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247話 「夢の魔道具3」

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先程のショックからヒューゴは何とか立ち直ったらしい。
香箱座りを続ける加賀を光を失った目でぼーっと見つめている。

「……本当にそうしてると普通の猫にしか見えんよな」

「加賀が小柄でやせ気味だったのもあるでしょうね、太めの猫にしか見えませんよ」

猫の獣人は体長1mほどで体型はわりと丸っこいそうだ。
だが元となった加賀は小柄で痩せがたなので結果として太めの猫にしか見えなくなったのだ。

「二人とも何をしているんですか?」

他の探索者達も徐々に食堂に集まり始めていたようだ。
食堂に入ってきたチェスターであるが、入り口近くで突っ立っていたアルヴィンとヒューゴの二人を見て立ち止まる。

「もー入り口で止まらないでよー……っぎゃー!猫!」

そしてその後ろから文句を言いつつひょっこり顔を出すシェイラ。
中を確認して文句の一つでも言おうと思っていたのだろう。
顔を出した先でばっちり加賀の姿をその視界に捉え、叫ぶ。

「あん? お前猫苦手だったか?」

「いやいやいや逆、逆! むっちゃ好き!」

その叫びは拒絶のものではなく喜びから来るものであったらしい。
チェスターをぐいと押しのけソファーににじり寄るとすっと加賀に手を伸ばす。

「あー……もうこのお腹周りの手触りがたまらない」

加賀のお腹周りの毛はふかふかしていて手触りが良いらしい。
先ほどアイネもそのあたりを撫でていたがシェイラも同様であった。

「大人しいですね……それ、本当に猫ですか?」

「え?」

お腹周りを触ると嫌がる猫は多い。初対面の者が相手なら尚更だ。
だが猫は嫌がる素振りを見せず撫でられるがままであり、その姿を見たチェスターが首を傾げ呟く。

「するどいなチェスター」

「え? え?」

未だに死んだ目のままチェスターに話しかけるヒューゴ。
その死んだ目を見てチェスターは理解してしまったらしい。気の毒そうな目でヒューゴを見る。
そして何の事かさっぱりなシェイラは猫とヒューゴを交互に観るを繰り返していた。

にゃん(加賀ダヨー)

「ええええええ!?」

突然目の前の猫が喋ったことに驚き飛び退るシェイラ。

「まあ、加賀っちでもいいや」

が、猫を触れれば別に正体が加賀でも問題ないらしい。すぐにお腹を撫でるのを再開しだす。


「そろそろご飯出しても大丈夫?」

シェイラが加賀のお腹を満足いくまで撫でた頃を見計らってだろうか、アイネが皆に声を掛ける。

「お、飯か」

「加賀っちも食べればー? その様子じゃ手伝ったりも出来ないんでしょ?」

皆がテーブルに向かうのをソファーに座ったまま見送るつのりだった加賀であるが、シェイラに声をかけられちらりとアイネの顔を伺う。

「うん、加賀も食べると良いよ。今用意するね」

にゃー(ありがとアイネさんー)

アイネの了解も得た加賀はソファーからずりずりと降りるとテーブルに向かっていく。二足で。

「くっ……二足歩行の猫も可愛いな……」

にゃ(……登れない)

猫になったとしても急に運動神経が良くなったりはしないようだ。椅子の縁に爪を引っかけた加賀がぶらぶらと揺れている。


にゃんがにゃんが(うまうま)

皆に手伝ってもらい椅子に登った加賀は夕飯の煮込みハンバーグを美味しそうに食べている。
なんとか小さめのフォークを持つことは出来たので一応は自分で食べられる様だ。

「ただいまーっす」

「お? 八木か……気付くかね、あいつ」

「たぶん? フォーク使ってご飯食べてるし明らかに普通の猫じゃないって事は分かるでしょ」

皆が食事をしていると仕事を終えた八木が宿へと戻ってきたようだ。
荷物を置いてすぐに食堂へと向かった八木は入るなりいつもと違う光景に目を瞬く。

「おぉ? なんで猫……それ加賀?」

にゃー(正解)

猫がフォークを使ってハンバーグを食べている。そんな奇妙な光景を部屋に入るなり見ることになった八木であったが、見事に猫の正体が加賀である事を見抜いたようだ。

「はー、なるほどねえ。そんな魔道具あるんだなあ」

お腹一杯になり、うーちゃんのお腹の上で寝転がる加賀を興味深そうに眺める八木。
その視線はソファーに置いてある魔道具へと移っていく。

「……使ってみるかな」

にゃあ(やめた方がいいと思うよー)

興味を示し魔道具を手にした八木に片目をちらっと開いた加賀が声を掛ける。

にゃが(だってさームキムキなにゃんことか……ちょっと)

「むう……い、いやでも毛で分からないんじゃ?」

猫に変わる際に元の体型が影響される事は分かっている。
つまり八木の場合はでかくてえらく筋肉質な猫になるわけだ。
さすがにそれは八木も嫌だったが様であるが、それでも諦めきれなかったらしい。

……にゃ(スフィンクスタイプになるかもよ?)

「絵面がやべえ……てかこれランダムなのかよ」

スフィンクスタイプのでかくてムキムキな二足歩行する猫を頭に思い浮かべ顔をしかめる八木。

「……嫌な予感がするからやめとく」

それになる事は早々無いとは思うがそれでも嫌な予感が勝ったらしい。
そっと魔道具を元の場所へ戻すのであった。
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