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327話 「バクスのお願い2」

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「あ、うまいっすよ」

たっぷりとベーコンを挟み込んだパン。
かぶりついた八木はぱっと表情を明るくし、そうバクスに伝える。

「うん、美味しい……何時ものより好みかも」

咲耶も一口食べ、美味しいと感想を述べる。
好みにあったようで残りのパンもすぐに平らげてしまう。

「わしゃ普段のがええかのお……なんかこうガツンとくるのが足らない感じじゃ」

ゴートンは普段のベーコンのほうが好みのようだ。
かと言って決して美味しくないわけではないのでパンを残すようなことはない。
ほぼ一口で残りもすべて平らげてしまう。

「んー……ボアに似てはいますけど、これ明らかに肉違いますね。脂もすげーサラッとしてるし」

まだ食べきっていなかった八木であるが、ベーコンを一枚だけ味わうように口に含む。
そのベーコンはいつものとは違い肉質はしっとり、そして脂はさらりとしてくどさがない。明らかにボアとは違うものであった。

「ふむ、やはり皆似たような感想か」

「加賀とかも食べたんで?」

アゴをさすりそう呟いたバクスに八木が問いかける。
今はどこかに出かけているのか不在の加賀とアイネ。その二人もこのベーコンは既に食べていたようでバクスは八木の問いかけにああ、と返すとそのまま言葉を続けた。

「どちらも美味しい、好みによって変わるぐらいの差だろうと……ただ慣れてる物と比較して同じぐらい美味しいと感じるのなら、初めて食べる人はこっちのが美味しいと感じるかも。だそうだ」

「あ、確かにそれはあるかも?」

「まあせっかく良い肉用意したんだ……そうでないと困る」

「これ何の肉なんです? ボアの仲間なんすかね」

バクスがわざわざ用意したという肉に八木が興味を示す。
ベーコン一切れの大きさからして大物なのは間違いなく、おそらく普段食べているウォーボアよりも巨体だろう。

「レプラという山に住む6つ足の獣の肉だ……ボアの一種とは言われているが詳しくは分からん」

「6つ足……」

6つ足と聞いてギョッとした表情でベーコンを見る八木。思ってた以上にファンタジーな生物の肉であったようだ。

「体高3mほどの縄張り意識が強く執念深い獣でな……縄張りに入った者に対して深い雪だろうが、荒れた道だろうがおかまいなしに踏破して、蹴散らしにくる。 逃げても山を降りるまでは何度も襲撃を受けることになるだろう。 山中というのも相まって下位の竜種よりやっかいだ……正直あまり戦いたくない獣だな」

「ほげー……えらいやっかいな獣っすね……なんでまたそんな獣の肉を用意したんで?」

かつてダンジョンを踏破したこともあるバクスを持ってしても戦いたくないと言わせる獣。
そうなると気になるのはなぜそんな肉を用意したのかと言うことだろう。

「うむ……とある貴族がな、どこかで俺が作る燻製肉のことを知ったらしく。 定期的に買いたいと話があったんだ」

「ほうほう」

バクスの言葉に相槌を打つ八木。
祭りや、普段加賀が出している屋台でバクスの燻製肉を食べることが出来る。
その貴族とやらも偶然どこかでバクスの燻製肉を口にし、気に入ったのだろう。

「で、その手紙にだな。前に食べたものより美味いものを期待していると書いてあってな……俺の作る燻製肉は徐々に味は良くなっている、が急に旨くなるもんじゃない。 それこそ使う材料をガラッと変えないとだ」

「あーなるほど」

毎日スパイスの調合を変え、燻製に使うチップも変えて少しずつ味を良くしていった燻製肉。
最初に基本的な作成方法を加賀から聞いていたのもあって、その出来栄えはバクスはまだまだ納得いってないが、他の追随を許さない。
それ以上のものを求めるとなると、バクスが言うように材料をどうにかするしかないだろう。


「そんなわけで試しに作ってみたんだが……こいつはボアの時と大分作り方変える必要がありそうだ……が」

今は皆が口にしているのはボアと同じ方法で試しに作ってみた品であるようだ。
これから肉に合わせて試行錯誤していくことになるのだが……バクスはなぜか難しそうな顔をしていた。

「どうしたんで?」

「試作にまわせる肉がもうないんだ」

「あらあらまあ」

頬に手をあて困ったわねえ……と呟く咲耶。
好みの燻製肉だけに残念そうである。普段から食べられるのを期待していたのかも知れない。

「ギルドで依頼を?」

「ああ、だが今のところ受けるものは居ないな。 ここにいる連中はダンジョン目当てだろうし依頼内容が内容だからな……」

カウシープもそうだったが、手に入りにくいものは基本ギルドに依頼すれば何とかなる。
八木もそう思いバクスへと話を振るが、やはりというかバクスは既に依頼済みであった。
ただ、今のところ受けるものは居ないようだ。

「まあ少し考える」

顎に手をあてそう呟くバクス。
恐らくあてはあるのだろう、難しい顔をしてはいるがあまり悲観はしてなさそうだ。
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