異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

文字の大きさ
上 下
286 / 332

283話 「収穫の時期」

しおりを挟む
お昼を食べ終え、休憩がてらに加賀の部屋で本読む八木と加賀の二人。
だがどうも加賀の様子がおかしい、時折本を読む手を止めにまにまとした笑みを浮かべている。
そんな加賀の様子を八木は奇妙なものを見るような目で見ていた。

「……ふへへ」

「……」

ついには笑い声まで発し始めた。
八木の眉がきゅっと八の字になる。

「む、なにさー」

「いや……急に笑い出すから」

加賀の方もそんな八木の様子に気が付いた様だ。
ぷくっと頬を膨らませた顔を八木に向ける。

「だってさー、もうすぐ秋なんだよ?」

「……うん?」

確かにもうすぐ秋だがそれが笑い出すのと何か関係あるのだろうか。
八木はいまいち理解が出来ないといった様子でただ首を傾げるばかりである。

「収穫の時期だよ収穫のー」

「まあ確かにそうだけど……そんな喜ぶ事か? 別に去年は普通にしてたべ……何かあったっけ?」

収穫の時期と言うのは確かに加賀に取って喜ばしいことではあるだろう。
だがそうだとしても先程の加賀の様な反応になるとは八木には思えなかった。
現に八木の記憶が確かなら去年の加賀は普通な様子であったはずである。

「有るに決まっているよきみぃ~」

「急に上司風の口調にならないでください」

「ノリ悪いぞー」

乗ってこない八木にぶーぶー文句を言う加賀。
少し恥ずかしかったのか軽く咳払いをすると口を開いた。

「まーあれだよ。この間の食べ物のなる木あったでしょ、森に行ったときにそろそろ成るって教えてもらったんだよね」

以前森で見つけた過去の神の落とし子が残していった建造物、その隠し部屋で手に入れた特殊な種。
守護者を兼ねていた像に託していたが、ついに実りの時期がやってきたらしい。

「っほー。随分と早いな……」

「そこはほら、神の落とし子特製だし?」

ついにとは言ってもほんの数ヶ月しか経っていなかったりするが……。
なる物も特殊だがその成長過程もまた特殊である様だ。

「まあな……んで、いつ頃収穫に行くん?」

「来週だねー。皆もやっぱ連れて行きたいしー」

何を植えるかは宿の皆から話を聞いて決めている。
それもあって加賀は皆を出来るだけ連れて行こうと考えているのだ。

「そうだなあ」

「八木も誘ってみたら?」

「ん……そうだな、せっかくだしそうするか」

それにせっかく皆で行くのであれば、何も宿に居る人限定で無くとも良い。
二人は各々思い浮かぶ人達へと声をかけに行くのであった。


宿の探索者達への声掛けは加賀が担当する様で、夕食を前に帰ってきた探索者達を見つけては声をかけている。

「ねーねー。来週のどこかで暇な日ってなーい?」

まずは皆の開いている日を確認する必要がある。
全員が同じ日に暇になる事は無いだろうが、出来るだけ大勢で行けるならそれに越したことは無い。

「有るっちゃ有るけど、無いっちゃ無い」

「むー?」

「何も無ければダンジョンに行きますが、何か有るのでしたら何時でも休めますよ」

「そかそか。えっとね、実はね――」


一方の八木はやはりと言うかエルザへと声をかける為ギルドへと向かっていた。
モヒカン達は後回しらしい。

「エルザさん、来週なんですけど……どこか開いている日ありますか?」

「……そうですね、どの日でも大丈夫ですよ。あ、でも出かける当日に言われるとさすがに厳しいです……」

「ちゃんと事前に言いますんでその辺は大丈夫っす。実はですね――」

ドラゴンへの声掛けはリザートマンへメッセージを託すことにした様だ。
リザートマン達の住処にある祭壇のような場所でリザートマン達が身振り手振りを交えながらドラゴンへと預かったメッセージを伝えていた。

「ほう、また何かイベントがあると」

「今度は森の中でやるようです」

「我が輩は行くとして、主らも時間はあれば参加すると良いだろう」

割と暇なドラゴンであるが、特に悩むことも無く参加する事を即決する。

「後は彼奴らだが……」

そう言って振り返った先に見えるのは汽水湖の中央に位置する島。
そこでは現在2匹の飛竜が住処を作成中だったりする。
邪魔するのも悪いかと考えたドラゴンであるが、やはり声だけは掛けてみるかとゆっくりと水中へと潜って行く。



なお、泣きながら断られた模様。
先日の出来事がトラウマになっているらしい……。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

八十神天従は魔法学園の異端児~神社の息子は異世界に行ったら特待生で特異だった

根上真気
ファンタジー
高校生活初日。神社の息子の八十神は異世界に転移してしまい危機的状況に陥るが、神使の白兎と凄腕美人魔術師に救われ、あれよあれよという間にリュケイオン魔法学園へ入学することに。期待に胸を膨らますも、彼を待ち受ける「特異クラス」は厄介な問題児だらけだった...!?日本の神様の力を魔法として行使する主人公、八十神。彼はその異質な能力で様々な苦難を乗り越えながら、新たに出会う仲間とともに成長していく。学園×魔法の青春バトルファンタジーここに開幕!

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

お菓子の国の勇者たち

ことのは工房
ファンタジー
お菓子の国の勇者たち 魔法の世界には、すべてが甘いお菓子でできている国があった。しかし、ある日お菓子たちが魔法によって動き始め、国中を混乱させる。主人公はお菓子の王国の伝説の勇者として、動き回るお菓子たちを元に戻すため、甘くて楽しい冒険を繰り広げる。

人見知り転生させられて魔法薬作りはじめました…

雪見だいふく
ファンタジー
 私は大学からの帰り道に突然意識を失ってしまったらしい。  目覚めると 「異世界に行って楽しんできて!」と言われ訳も分からないまま強制的に転生させられる。 ちょっと待って下さい。私重度の人見知りですよ?あだ名失神姫だったんですよ??そんな奴には無理です!!     しかし神様は人でなし…もう戻れないそうです…私これからどうなるんでしょう?  頑張って生きていこうと思ったのに…色んなことに巻き込まれるんですが…新手の呪いかなにかですか?   これは3歩進んで4歩下がりたい主人公が騒動に巻き込まれ、時には自ら首を突っ込んでいく3歩進んで2歩下がる物語。 ♪♪   注意!最初は主人公に対して憤りを感じられるかもしれませんが、主人公がそうなってしまっている理由も、投稿で明らかになっていきますので、是非ご覧下さいませ。 ♪♪ 小説初投稿です。 この小説を見つけて下さり、本当にありがとうございます。 至らないところだらけですが、楽しんで頂けると嬉しいです。 完結目指して頑張って参ります

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

処理中です...