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305話 「ダンジョンと温泉と9」

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「うーちゃん、それ食べちゃだめなやつだから……ほら、ぺっしなさい。ぺっ」

うー(ぶぇっ)

加賀がうーちゃんの膨らんだ頬をぐいぐい押すと、押し出されたように効果音と共に口から赤い玉が転がり落ちた。

「きちゃない……あー、やっぱそうだ」

顔をしかめつつ、落ちた玉を確認する加賀。
玉は加賀の想像通りコアであった。おそらくこのダンジョンのものだろう。

「ん? 何々? なんかでっけー飴玉だなあ」

「これ飴玉じゃない……ん」

「ああ、ダンジョンコアか」

ぱっと見はでかい飴玉であるそれを繁々と眺める八木。
眺めているとふいに玉が転がり、そして浮かび上がる。

(酷い目にあったわい……なんでお前さんは毎度毎度わしを食うんじゃ……)

一瞬身構えた二人であったが、コアの言葉を聞いた加賀はあれ? と首をかしげる。

「あれ? もしかしてフォルセイリアのコアと同じ人?」

うーちゃんが毎度口にしていたのはフォルセイリアのダンジョンコアである。
てっきり違うコアだとばかり思っていた加賀は疑問を口にした。

(人ではないがのお……まあ分体じゃよ。 魔力有り余ってるでな、ここにもダンジョン作ってみたのよ)

「なるほどー」

「なんだってまたこんな山の中に?」

コアはフォルセイリアの分体であった。
八木は前から疑問に思っていたことを尋ねる。
尋ねられたコアは思案するように軽く明暗を繰り返す。

(他のいい場所はもう先客がおるでな、ここは人通りは多いもんで環境さえ整えておけば客も来るんじゃないかと……まあ実験みたいなもんだの)

ダンジョンにも縄張りのようなものが存在するのだろうか。
どこでも好き勝手に作っていいと言う訳ではないようだ。ここは山の中で他と比べて環境が良い訳ではない、その為空き地となっていたわけだが……このコアは魔力が有り余っていることもあって実験もかねてダンジョンを作成したようだ。

「上手くいきそうなので?」

(んん、さてどうかの……人は大勢来てくれたようではあるが、このまま常駐してくれるか、それとも何度も来てくれるか……)

先ほどよりも小刻みに明暗を繰り返すコア。
コアの心情を表しているのだろう、人間でいうと表情が変わっているといったところだろうか。

「悪くない感じですよ」

「温泉も広いし、料理もよかったし……」

(ふむふむ。 何か不満は出てなかったかの? 何でも良いで教えて貰えるとありがたいのじゃが……)

二人から感想を聞いて明暗はゆっくりしたペースとなる。
不満と聞いて顔を見合わせる二人。温泉や料理について不満を聞いた覚えはないが、ふと男共が話していたことを思い浮かべる。
唯一出ていたのはアクセスする際の不便さだ。コアに対し二人はそのことを伝える。もちろん覗けない云々に関しては伝えたりはしないのだ。

(来るのが大変か……なるほど、参考になったわ)

「ダンジョン目当ての探索者達は問題ないと思うんだけどねー」

「ダンジョンの目的考えるのなら、今のままでもいいとは思うかな」

アクセス対する不満は仮に観光がてらにここに来るとしたら、という話である。
もしダンジョン目的であれば、この温泉街に常駐することになるのでそういった不満は出ないだろう。

(せっかく温泉も用意したで、探索者以外にも楽しんで欲しいのお……ふむ、それじゃちょっと作業に戻るわい、ありがとうの)

「……いっちゃった」

「とりあえずトランプしに行くかね? だんだん盛り上がってきてるけど……あれ、皆酒はいってね?」

だが、コアとしてはせっかく作った温泉を探索者達以外にも利用してもらいたいようだ。
ダンジョンの本来の目的とはずれているが魔力に余裕があるのでそういったところに回す余裕もあるのだろう。
消えていくコアを見送った二人。酒が入り盛り上がりだした部屋へと戻っていくのであった。


「加賀ちゃん、聞いてきたけど2Fは入って問題ないってさ」

そして翌日の午後。2Fへ入れるか確認いしてきたヒューゴが加賀へと報告をしていた。
なお、午後なのは大半の者が二日酔いで使い物にならなくなっていた為である。

「あ、本当? じゃあせっかくだから見にいこっか」

食後の茶を飲んでいた加賀は、今から向かうことにしたようだ。
温泉は夕方に入るつもりなのだろう、動けるものを連れて2Fへと通じる階段へと向かっていく。

「水平線が見えるんだけど……」

2Fに入ってすぐ、左手側に見える光景に一同はぽかんと口を開けて驚き固まっていた。
見えるのは波立つ水面、対岸はなく見えるのは丸い水平線である。

「すっご! え。これ海なの? まじで!?」

独特の磯のにおいからそれが海であることを察してシェイラが驚き耳をぴこぴこと動かしている。

「なあ反対側見てみろよ……こっちは地平線が見えてるぞ」

そして右手側に見えるのが地平線である。
青々と茂っているのはおそらく何かの野菜で、黄金色に見えるのは麦だろうか。
遠くのほうには家畜らしき動物の姿も見受けられる。

「……これ、どこまで続いているんでしょうか? 下手に進むと戻って来れなさそうですよね」

真っ平な空間であれば、端の部分が見えただろうが水平線や地平線が見えることからわかるようにこの空間は曲面であるらしい。
周りには目印になるものはあまりなく、慣れたものはともかくとしてそうでなければ迷子になること間違いないだろう。
広さによっては戻ってくることすら叶わないかもしれない。

「えーとね、大体ね半径30kmだって。 そこまで進むと何もない、白い空間があるだけになるんだって」

「30kmなら高所に登れば大丈夫でしょうか……ちなみにそこから先に進んだらどうなるんでしょう」

30kmと端から端まで一日もあれば行ける距離である。
魔法を使える彼らであれば、浮かぶなり、塔を作るなりして高所に登れば帰る方角ぐらいはわかるだろう。
広さよりも端にある白い空間というのが気になったようで、アルヴィンは加賀へとその先に進んだらどうなるか尋ねる。

「さー……入れない訳じゃないけど、さすがに試した人はいないみたい。 ゴーレムは戻ってこなかったらしいけど……いってみる?」

白い空間に手を突っ込んだりはできたりする。壁があるわけではないので先に進む事は可能だろうが、進んだ先に何があるのか、それとも地面も何もないのかは分からない。 それならばと突っ込ませたゴーレムは戻って来なかった。人であれば別の結果になるかも知れないがさすがに進んでみようとする無謀なものは居なかったようである。

「さすがにちょっと怖えわ」

それは探索者達も同じだったようで、話をふられたギュネイは手を軽く振り苦笑いして辞退する。


夕方になり、一同は温泉へと向かう。
日を跨いだので前日女湯だった側が男湯となっている。

「なんか滑り台あるんですけど!?」

「あるんだなあ、これが……」

壁を挟んで温泉の内容は大分異なるものとなっていた。
泉質などは変わらないのかも知れないが、前日は広いが一部を除いてごく普通の湯舟であったが、こちらは天然の滑り台などが存在していたりする。

「なんでこの温泉流れがあるの……」

「なんて言うか、こっち側のが遊べるのが多いな」

「そっすね、まあほぼ同じだと2回入る楽しみが減っちゃいますからねえ」

何故か流れが存在する温泉もあったりする。
ここでは温泉につかるというよりもその流れを楽しむようになっているようだ。
場所によっては泳ぐのも大変なぐらい急流な個所もあるうえ、準備のいいことに温泉の傍にボートが置いてあったりする。

「あー……これでもっと近けりゃなあ」

「そーだね。 たまに遊びに来られるのにねー」

温泉につかるというより遊びまくった一同は疲れを癒すように中央の温泉につかっていた。
ゆっくり過ごすのも遊ぶのも十分堪能できるだけあって、できればまた行きたいと思っているようだ。
だが、やはりというか遠いのがネックになる。


後日、ダンジョン内の宝箱から移動を楽にする魔道具や、温泉街限定でテレポート出来る魔道具などが出てくるようになったりする。
先日二人の話を聞いたコアはきっちり対応していたらしい。
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