291 / 332
289話 「そう言えばそんな時期3」
しおりを挟む
カラリと晴れた秋晴れの空の下、ぼーっと空を見上げる加賀の姿があった。
「まだ午前中なのにねえ」
うー(あといっぽーん)
収穫祭でスペアリブを出すことにした加賀であったが、やはり数を用意するのは大変と言うことで少なめに用意し開店する事にした。
そして開店すると同時に開くのを待っていた宿の皆が殺到しスペアリブの半分以上を食べてしまったのである。
その後はスペアリブにかぶりつく姿に惹かれて次々に客がやって来た為、開店して2時間足らずでほとんどの商品を売り切ってしまったのだ。
「……食べちゃおっか?」
うー(ひょー)
たまたま客が途切れ、手元には1本のスペアリブが丸ごと残っている。
物欲しそうに見詰めるうーちゃんの視線に負けた加賀は看板をしまい、スペアリブを出刃包丁で叩き切る様に切り分けていく。
1本が加賀に腕ほどのあるスペアリブは切り分けて丁度良いボリュームとなるのだ。
「加賀っち~。まだお肉残って……る……?」
そこに酒瓶を片手にシェイラがやってきて、加賀に声を掛ける。
開店と同時にきっちり食ってはいたが再び食べたくなったのだろう、だが彼女の視界に入ったのは商品が無くなった屋台と、裏でこそこそとスペアリブに齧り付く二人の姿。
「あと1個あるよん。ほい」
「あ、ありがとー」
しょんぼりした表情を浮かべたシェイラにまだ手を付けていないスペアリブを渡す加賀。
受け取ったシェイラはニコニコ顔で椅子に腰掛けた。
「てっかもう売り切れたんだ? 早いねえ」
「宿の皆が半分ぐらい買っていったからねー……んし。それじゃ屋台片付けちゃうかー」
早々にスペアリブを平らげた3人。
加賀は皆が食べ終わったのを確認すると椅子から立ち上がりぐぐっと伸びをする。
「1時間もあれば終わるんで、そしたら祭り見て廻りましょい」
「りょーかい! それぐらいに宿に戻るねー!」
祭りを見て回るのは屋台を片付けてからにする様だ。
酒瓶を振りどこかに駆けていったシェイラが見えなくなったのうぃ見て、加賀は片付けを始めるのであった。
「ふぃ……洗い物終わりっと」
ぐい、と額に浮かんだ汗を拭う。
屋台は片付け終わり、洗い物も終えた加賀は前掛けを外し、厨房から食堂へと足を踏み入れる。
「うーちゃんはー……居た、けどお昼寝中と」
食堂にはソファーの上で爆睡するうーちゃんがいた。
加賀が洗い物をしている間にねこけていた様だ。
「アイネさんどーします?」
再び厨房へと顔を覗かせた加賀は、奥で何やら作業をしているアイネへと声を掛ける。
「……どうしようね? 夜もお祭りに行ったままになるのなら私も行こうと思うけど……」
「聞いてみましょかねー」
作業がまだ時間が掛かるらしく、夜なら参加すると言うアイネ。
そろそろシェイラも来る時間であり、とりあえず夜はどうするのかと聞くことにする。
「夜? もっちろん夜も参加するよー! ってか夜が本番じゃん!」
宿に戻ってきたシェイラに早速尋ねた加賀であったが、応えは勿論夜も参するとの事。
「そう……それなら夕方以降参加しようかな……それまでに仕上げておくから」
「ん、了解でっす」
アイネの参加は夕方以降となる様だ。
「んじゃ、大通り通って噴水の辺りまで行こうかねー。あ、途中で気になるお店あったら寄っていこうね」
「おー」
見送りに玄関まで来たアイネに手を振り大通りへと出た二人。
出店が多いのは街の中心部であり、ひとまずそこを目指して進んでいく。
「改めてみると食べ物以外のお店も結構あるねえ」
「そりゃそーじゃん。何か気になるのあった? 寄ってみるよー」
街の中心に近付くとちらほらと出店が目につくようになる。
それらは食べ物だけを扱っているわけでは無く、中には加賀が過去に体験した祭りを思い起こす様な店もある。
「んー……あれ? あの的に当てるやつ何か見たことある人が」
シェイラの言葉にキョロキョロと辺りを見渡していた加賀であったが、あるお店を見て首を傾げる。
「んー? ……何だ、アルヴィンとヒューゴじゃん」
見慣れた人物がいると思えば、アルヴィンとヒューゴの二人であった。
たまに喧嘩する二人であるが、ちょくちょく連んで居たりする。
「アルヴィンさん弓も得意何だっけ。何か良い景品あったのかな」
「やー、ヒューゴのあの顔見る限り違うと思うよー」
「……むっちゃニヤニヤしてるっ」
アルヴィンは手に弓を持っていた。
それを横でヒューゴが見ているのだが、その顔はとても楽しそうである。
「何してんの二人とも」
ちょっと呆れた視線で二人を見るシェイラ。
二人の接近に気が付いたヒューゴが手を上げ応える。アルヴィンは弓を構える事に集中しているのか反応は見せない。
「おう、シェイラに加賀ちゃん……てことはもう全部売り切れかよ、まじか」
「売り切れだよー」
「最初に食っておいて正解だったな……ああ」
後でもう一度食おうと思っていたのだろう、スペアリブが全て売り切れたと知ってヒューゴはがっくりと肩を落とす。
そしてああと呟くとアルヴィンの方を向き言葉を続ける。
「この糞エルフ様が御自慢の弓の腕を披露してくれるそーで、私め感謝感激あぶふっ」
からかうような口調で話すヒューゴの顔面ににアルヴィンの拳が突き刺さる。
「気が散るので黙っててください」
「て、てめー……グーでやりやがったな」
「これ、的に当てると景品貰えるのかな?」
「ん? そこに並んでるのがそうだよ……お嬢ちゃんにはちょっとばかし難易度高いかなあ」
お互いガン付け合う二人をスルーし店について話す加賀。
それに反応した店主であるが、加賀の姿をざっと見て申し訳なさそうに加賀には出来そうにないと告げる。
「んー? ……的遠くないっ!?」
どういう事だろうと、アルヴィンが先程まで狙っていた方へ視線を向け、驚く加賀。
そこには的らしき板が立てられていたが、加賀が知っている的当てと比べるとどうにも距離が遠すぎた。
「あれぐらいじゃないと景品皆持ってかれちまうからなあ」
「あ、そか弓扱える人が多いのね」
ダンジョンのある街と言うことで、現在街には弓を扱える人物が割と居たりする。
的が近ければ景品はあっさり持って行かれてしまう。なのでこの店では的が大分遠目にしてあるのだ。
「まだ午前中なのにねえ」
うー(あといっぽーん)
収穫祭でスペアリブを出すことにした加賀であったが、やはり数を用意するのは大変と言うことで少なめに用意し開店する事にした。
そして開店すると同時に開くのを待っていた宿の皆が殺到しスペアリブの半分以上を食べてしまったのである。
その後はスペアリブにかぶりつく姿に惹かれて次々に客がやって来た為、開店して2時間足らずでほとんどの商品を売り切ってしまったのだ。
「……食べちゃおっか?」
うー(ひょー)
たまたま客が途切れ、手元には1本のスペアリブが丸ごと残っている。
物欲しそうに見詰めるうーちゃんの視線に負けた加賀は看板をしまい、スペアリブを出刃包丁で叩き切る様に切り分けていく。
1本が加賀に腕ほどのあるスペアリブは切り分けて丁度良いボリュームとなるのだ。
「加賀っち~。まだお肉残って……る……?」
そこに酒瓶を片手にシェイラがやってきて、加賀に声を掛ける。
開店と同時にきっちり食ってはいたが再び食べたくなったのだろう、だが彼女の視界に入ったのは商品が無くなった屋台と、裏でこそこそとスペアリブに齧り付く二人の姿。
「あと1個あるよん。ほい」
「あ、ありがとー」
しょんぼりした表情を浮かべたシェイラにまだ手を付けていないスペアリブを渡す加賀。
受け取ったシェイラはニコニコ顔で椅子に腰掛けた。
「てっかもう売り切れたんだ? 早いねえ」
「宿の皆が半分ぐらい買っていったからねー……んし。それじゃ屋台片付けちゃうかー」
早々にスペアリブを平らげた3人。
加賀は皆が食べ終わったのを確認すると椅子から立ち上がりぐぐっと伸びをする。
「1時間もあれば終わるんで、そしたら祭り見て廻りましょい」
「りょーかい! それぐらいに宿に戻るねー!」
祭りを見て回るのは屋台を片付けてからにする様だ。
酒瓶を振りどこかに駆けていったシェイラが見えなくなったのうぃ見て、加賀は片付けを始めるのであった。
「ふぃ……洗い物終わりっと」
ぐい、と額に浮かんだ汗を拭う。
屋台は片付け終わり、洗い物も終えた加賀は前掛けを外し、厨房から食堂へと足を踏み入れる。
「うーちゃんはー……居た、けどお昼寝中と」
食堂にはソファーの上で爆睡するうーちゃんがいた。
加賀が洗い物をしている間にねこけていた様だ。
「アイネさんどーします?」
再び厨房へと顔を覗かせた加賀は、奥で何やら作業をしているアイネへと声を掛ける。
「……どうしようね? 夜もお祭りに行ったままになるのなら私も行こうと思うけど……」
「聞いてみましょかねー」
作業がまだ時間が掛かるらしく、夜なら参加すると言うアイネ。
そろそろシェイラも来る時間であり、とりあえず夜はどうするのかと聞くことにする。
「夜? もっちろん夜も参加するよー! ってか夜が本番じゃん!」
宿に戻ってきたシェイラに早速尋ねた加賀であったが、応えは勿論夜も参するとの事。
「そう……それなら夕方以降参加しようかな……それまでに仕上げておくから」
「ん、了解でっす」
アイネの参加は夕方以降となる様だ。
「んじゃ、大通り通って噴水の辺りまで行こうかねー。あ、途中で気になるお店あったら寄っていこうね」
「おー」
見送りに玄関まで来たアイネに手を振り大通りへと出た二人。
出店が多いのは街の中心部であり、ひとまずそこを目指して進んでいく。
「改めてみると食べ物以外のお店も結構あるねえ」
「そりゃそーじゃん。何か気になるのあった? 寄ってみるよー」
街の中心に近付くとちらほらと出店が目につくようになる。
それらは食べ物だけを扱っているわけでは無く、中には加賀が過去に体験した祭りを思い起こす様な店もある。
「んー……あれ? あの的に当てるやつ何か見たことある人が」
シェイラの言葉にキョロキョロと辺りを見渡していた加賀であったが、あるお店を見て首を傾げる。
「んー? ……何だ、アルヴィンとヒューゴじゃん」
見慣れた人物がいると思えば、アルヴィンとヒューゴの二人であった。
たまに喧嘩する二人であるが、ちょくちょく連んで居たりする。
「アルヴィンさん弓も得意何だっけ。何か良い景品あったのかな」
「やー、ヒューゴのあの顔見る限り違うと思うよー」
「……むっちゃニヤニヤしてるっ」
アルヴィンは手に弓を持っていた。
それを横でヒューゴが見ているのだが、その顔はとても楽しそうである。
「何してんの二人とも」
ちょっと呆れた視線で二人を見るシェイラ。
二人の接近に気が付いたヒューゴが手を上げ応える。アルヴィンは弓を構える事に集中しているのか反応は見せない。
「おう、シェイラに加賀ちゃん……てことはもう全部売り切れかよ、まじか」
「売り切れだよー」
「最初に食っておいて正解だったな……ああ」
後でもう一度食おうと思っていたのだろう、スペアリブが全て売り切れたと知ってヒューゴはがっくりと肩を落とす。
そしてああと呟くとアルヴィンの方を向き言葉を続ける。
「この糞エルフ様が御自慢の弓の腕を披露してくれるそーで、私め感謝感激あぶふっ」
からかうような口調で話すヒューゴの顔面ににアルヴィンの拳が突き刺さる。
「気が散るので黙っててください」
「て、てめー……グーでやりやがったな」
「これ、的に当てると景品貰えるのかな?」
「ん? そこに並んでるのがそうだよ……お嬢ちゃんにはちょっとばかし難易度高いかなあ」
お互いガン付け合う二人をスルーし店について話す加賀。
それに反応した店主であるが、加賀の姿をざっと見て申し訳なさそうに加賀には出来そうにないと告げる。
「んー? ……的遠くないっ!?」
どういう事だろうと、アルヴィンが先程まで狙っていた方へ視線を向け、驚く加賀。
そこには的らしき板が立てられていたが、加賀が知っている的当てと比べるとどうにも距離が遠すぎた。
「あれぐらいじゃないと景品皆持ってかれちまうからなあ」
「あ、そか弓扱える人が多いのね」
ダンジョンのある街と言うことで、現在街には弓を扱える人物が割と居たりする。
的が近ければ景品はあっさり持って行かれてしまう。なのでこの店では的が大分遠目にしてあるのだ。
0
お気に入りに追加
823
あなたにおすすめの小説
スライムの恩返しで、劣等生が最強になりました
福澤賢二郎
ファンタジー
「スライムの恩返しで劣等生は最強になりました」は、劣等生の魔術師エリオットがスライムとの出会いをきっかけに最強の力を手に入れ、王女アリアを守るため数々の試練に立ち向かう壮大な冒険ファンタジー。友情や禁断の恋、そして大陸の未来を賭けた戦いが描かれ、成長と希望の物語が展開します。
玲眠の真珠姫
紺坂紫乃
ファンタジー
空に神龍族、地上に龍人族、海に龍神族が暮らす『龍』の世界――三龍大戦から約五百年、大戦で最前線に立った海底竜宮の龍王姫・セツカは魂を真珠に封じて眠りについていた。彼女を目覚めさせる為、義弟にして恋人であった若き隻眼の将軍ロン・ツーエンは、セツカの伯父であり、義父でもある龍王の命によって空と地上へと旅立つ――この純愛の先に待ち受けるものとは? ロンの悲願は成就なるか。中華風幻獣冒険大河ファンタジー、開幕!!
こちらの世界でも図太く生きていきます
柚子ライム
ファンタジー
銀座を歩いていたら異世界に!?
若返って異世界デビュー。
がんばって生きていこうと思います。
のんびり更新になる予定。
気長にお付き合いいただけると幸いです。
★加筆修正中★
なろう様にも掲載しています。
加護とスキルでチートな異世界生活
どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!?
目を覚ますと真っ白い世界にいた!
そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する!
そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる
初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです
ノベルバ様にも公開しております。
※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません
生活魔法しか使えない少年、浄化(クリーン)を極めて無双します(仮)(習作3)
田中寿郎
ファンタジー
壁しか見えない街(城郭都市)の中は嫌いだ。孤児院でイジメに遭い、無実の罪を着せられた幼い少年は、街を抜け出し、一人森の中で生きる事を選んだ。武器は生活魔法の浄化(クリーン)と乾燥(ドライ)。浄化と乾燥だけでも極めれば結構役に立ちますよ?
コメントはたまに気まぐれに返す事がありますが、全レスは致しません。悪しからずご了承願います。
(あと、敬語が使えない呪いに掛かっているので言葉遣いに粗いところがあってもご容赦をw)
台本風(セリフの前に名前が入る)です、これに関しては助言は無用です、そういうスタイルだと思ってあきらめてください。
読みにくい、面白くないという方は、フォローを外してそっ閉じをお願いします。
(カクヨムにも投稿しております)
ユニークスキルで異世界マイホーム ~俺と共に育つ家~
楠富 つかさ
ファンタジー
地震で倒壊した我が家にて絶命した俺、家入竜也は自分の死因だとしても家が好きで……。
そんな俺に転生を司る女神が提案してくれたのは、俺の成長に応じて育つ異空間を創造する力。この力で俺は生まれ育った家を再び取り戻す。
できれば引きこもりたい俺と異世界の冒険者たちが織りなすソード&ソーサリー、開幕!!
第17回ファンタジー小説大賞にエントリーしました!
望んでいないのに転生してしまいました。
ナギサ コウガ
ファンタジー
長年病院に入院していた僕が気づいたら転生していました。
折角寝たきりから健康な体を貰ったんだから新しい人生を楽しみたい。
・・と、思っていたんだけど。
そう上手くはいかないもんだね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる