異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

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322話 「ワカサギ釣り再び4」

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「さてどーしよ」

「おう? さばかんの?」

ウナギをもってウキウキ気分で調理場へと向かった加賀であったが、まな板にのせたウナギを前にして腕を組んでどうしたものかと頭を悩ませていた。
八木にさばかないのか?と聞かれてもうーんと唸るばかりだ。

洋食だけではなく、和食や中華もそれなりに作れる加賀ではあったがウナギをさばいたことは無かったのである。

「やー、ウナギ捌いたことないんだよね……目に釘打つんだっけ?」

「目とか怖いなおい……目の下あたりじゃなかった?」

ウナギを固定するのに釘などでまな板に打ち付けることは知っていても、どこに刺すのかまでは知らないらしい。
加賀の言葉にどん引きしつつ自分の記憶を頼りに助言する八木。
八木も加賀と似たり寄ったりな知識ではあったが、今回は八木が正解であったようだ。

「……釘持ってきてる?」

ゴソゴソと調理を道具をあさり、チラリと八木に視線を向け釘はあるかとたずねる加賀。

「なんで持ってきてると思った? いや、あるけどさ」

「あるんかーい」

といったやり取りがあり、加賀は八木から釘を受け取ると包丁を使いまな板においたウナギへと打ち付けていく。
幸いなことにウナギはしばらく寒気に晒されていたためだろう、暴れることはなかった。

「とりあえず背開きでやってみよう……たしか首の根元を途中まで切り込み入れてっと」

首の付け根に包丁をいれ、そこから徐々に身を切り開いていく。
最後に骨に包丁をそわせ、骨をそぎ落とせば完成である。

「普通に捌けてるじゃん」

「意外とうまくいった……ちょっと骨多めに残ってるけど」

身を軽く手でふれ顔をしかめる加賀。
見た目はうまくいったように見えたが、やはり不慣れなためか小骨が多く残っていたらしい。

「そこはアイネさんにお願いすりゃいいべ」

「うんむ。 アイネさーん、お願いしまっす」

だが小骨が残ろうが残るまいが関係はないのである。
アイネがひょいひょいと黒い靄をおおえばするっと全ての小骨が取れてしまう。

「ん。……小骨多いね」

「わー……本当だ。 こりゃアイネさん居ないとダメダメだね」

手を広げ手に取った小骨を加賀に見せるアイネ。
そこには口にするには少々憚られる量が小さな山になって乗っていた。

「そうやって串に刺すのね」

ウナギの身にぶすぶすと串をさす加賀を不思議そうに眺めていたアイネ。
普段と違う魚の焼き方に興味をひかれたようだ。

「うん。 あとは焼いて一回蒸して、そんでまた焼くの」

「蒸すんだ?」

「脂すごいからちょっと落とすらしい? 詳しくは知らないんだけどね」

「へぇ……」

ウナギは調理にもそれなりに手間がかかる。
いつもと違う光景に加賀の肩越しに除きこむアイネは実に興味津々といった様子である。

「ほんじゃ、丼のタレ作るからウナギ見て貰ってもいいかなー?」

「ん。 任された」

焼きをアイネにまかせ自分はタレを作ることにした加賀。
アイネもやりたかったのだろう、ウナギをささっと受け取ると焼き始める。


「やべぇ、すっげえ良い匂いするんですけど」

「これは強烈であるな……」

ウナギを焼くときの煙はかなりの量がでる。
今回も例に漏れずモクモクとあたりに煙が漂っていた。
それは醤油の焦げた匂いがあたりに漂うということでもある。醤油になれた者たちはその匂いを嗅いだだけでそわそわと身じろぎし、煙の発生源へとチラチラと視線を向ける。

「でけた。 はい、こっちはお二人に。でもってこれヒューゴさんのね」

焼き始めてからおよそ30分ほど立っただろうか、加賀がお盆にいくつか丼をのせ夫婦のもとへと向かっていく。
途中じーっとお盆を見つめていたヒューゴの手元に小さめの器を置く。それは小さめのうな丼であった。

「あ、俺もいいの?」

「そりゃ釣った本人だしー」

「おっしゃ、いっただきまーす!」

うな丼を一気にかきこむヒューゴを見て頷き、夫婦にもうな丼を差し出す。
最初は恐る恐るといった様子でうな丼を食べる夫婦であったが、徐々に食べるペースをあげていく。

「お口にあいました?」

「すごく美味しいです……上のお魚と下の穀物、それにこの甘塩っぱいタレがすごく相性良いですね」

「……うまい」

夫婦の言葉を聞いてにこりと笑みを浮かべる加賀。
つられて夫婦にも笑みが浮かぶ。そんな空気の中、一人だけへこんだ様子を見せる男がいた。

「まじかー……まじかー……」

「うん?」

「ウナギこんな美味かったのか……小骨多くて食いにくいからちゃんと食ったこと無かったんだよなあ」

「あー確かに」

ウナギを食べる機会はあれどさほど美味しいものとは思っておらず、今回ウナギの美味しさに目覚めたヒューゴ。
今までどれだけ損をしていたのかとへこんでいたのだ。

「よおっし、そんじゃもっと釣ってみるとすっかね。 あと3~4杯は余裕で食える」

「おーがんばってー」

へこんではいたが切り替えも早かった。
ヒューゴは竿を持つと仕掛けを水面に落としいれる。
食いたければもっと釣れば良い。ほかの皆もそう考えたのだろう、ワカサギ用の仕掛けからヒューゴが使っている仕掛けと同じものに変えると次々仕掛けを落としていく。
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