿の実を入手する方法をご存知ないでしょうか?」

「油なら食用のが売ってるぞ、確かオリーブと…何だったかな、いくつか種類があったはずだ。椿の実は売ってるの見たことないな、欲しいなら森にいけば手に入るんじゃないか? たしか今時期に実をつけてたはずだぞ。つか、油とか何に使うんだ? 夕飯に使いたいならまだ在庫はあるぞ」

「油は石鹸作るのに使おうかと。石鹸使いたいと思ったんだけど結構貴重品なんでしょ? なら作っちゃおうと思って」

「っほー、石鹸の作り方知ってるのか? 確かに作れる国はいくつかあったが技術流出でもしたか……そうか油から作るのか」

その言葉に加賀は一瞬どきりとするが、八木は特に動揺した様子を見せず自分たちの居たところでは普通に作られてたし、独占もされてなかったとバクスへと話している。

「ふむ……まあ良いか、俺も使いたいしがんばって作ってくれ。店には俺が案内しよう」

「「ありがとうございます!」」

やはり現代日本人であった二人にはただお湯で体をふくだけ、水浴びだけと言うのはあまり耐えられるものでは無かったのだろう。
せめて水浴びの際に石鹸が使えれば大分違う、石鹸を作れそうなことが分かった二人の表情はとても明るいものだった。


「んじゃ、準備できたしそろそろいくか」

「は~い」

ご飯を食べ、片付けも終わり出かける準備(といっても八木と加賀は手ぶらだが)ができた所でバクスが二人へと声をかける。
嬉しそうに声をあげる加賀だがふと八木の反応がない事に気が付いた。
どうかしたのかと加賀が八木の方を振り向くと八木は何やら模様の彫られた木の板を見ているようだ。
何を見ているのか気になった加賀は八木へ声をかける。

「八木どうしたの?」

「ん、これ何かなと思って……バクスさんこれって」

八木に呼ばれたバクスは振り返り八木の手元を確認するとああと呟く。

「そりゃ宿の看板だよ。そいつだけは以前使ってたものを使おうと思って取っておいたんだ」

「へー…なるほど、看板か」

八木が手にした木の板は宿の看板だったようだ。
看板に描かれた模様は槍と盾が描かれた旗のようなマーク、その右下に店名が書かれているものだった。
八木は看板を見ながら何やら考え事をしていたようだったが考えがまとまったのか二人の方を見て声をかける。

「石鹸の型にこのマークいれたの宿に置いてみたら良いと思わん?」

「あ、いいねそれ」

「ほう、確かに良いかも知れんな…」

宿の看板マークが入った石鹸。
新築した洗面所や台所、それにもし作るのであれば風呂場にも置くのも良いだろう。
バクスの反応も悪くないようだ。

「と、なると彫刻刀とか欲しいなぁ、バクスさんこのあたりに雑貨屋とか鍛冶屋ってあります? あればそこも行ってみたいんだけど」

「雑貨屋も鍛冶屋もあるぞ。ついでだから案内しよう」

「お願いしまっす!」

「分かった、なら一番近い雑貨屋からだな…さて、そろそろ出かけるとするぞ? もう店は空いてるだろうしな」

「「は~い」」

二人は返事をするとバクスの後を追って外へと出た。
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