上 下
285 / 332

283話 「縄張り争い4」

しおりを挟む
「……うわぁ、うーちゃん容赦ないね」

地面に叩きつけられた飛竜は生きてこそいるが翼はバッキバキにへし折れもう飛べそうに無い、その他にも全体的にダメージが入っているのだろう、起き上がろうにも起き上がれないといった様子である。
以前ドラゴンに対し蹴りを入れたときより明らかに飛竜に受けたダメージが大きい。どうもドラゴンに対しては相当手加減をしていたらしい。

「こっちに攻撃仕掛けようとしたんだもの、生きているだけまし」

そう言って2匹の竜へと近付いていくアイネ。
黒い霞がダダ漏れな辺りどう見ても話し合いに行く様には見えない。

「ちょ、ちょっと待ってくだされ!」

「む? うーちゃんステイステイ。アイネさんもー」

アイネと2匹の竜との間に滑り込むように割って入るドラゴン。
それを見て加賀はアイネの後ろを着いて行こうとしたうーちゃんにしがみつき、アイネにも声をかける。
とりあえず二人が止まったのを見てホッとした様子を見せたドラゴンであるが、姿勢を正すと皆に向かい話し始めた。


「……という訳で番となった竜が縄張りを求めて他の竜と争うと言うのは良くある事でして……その、出来れば食べるのは勘弁して頂けないかと……」

「食べないよ!?」

ドラゴンの話しが一旦終わりとりあえず突っ込みを入れる加賀。
話の内容は竜の生態に関する部分であった。今回の様な争いも長い竜生?で見れば割とある事らしく、普通はある程度実力が分かったところで弱い個体が引き下がるか、まれに若い個体に縄張りを譲ってやる事もあるそうだ。

「リザートマンの住処を襲ったのは? 怪我した者が出ていたけど」

「襲ったふり……ですが、まだ若いからでしょう。ブレスの制御が甘かった様で……」

「被害者を出すつもりは無かった……申し訳ないと思ってる」

アイネの目を見て身を竦ませ顔を伏せる飛竜達。
そして伏せた先に下から覗き込むうーちゃんを見て、泣きそうになりながら反省の言葉を述べる。

「さっきこっちにブレス吐こうとしたね」

「……警告のつもりで……地面に、当てよう……と」

飛竜以外からはその顔は見えないが、それが正解だったのかも知れない。
間近でガン見されているのプレッシャーは相当なもので途切れ途切れに言葉を発するのが精一杯といった様子である。

「……そう」

「ん?」

聞きたい事は聞き終わったのか、話を続けるのを止め加賀へ視線を向けるアイネ。
加賀へ視線を向けていたのはアイネだけでは無かった。ドラゴンやうーちゃん、それに飛竜達の視線も何故か加賀へ向いていた。

「え、何……?」

「事情は分かったけど……どうする?」

「えぇ……ボクが決めるの?」

何故か加賀が結論を出す流れとなっていた。
困惑しながらも何とか頭を回転させ答えを出そうとする加賀。やがて考えがまとまったのか皆の方を向き直して口を開いた。

「とりあえずドラゴンさんとリザートマンさんとで話しあって決めれば良いんじゃないかなーと……ボクらはドラゴンさんが危ないって聞いて来たけど、もう大丈夫そうだし……それで良い?」

加賀が結論を出すと言っても被害を受けたリザートマンやドラゴンの分については加賀が結論を出す部分では無い、そう加賀は考えたようだ。
ドラゴンとリザートマン、飛竜達で話し合う様伝えると3人は宿へと戻るのであった。


「ほー、何か疲れてると思ったらそんな事あったんだ」

そう言って分厚いステーキにかぶりついてモリモリ食べる八木。
その日の夕食時、ぐったりとした様子の加賀が気になった連中は何があったのかを夕飯を食べながら聞いていた。

「結局その2匹の竜はどうなったのです?」

「あー……そのまま汽水湖の島で生活するらしーよ。ドラゴンさんだけだと広すぎるんだって。あと留守にしがちだったから丁度良いとか何とか」

一応話し合いの結果をドラゴンから聞き及んでいた様だ。
汽水湖は広く、ドラゴン一人だけで使うには広すぎる為、ドラゴンは2匹の飛竜に対し汽水湖の中央にある島を住処とする許可を出したらしい。
ちょくちょく人里に遊びに行っては縄張りを留守にするドラゴンにとって丁度良かったのもあるだろう。

「なるほど……ところで加賀さん」

「ん?」

そんな話を加賀の向かいで聞いていたチェスター。
ところで、と前置きすると普段は開いているかも分からない糸目を開いて真剣な眼差しで加賀を見つめる。

「この肉って何の肉ですか……?」

その言葉を聞いて周りに居た者達の手が一斉にぴたりと止まる。

「あれ、美味しくなかったー?」

「いえ、美味しいのですが……初めて食べる味なので……」

汽水湖に現れたと言う2匹の飛竜と、その日の夕飯で出された初めて食べる分厚いステーキ肉。
嫌な想像が膨らみフォークをもつ手が震える。

「あれ、前にも食べたはずだけど……」

「……あ、そうなの? てっきりドラゴンの肉かと思ったぜー。うん、うめえ」

不思議そうに首を傾げそう言った加賀を見て、安心したように笑い、ステーキを口にするヒューゴ。



「あ、そっか。飛竜だから味違うのかな」

「やっぱドラゴンじゃねーかっ」

しっかりドラゴン肉だったらしい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スライムの恩返しで、劣等生が最強になりました

福澤賢二郎
ファンタジー
「スライムの恩返しで劣等生は最強になりました」は、劣等生の魔術師エリオットがスライムとの出会いをきっかけに最強の力を手に入れ、王女アリアを守るため数々の試練に立ち向かう壮大な冒険ファンタジー。友情や禁断の恋、そして大陸の未来を賭けた戦いが描かれ、成長と希望の物語が展開します。

加護とスキルでチートな異世界生活

どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!? 目を覚ますと真っ白い世界にいた! そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する! そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる 初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです ノベルバ様にも公開しております。 ※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません

生活魔法しか使えない少年、浄化(クリーン)を極めて無双します(仮)(習作3)

田中寿郎
ファンタジー
壁しか見えない街(城郭都市)の中は嫌いだ。孤児院でイジメに遭い、無実の罪を着せられた幼い少年は、街を抜け出し、一人森の中で生きる事を選んだ。武器は生活魔法の浄化(クリーン)と乾燥(ドライ)。浄化と乾燥だけでも極めれば結構役に立ちますよ? コメントはたまに気まぐれに返す事がありますが、全レスは致しません。悪しからずご了承願います。 (あと、敬語が使えない呪いに掛かっているので言葉遣いに粗いところがあってもご容赦をw) 台本風(セリフの前に名前が入る)です、これに関しては助言は無用です、そういうスタイルだと思ってあきらめてください。 読みにくい、面白くないという方は、フォローを外してそっ閉じをお願いします。 (カクヨムにも投稿しております)

望んでいないのに転生してしまいました。

ナギサ コウガ
ファンタジー
長年病院に入院していた僕が気づいたら転生していました。 折角寝たきりから健康な体を貰ったんだから新しい人生を楽しみたい。 ・・と、思っていたんだけど。 そう上手くはいかないもんだね。

気がついたら異世界に転生していた。

みみっく
ファンタジー
社畜として会社に愛されこき使われ日々のストレスとムリが原因で深夜の休憩中に死んでしまい。 気がついたら異世界に転生していた。 普通に愛情を受けて育てられ、普通に育ち屋敷を抜け出して子供達が集まる広場へ遊びに行くと自分の異常な身体能力に気が付き始めた・・・ 冒険がメインでは無く、冒険とほのぼのとした感じの日常と恋愛を書いていけたらと思って書いています。 戦闘もありますが少しだけです。

知らない異世界を生き抜く方法

明日葉
ファンタジー
異世界転生、とか、異世界召喚、とか。そんなジャンルの小説や漫画は好きで読んでいたけれど。よく元ネタになるようなゲームはやったことがない。 なんの情報もない異世界で、当然自分の立ち位置もわからなければ立ち回りもわからない。 そんな状況で生き抜く方法は?

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく

霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。 だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。 どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。 でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!

異世界に来ちゃったよ!?

いがむり
ファンタジー
235番……それが彼女の名前。記憶喪失の17歳で沢山の子どもたちと共にファクトリーと呼ばれるところで楽しく暮らしていた。 しかし、現在森の中。 「とにきゃく、こころこぉ?」 から始まる異世界ストーリー 。 主人公は可愛いです! もふもふだってあります!! 語彙力は………………無いかもしれない…。 とにかく、異世界ファンタジー開幕です! ※不定期投稿です…本当に。 ※誤字・脱字があればお知らせ下さい (※印は鬱表現ありです)

処理中です...