上 下
300 / 332

298話 「ダンジョンと温泉と2」

しおりを挟む
ダンジョンに辿り着くまで馬車を使っても数日掛かる道のりとなる。
なのでどこかで宿を取るなりしなければならないのだが、一行が街にたどり着いた時には既に相当な数の馬車が街中に存在していた。

「すごい数の馬車だな……」

「おっ帰りー。どうだったー?」

宿の空きがあるかどうかを見に行っていたギュネイがぼやきながら戻ってくる。
ギュネイを出迎え結果を聞くが、あまり表情が優れない彼の様子から結果は良いものでは無いだろうと何となく予想がつく。

「ああ、俺が見た限りどこ空いてないな……チェスターが俺とは別方向を見に行ったが恐らく向こうも同じだろうな」

やはりと言うか宿はどこも満員の様子。
別方向にいったチェスターもおそらく結果は同じだろう。

「そうか……すまんな無駄足踏ませて。それじゃ街の外れで野宿の準備するとしよう」

空いていないのならば仕方が無い。
バクスは皆に声をかけ野宿をするべく街はずれへと移動するのであった。


「ほい」

探索者以外の者も何度となく野宿を経験している為準備はさくさくと終る。
そして今は作った料理を配膳している所である。

「あんがと。これも貰って行っても良いの?」

「もちろん」

「まあ、野宿つっても俺らはそこまで大変でも無いんだけどな」

「飯は変わらず食えるし酒もあるでのう」

パンに具沢山のスープ、メインの肉料理に副菜がいくつか、それに加えてデザートまでつく。
ゴートンなどの酒好きは酒を持ち込んでいたりするので実際普段の食事とあまり変わらなかったりする。

「ベッドも柔らかいしねー……まあ見張りはちょっと面倒いけどさ」

「……他の連中は大変そうだがな」

それに彼らの馬車は特別だ。
車体が広く、中のベッドもかなり良いものを使っている。
見張りはやはりしなければならないが、周りで野宿しているものと比べれば大分楽な環境である。

「まあねえ、慣れて無さそうなのもチラホラいるし……あれだね、温泉とダンジョンは魅力的だけど、やっぱ移動大変なのがネックだよね」

「温泉あるの山の中腹だからなあ……」

少し回りの視線を気にしつつ食事を済ませる一行。
温泉旅行といっても楽な移動手段が無ければ楽しいだけではなく、辛い点も出てくるのだろう。


「着いた……すげえ数の馬車と人」

場所に乗ること数日、一同はダンジョンのある山の中腹へとたどり着いていた。
道からさほど離れていない山肌に、巨大な穴がぽっかりとのぞいている。
周りは広場が少々ある程度でダンジョンの入り口と言うには割と殺風景であった。
入口前では受付を行っているのだろう、大量の馬車と人だかりが出来ていた。
ここを目指してきたのはフォルセイリアの住民だけでは無い、施設を建てるにあたって関係した者が住む街からそれぞれ数百人単位で人が訪れて来ているのだ。

「そんなすごいのー?……うげっ、待ってあれ私達中に入れるの? 人いっぱいで入れないとかないよねっ」

あまりの人の多さに入れるのだろうかと不安を口にする一同に向かい八木はいやいやと手を軽く振ると皆に向かい声を掛ける。

「いや、あんぐらいなら大丈夫っすよ」

「そ、そうなの?」

「中はかなり広いんすよ。しかも宿泊施設も結構な数があるし……まあ見てからのお楽しみって事で」

八木はダンジョン内の施設関係の仕事を受けただけあって、中の様子はある程度把握しているようだ。
相当な数の人だかりであるが、それらを全て納めても全く問題にはならないらしい。

「取りあえず列に並びましょう。早めに並ばないと夜が来てしまいますよ」

「む、そうだな……」

中が広かろうが入れなければ意味がない。
まだ時刻は昼過ぎであるが、あれだけの人数である。どれだけ時間が掛かるか分かったものではない。

一同が列の最後尾につくと、ダンジョンを管理している者の関係者だろう、手に何やら冊子をもった女性が近づいてくる。

「待っている間こちらをどうぞ」

「あ、ども」

手に持った冊子を次々配っていく。

「んー? あ、ダンジョン内の案内だ」

中身はダンジョン内の施設等の案内であった。
待っている間の時間潰しと、説明の手間を省くため事前に冊子が用意されていたのだ。

「フロアの左半分が温泉なんだ」

「右は宿やら店やらいっぱいあるな」

フロアの左半分が入浴用、そして右半分は店が多いことから高温の温泉を利用した料理などを売っているのだろう。ダンジョンということもあってダンジョン産の魔道具が売っているかもしれない。

「これ、もしかして温泉は全部の宿共通なの? 入口が別なだけ?」

「そっすね、温泉は全部の宿で共通で使ってます。入るときに割り符もらって、出るときに返すシステムだったかな? 別の宿に入る事は出来ないようにはなってる……はず」

「ふーん」

冊子を八木に見せ質問をする加賀。
左半分は入浴用の温泉であるが、お湯の無い部分があまりなく通路か洗い場がある程度であるためそこに建物を建てる訳にはいかなかったのだろう。
結果として入り口は別であるが、全ての宿で共通で使用する事にしたらしい。

「てかこれ温泉全部で何個あるんだ?」

「えーと……9個かな?」

「男湯と女湯で半々な。んで、一番でかいやつは男女共通なんだけど真ん中にある敷居で男女別に分かれてる感じ」

冊子に描かれたフロアの見取り図を見るに温泉の数は大小合わせて9個であった。
そして当然と言えば当然であるが、男女きっちり分かれてはいるらしい、決して混浴ではないのだ。

「っほーん……ねえねえ、この温泉ってさ大きさどれぐらいなの? これ見た感じだとかなりでかそうだけど」

「あー……秘密で」

「えー」

冊子に描かれた見取り図から判断するに、温泉は小さいものでも建物一つと同じぐらい、そして一番でかいものとなると建物がいくつも入りそうな程に大きい。
一体どれぐらいの大きさなのだろうかと気になった加賀が八木へと尋ねるが、やはりそこは入るときのお楽しみと言うことであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

こちらの世界でも図太く生きていきます

柚子ライム
ファンタジー
銀座を歩いていたら異世界に!? 若返って異世界デビュー。 がんばって生きていこうと思います。 のんびり更新になる予定。 気長にお付き合いいただけると幸いです。 ★加筆修正中★ なろう様にも掲載しています。

加護とスキルでチートな異世界生活

どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!? 目を覚ますと真っ白い世界にいた! そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する! そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる 初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです ノベルバ様にも公開しております。 ※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません

生活魔法しか使えない少年、浄化(クリーン)を極めて無双します(仮)(習作3)

田中寿郎
ファンタジー
壁しか見えない街(城郭都市)の中は嫌いだ。孤児院でイジメに遭い、無実の罪を着せられた幼い少年は、街を抜け出し、一人森の中で生きる事を選んだ。武器は生活魔法の浄化(クリーン)と乾燥(ドライ)。浄化と乾燥だけでも極めれば結構役に立ちますよ? コメントはたまに気まぐれに返す事がありますが、全レスは致しません。悪しからずご了承願います。 (あと、敬語が使えない呪いに掛かっているので言葉遣いに粗いところがあってもご容赦をw) 台本風(セリフの前に名前が入る)です、これに関しては助言は無用です、そういうスタイルだと思ってあきらめてください。 読みにくい、面白くないという方は、フォローを外してそっ閉じをお願いします。 (カクヨムにも投稿しております)

目覚めたら地下室!?~転生少女の夢の先~

そらのあお
ファンタジー
夢半ばに死んでしまった少女が異世界に転生して、様々な困難を乗り越えて行く物語。 *小説を読もう!にも掲載中

ユニークスキルで異世界マイホーム ~俺と共に育つ家~

楠富 つかさ
ファンタジー
 地震で倒壊した我が家にて絶命した俺、家入竜也は自分の死因だとしても家が好きで……。  そんな俺に転生を司る女神が提案してくれたのは、俺の成長に応じて育つ異空間を創造する力。この力で俺は生まれ育った家を再び取り戻す。  できれば引きこもりたい俺と異世界の冒険者たちが織りなすソード&ソーサリー、開幕!! 第17回ファンタジー小説大賞にエントリーしました!

望んでいないのに転生してしまいました。

ナギサ コウガ
ファンタジー
長年病院に入院していた僕が気づいたら転生していました。 折角寝たきりから健康な体を貰ったんだから新しい人生を楽しみたい。 ・・と、思っていたんだけど。 そう上手くはいかないもんだね。

加工を極めし転生者、チート化した幼女たちとの自由気ままな冒険ライフ

犬社護
ファンタジー
交通事故で不慮の死を遂げてしまった僕-リョウトは、死後の世界で女神と出会い、異世界へ転生されることになった。事前に転生先の世界観について詳しく教えられ、その場でスキルやギフトを練習しても構わないと言われたので、僕は自分に与えられるギフトだけを極めるまで練習を重ねた。女神の目的は不明だけど、僕は全てを納得した上で、フランベル王国王都ベルンシュナイルに住む貴族の名門ヒライデン伯爵家の次男として転生すると、とある理由で魔法を一つも習得できないせいで、15年間軟禁生活を強いられ、15歳の誕生日に両親から追放処分を受けてしまう。ようやく自由を手に入れたけど、初日から幽霊に憑かれた幼女ルティナ、2日目には幽霊になってしまった幼女リノアと出会い、2人を仲間にしたことで、僕は様々な選択を迫られることになる。そしてその結果、子供たちが意図せず、どんどんチート化してしまう。 僕の夢は、自由気ままに世界中を冒険すること…なんだけど、いつの間にかチートな子供たちが主体となって、冒険が進んでいく。 僕の夢……どこいった?

気がついたら異世界に転生していた。

みみっく
ファンタジー
社畜として会社に愛されこき使われ日々のストレスとムリが原因で深夜の休憩中に死んでしまい。 気がついたら異世界に転生していた。 普通に愛情を受けて育てられ、普通に育ち屋敷を抜け出して子供達が集まる広場へ遊びに行くと自分の異常な身体能力に気が付き始めた・・・ 冒険がメインでは無く、冒険とほのぼのとした感じの日常と恋愛を書いていけたらと思って書いています。 戦闘もありますが少しだけです。

処理中です...