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326話 「バクスのお願い」
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パウンドケーキの件から数週間後。
宿の玄関を潜る人影が一つ。
「ただいまーっと」
そう言って玄関をあがり、食堂へと向かったのは八木であった。
ちなみに時刻はちょうどおやつ時。今日は珍しく仕事が早く終わったため若干早いが帰宅することにしたのだ。
「あっれ? 誰もおらん……」
いつもであれば夕飯の支度をしているかおやつタイムな加賀かアイネ、それに咲耶がいるはずである。
だがその日の食堂が無人であり周辺から物音一つしないでいた。
「んー、小腹が空いたんだけどなー」
その体格に見合うだけ食事を必要とする八木である。
昼ごはんはきっちり食べているが、すぐにお腹が空いてしまうのだ。
おやつ時ということで何か食えるかと期待していたが当てが外れたようである。
「おやつがない……このクッキー缶うーちゃんのだよな」
ごそごそと棚をあさってみるがおやつは見当たらない。
一応クッキー缶が見つかりはしたがそれはうーちゃん用のおやつである。
しばらく悩む八木であったが、やがておもむろに缶の蓋をあけてしまう。
「一枚だけ……!?」
ぽこんと軽い音と共に開いたクッキー缶であるが、中にあったのはクッキーが一枚だけであった。
最後の一枚ということで食べたら怒られそう……と悩む八木であったが、不意に蓋の裏側、死角となった部分からにゅっと白いものが伸びてくる。
「ごめんごめんちょっとお腹が……空いて、さ……あえ?」
それは最後の一枚を掴むとひゅっと引っ込む。
てっきりクッキー缶を開けたことに気が付いたうーちゃんが手を伸ばしたのか、そう思い横に視線を向ける。
だがそこにはうーちゃんの姿はなかった。
「…………こわっ」
周りを見渡しても誰もいない、八木はぶるっと身震いするとそそくさと宿の玄関を出る。
「まあパンでも食べるかねーっと……あふん?」
おやつがなければパンを食べればいいじゃない。 八木は財布片手にオージアスのパン屋へと向かっていた。
パン屋の前へといき、扉に手をかけるが鍵が掛かっていて開かない。よくよく見れば店内は無人でパンも並んでいないようである。
うっそだろとショックを受け立ち尽くす八木へと不意に声が掛かる。
「今日はもう終わりだぞって八木じゃないか」
「あ、オージアスさんどもっす」
パン屋の主人オージアスであった。
どこかに出かけるのだろうか、裏口から出てきた彼は私服で手に何か包みをもっている。
「パン買いにきたのか? もう売り切れちまって残ってるのこれしかないが……」
「ちょっと買ってもいいすか? 小腹が空いちゃって」
「別にかまわんが……実はこれからバクスのところに行くんだが八木もいくか? ちょっと味見して欲しいのがあるそうだぞ、パンを食うならそれと一緒に食うといい」
「お、いきますいきます」
手にもった包みはパンで、これからバクスのもとへと行くという。
パンとバクスの……おそらく燻製肉を食べられるのならばと八木は嬉しそうに軽い足取りでオージアスへと続いて行く。
バクスがいるであろう燻製小屋へと向かうとそこにはバクスだけではなく、ゴートンや咲耶もいた。
味見役としてバクスは読んでいたのだろう。
燻製小屋の扉は開け放たれ、普段荷物を置いているであろうスペースに今は椅子とテーブル、それにBBQで使うコンロが置かれていた。
オージアスは彼らの姿を確認すると手を上げ声をかける。
「待たせたな」
「いや、ちょうど良いタイミングだ……八木も一緒か。今日は早かったんだな」
「何か食えるときいて」
「おう、こいつだ」
ルンルンとスキップしながら近寄る八木に見せるようにドンとテーブルへ肉の塊を置く。
表面は飴色のそれは予想通り燻製肉であった、それもバクスの得意なベーコンだ。
「ベーコン? パンのおかず欲しかったんでありがてえっす」
「うむ……ほれ、パンも焼くから」
「頼んます」
パンと相性ばっちりなベーコンをみて拝むような仕草を見せる八木。
バクスは軽く苦笑すると手を差し出し、パンを受け取る。これからベーコンと一緒にコンロで焼くのである。
「そういや味見して欲しいって聞いたんすけど、これ普通のベーコンじゃないんで?」
焼けるのを待つ間ふと疑問に思ったことを口にする八木。
バクスは日々燻製の研究を怠らない、そのため作るたびにほんの僅かではあるが味付けを変えていたりする。
そういった意味ではすべて新作と言えなくもないが、バクスはこれまでそれらをわざわざ味見してほしいと頼むことはなかった。ゆえに八木の目の前でおいしそうに脂を滴らせるそれは特別、ということになる。
「うむ……まあ詳しいことはあとにして食ってみてくれ。 前情報なしで素の感想を聞きたい」
「うぃっす」
やはり特別ではあったようだ。
ただ事前に情報を与える気はないようでバクスはそういうと焼けたパンを八木へと手渡した。
宿の玄関を潜る人影が一つ。
「ただいまーっと」
そう言って玄関をあがり、食堂へと向かったのは八木であった。
ちなみに時刻はちょうどおやつ時。今日は珍しく仕事が早く終わったため若干早いが帰宅することにしたのだ。
「あっれ? 誰もおらん……」
いつもであれば夕飯の支度をしているかおやつタイムな加賀かアイネ、それに咲耶がいるはずである。
だがその日の食堂が無人であり周辺から物音一つしないでいた。
「んー、小腹が空いたんだけどなー」
その体格に見合うだけ食事を必要とする八木である。
昼ごはんはきっちり食べているが、すぐにお腹が空いてしまうのだ。
おやつ時ということで何か食えるかと期待していたが当てが外れたようである。
「おやつがない……このクッキー缶うーちゃんのだよな」
ごそごそと棚をあさってみるがおやつは見当たらない。
一応クッキー缶が見つかりはしたがそれはうーちゃん用のおやつである。
しばらく悩む八木であったが、やがておもむろに缶の蓋をあけてしまう。
「一枚だけ……!?」
ぽこんと軽い音と共に開いたクッキー缶であるが、中にあったのはクッキーが一枚だけであった。
最後の一枚ということで食べたら怒られそう……と悩む八木であったが、不意に蓋の裏側、死角となった部分からにゅっと白いものが伸びてくる。
「ごめんごめんちょっとお腹が……空いて、さ……あえ?」
それは最後の一枚を掴むとひゅっと引っ込む。
てっきりクッキー缶を開けたことに気が付いたうーちゃんが手を伸ばしたのか、そう思い横に視線を向ける。
だがそこにはうーちゃんの姿はなかった。
「…………こわっ」
周りを見渡しても誰もいない、八木はぶるっと身震いするとそそくさと宿の玄関を出る。
「まあパンでも食べるかねーっと……あふん?」
おやつがなければパンを食べればいいじゃない。 八木は財布片手にオージアスのパン屋へと向かっていた。
パン屋の前へといき、扉に手をかけるが鍵が掛かっていて開かない。よくよく見れば店内は無人でパンも並んでいないようである。
うっそだろとショックを受け立ち尽くす八木へと不意に声が掛かる。
「今日はもう終わりだぞって八木じゃないか」
「あ、オージアスさんどもっす」
パン屋の主人オージアスであった。
どこかに出かけるのだろうか、裏口から出てきた彼は私服で手に何か包みをもっている。
「パン買いにきたのか? もう売り切れちまって残ってるのこれしかないが……」
「ちょっと買ってもいいすか? 小腹が空いちゃって」
「別にかまわんが……実はこれからバクスのところに行くんだが八木もいくか? ちょっと味見して欲しいのがあるそうだぞ、パンを食うならそれと一緒に食うといい」
「お、いきますいきます」
手にもった包みはパンで、これからバクスのもとへと行くという。
パンとバクスの……おそらく燻製肉を食べられるのならばと八木は嬉しそうに軽い足取りでオージアスへと続いて行く。
バクスがいるであろう燻製小屋へと向かうとそこにはバクスだけではなく、ゴートンや咲耶もいた。
味見役としてバクスは読んでいたのだろう。
燻製小屋の扉は開け放たれ、普段荷物を置いているであろうスペースに今は椅子とテーブル、それにBBQで使うコンロが置かれていた。
オージアスは彼らの姿を確認すると手を上げ声をかける。
「待たせたな」
「いや、ちょうど良いタイミングだ……八木も一緒か。今日は早かったんだな」
「何か食えるときいて」
「おう、こいつだ」
ルンルンとスキップしながら近寄る八木に見せるようにドンとテーブルへ肉の塊を置く。
表面は飴色のそれは予想通り燻製肉であった、それもバクスの得意なベーコンだ。
「ベーコン? パンのおかず欲しかったんでありがてえっす」
「うむ……ほれ、パンも焼くから」
「頼んます」
パンと相性ばっちりなベーコンをみて拝むような仕草を見せる八木。
バクスは軽く苦笑すると手を差し出し、パンを受け取る。これからベーコンと一緒にコンロで焼くのである。
「そういや味見して欲しいって聞いたんすけど、これ普通のベーコンじゃないんで?」
焼けるのを待つ間ふと疑問に思ったことを口にする八木。
バクスは日々燻製の研究を怠らない、そのため作るたびにほんの僅かではあるが味付けを変えていたりする。
そういった意味ではすべて新作と言えなくもないが、バクスはこれまでそれらをわざわざ味見してほしいと頼むことはなかった。ゆえに八木の目の前でおいしそうに脂を滴らせるそれは特別、ということになる。
「うむ……まあ詳しいことはあとにして食ってみてくれ。 前情報なしで素の感想を聞きたい」
「うぃっす」
やはり特別ではあったようだ。
ただ事前に情報を与える気はないようでバクスはそういうと焼けたパンを八木へと手渡した。
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