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312話 「街外れの塔 5」
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街からおよそ10kmほど進んだ森の中、曲がりくねったほとんど鋪装されていない獣道同然といった道を20名程の探索者達が列をなして歩いていた。
「……あれか」
少し道が開けてきたかと思うと、木々の合間から人工物の姿がちらりと見える。
「いやーな雰囲気だな」
吸血鬼が建てたという塔を前にして、ぽつりと誰かが呟いた。
その塔は高さはおおよそ6階建ての建物ほど、直径は50mほどで上に行くにつれ細くなっている。
まだ出来て間もないにも関わらず、その表面は苔や蔓など植物に覆われており、どこか陰鬱な雰囲気を醸し出している。
「……これから塔内部に入る。 各自魔道具の起動と補助魔法を忘れずに受けてくれ」
その言葉を合図に探索者達は各々がもつ魔道具を起動し、魔法使いから補助魔法を掛けて貰っていく。
彼らがもつ魔道具は今日の調査のためにかき集めたもの……と言うわけでは無く、八木が塔を見つけたその日、ダンジョンの宝箱から大量に出たものである。
使い切りではあるが全てが全て吸血鬼に対して特効がついた魔道具達。価値はあるがこれだけ大量の魔道具をどうしたものかとギルド職員や宝を手にした探索者が頭を悩ましていると、そこに降って湧いたように吸血鬼の話が舞い込んできたのだ。
ギルドはこれらの魔道具が手に入ったのは恐らくそう言うことだろう、と急遽メンバーを集め調査と言う名の討伐へと乗り出したのだ。
塔の入り口は魔法でロックが掛かっていた。だが魔道具を起動した彼らが触れると魔法はあっさりと解除され、静かに扉が開いていく。
「……」
塔の中へと一歩足を踏み入れた彼らの鼻にムッとするような濃い血の匂いが漂ってくる。
1Fは食事をする際に使っているのだろう、コップや皿などがテーブルに放置されたままとなっていた。漂っている血の匂いの発生源はそこであった。
そこからは全員無言でハンドサインを頼りに先へと進んでいく。
塔の内壁にそって作られた渦巻き状の階段を足音を殺し登っていく。
やがて最上階へと辿り着いた彼らの前に一つの扉が現れた。扉へと近付こうとした彼らであったが、その耳に何かの音を捉え、足を止めた。
その音は扉の中から聞こえてきており、中に何者か……十中八九吸血鬼達がいることだろう。
彼らはお互いの目を見て頷き合う。そして扉を蹴破り一気に中へと侵入した。
「……こいつは」
中へと踏み込んだ彼らは皆、呆然とした表情で立ちすくんでいた。
そこは元は高価な家具が置かれ、装飾も煌びやかな部屋だったのだろう。だが今は見る影もない。
一部の家具は粉々に粉砕され、床には割れたガラスや陶器などが散乱している。
壁や床は一部が焦げ爛れている。
そして何より以上なのは壁や床のほぼ一面に広がった真っ赤な染みと――。
「それでっそれでっ。 どーなったの?」
宿の食堂でテーブルをぺしぺしと叩いて続きを要求する加賀。
塔の出来事を加賀に語っていたのはヒューゴである。彼も吸血鬼の調査に参加していたのだ。
ヒューゴはビールをぐびりぐびりと飲み、げふと酒臭い息を吐くと眉をひそめて非難顔の加賀へ続きを話し始める。
「いやそれがさ、生首が4つ転がってたのよ。 ゴロンて」
「うぇっ?」
探索者達が部屋に踏みいるとそこに確かに吸血鬼達は居た。
ただなぜか全員首だけの姿となっていたのだ。
「再生も出来なかったみたいで……血を飲ませりゃ復活するんじゃね? とはいう話だったけど、復活させちゃ不味そうな連中だったし」
「不味そう?」
「なんかすげー恨み言を……あ、連中なんか知らんけど首だけでも喋れんのよ」
「ほー」
体は原形をとどめておらず、液状となって床や壁の染みとなっていた。吸血鬼達もそこまでダメージを受けるとそう簡単に再生は出来なかったようだ。 血を飲ませれば別だが……討伐に来たのだ、わざわざその対象を復活させる理由はない。
それに呪詛を吐いてたとなれば尚更だ。
「んで吸血鬼やら専門にしてる奴に任せてお終いってわけ」
「おつかれさまー!」
そういって労うようにジュースのはいったグラスを掲げる加賀。
ヒューゴもそれに合わせてジョッキを掲げ、一気に中身を飲み干した。
「んでんで、どんな恨み言だったの?」
ビールのお代わりとおつまみの揚げ芋をテーブルにおく加賀。
先ほどの恨み言の内容が気になったのか再びヒューゴにたずねる。
「あー、街の連中皆殺しにしてやるとか。 血をよこせぇとか。 糞兎がとか……」
糞兎……と聞いて二人には、いや宿の皆が思い当たる人物?が一人いる。
「……」
う?(なんぞ?)
二人の視線を受けたうーちゃんが首をかしげ、どうかした?といった表情を浮かべていた。
その手には揚げ芋が握られている。
「ん、うーちゃん良い子だなーって」
う(もっとなでれっ)
手のひらにぐいぐいと頭を押しつけるうーちゃん。
加賀は満足するまでしばらく撫で繰りまわしていたが満足したところでひょいと席を立つ。
「んし、ご飯にしよっか」
「きょ、今日の夕飯は……?」
匂いで予想は出来ているだろうが、それでも聞きたいのだろう。
ソワソワと落ちつき無い様子のヒューゴ。
よくみれば周りのテーブルにいる探索者達も二人の会話に注目しているようだ。
今日は吸血鬼の調査ということで、労うためにと特別な料理を用意していたのだ。
「カレーだよっ」
片手でぴーすしながら答える加賀。
宿の食堂に男達の歓喜の声が響き渡った。
宿は今日も平和である。
「……あれか」
少し道が開けてきたかと思うと、木々の合間から人工物の姿がちらりと見える。
「いやーな雰囲気だな」
吸血鬼が建てたという塔を前にして、ぽつりと誰かが呟いた。
その塔は高さはおおよそ6階建ての建物ほど、直径は50mほどで上に行くにつれ細くなっている。
まだ出来て間もないにも関わらず、その表面は苔や蔓など植物に覆われており、どこか陰鬱な雰囲気を醸し出している。
「……これから塔内部に入る。 各自魔道具の起動と補助魔法を忘れずに受けてくれ」
その言葉を合図に探索者達は各々がもつ魔道具を起動し、魔法使いから補助魔法を掛けて貰っていく。
彼らがもつ魔道具は今日の調査のためにかき集めたもの……と言うわけでは無く、八木が塔を見つけたその日、ダンジョンの宝箱から大量に出たものである。
使い切りではあるが全てが全て吸血鬼に対して特効がついた魔道具達。価値はあるがこれだけ大量の魔道具をどうしたものかとギルド職員や宝を手にした探索者が頭を悩ましていると、そこに降って湧いたように吸血鬼の話が舞い込んできたのだ。
ギルドはこれらの魔道具が手に入ったのは恐らくそう言うことだろう、と急遽メンバーを集め調査と言う名の討伐へと乗り出したのだ。
塔の入り口は魔法でロックが掛かっていた。だが魔道具を起動した彼らが触れると魔法はあっさりと解除され、静かに扉が開いていく。
「……」
塔の中へと一歩足を踏み入れた彼らの鼻にムッとするような濃い血の匂いが漂ってくる。
1Fは食事をする際に使っているのだろう、コップや皿などがテーブルに放置されたままとなっていた。漂っている血の匂いの発生源はそこであった。
そこからは全員無言でハンドサインを頼りに先へと進んでいく。
塔の内壁にそって作られた渦巻き状の階段を足音を殺し登っていく。
やがて最上階へと辿り着いた彼らの前に一つの扉が現れた。扉へと近付こうとした彼らであったが、その耳に何かの音を捉え、足を止めた。
その音は扉の中から聞こえてきており、中に何者か……十中八九吸血鬼達がいることだろう。
彼らはお互いの目を見て頷き合う。そして扉を蹴破り一気に中へと侵入した。
「……こいつは」
中へと踏み込んだ彼らは皆、呆然とした表情で立ちすくんでいた。
そこは元は高価な家具が置かれ、装飾も煌びやかな部屋だったのだろう。だが今は見る影もない。
一部の家具は粉々に粉砕され、床には割れたガラスや陶器などが散乱している。
壁や床は一部が焦げ爛れている。
そして何より以上なのは壁や床のほぼ一面に広がった真っ赤な染みと――。
「それでっそれでっ。 どーなったの?」
宿の食堂でテーブルをぺしぺしと叩いて続きを要求する加賀。
塔の出来事を加賀に語っていたのはヒューゴである。彼も吸血鬼の調査に参加していたのだ。
ヒューゴはビールをぐびりぐびりと飲み、げふと酒臭い息を吐くと眉をひそめて非難顔の加賀へ続きを話し始める。
「いやそれがさ、生首が4つ転がってたのよ。 ゴロンて」
「うぇっ?」
探索者達が部屋に踏みいるとそこに確かに吸血鬼達は居た。
ただなぜか全員首だけの姿となっていたのだ。
「再生も出来なかったみたいで……血を飲ませりゃ復活するんじゃね? とはいう話だったけど、復活させちゃ不味そうな連中だったし」
「不味そう?」
「なんかすげー恨み言を……あ、連中なんか知らんけど首だけでも喋れんのよ」
「ほー」
体は原形をとどめておらず、液状となって床や壁の染みとなっていた。吸血鬼達もそこまでダメージを受けるとそう簡単に再生は出来なかったようだ。 血を飲ませれば別だが……討伐に来たのだ、わざわざその対象を復活させる理由はない。
それに呪詛を吐いてたとなれば尚更だ。
「んで吸血鬼やら専門にしてる奴に任せてお終いってわけ」
「おつかれさまー!」
そういって労うようにジュースのはいったグラスを掲げる加賀。
ヒューゴもそれに合わせてジョッキを掲げ、一気に中身を飲み干した。
「んでんで、どんな恨み言だったの?」
ビールのお代わりとおつまみの揚げ芋をテーブルにおく加賀。
先ほどの恨み言の内容が気になったのか再びヒューゴにたずねる。
「あー、街の連中皆殺しにしてやるとか。 血をよこせぇとか。 糞兎がとか……」
糞兎……と聞いて二人には、いや宿の皆が思い当たる人物?が一人いる。
「……」
う?(なんぞ?)
二人の視線を受けたうーちゃんが首をかしげ、どうかした?といった表情を浮かべていた。
その手には揚げ芋が握られている。
「ん、うーちゃん良い子だなーって」
う(もっとなでれっ)
手のひらにぐいぐいと頭を押しつけるうーちゃん。
加賀は満足するまでしばらく撫で繰りまわしていたが満足したところでひょいと席を立つ。
「んし、ご飯にしよっか」
「きょ、今日の夕飯は……?」
匂いで予想は出来ているだろうが、それでも聞きたいのだろう。
ソワソワと落ちつき無い様子のヒューゴ。
よくみれば周りのテーブルにいる探索者達も二人の会話に注目しているようだ。
今日は吸血鬼の調査ということで、労うためにと特別な料理を用意していたのだ。
「カレーだよっ」
片手でぴーすしながら答える加賀。
宿の食堂に男達の歓喜の声が響き渡った。
宿は今日も平和である。
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