異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

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243話 「精霊」

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何時もの宿の朝。
例によって少し寝坊した八木が探索者達から少し遅れて食堂の席につく。
そこに朝食を持ってきた加賀がテーブルへと朝食を並べていく。

「そういやさー加賀」

「うー?」

探索者達の大半は既に日替わりのメニューを平らげデザートに取り掛かっている。
だいぶ落ち着いた食堂内の様子を見て話しかけても大丈夫だろうと八木は加賀に声をかける。

「精霊ってどんな見た目してんの?」

「……」

八木の質問にぴたりと動きを止める加賀。

「知らにゃい」

「え? でも風呂のお湯入れるのに精霊魔法使ってるじゃん?」

首を振る加賀と首をかしげる八木。
普段から使っている加賀であれば姿を見たことがあるだろうと考えた八木であったが、どうも違うようだ。

「使ってるけど見たことないよー」

「あ、そうなんだ?」

実際に何度も精霊魔法を使ってはいる加賀であるが、お湯を出してほしいときはお湯が出て、火をつけてほしいときは火がぽんと出る。
実際何者かが姿を現して何かをすると言うことは今までなかった事である。

「んー……シェイラさんあたりなら知ってるかもね。聞いてみよっか」

「だな」

分からないものは調べるか聞けば良い。幸いな事に宿には精霊魔法を使えるものが何名かいる。
加賀は食堂で朝からケーキをぱくつくシェイラを見て八木と共に席へと向かうのであった。


「シェイラさんシェイラさん。ちょっと教えてくださーい」

「え、なになにっ?」

急に声を掛けられ驚いたように顔を上げるシェイラ。

「精霊さんってどんな見た目してるんですー?」

「へっ? ……なーんだ、そんな事かー」

一体何を聞かれるのかと身構えていたシェイラは肩透かしを食らったように気の抜けた表情を浮かべる。

「えっと……説明するのもあれだし……加賀っち達なら簡単だよ。単に姿見せてってお願いすれば見れるよ」

ナイフとフォークを皿に置きコップの中身を一口含むと軽く息を吐く。
ちらりと加賀、それに八木の姿を見てから口を開くシェイラ。彼女から伝えられたのは精霊を見る方法である。思ってた以上に簡単なその方法に二人の口がぽかんと開く。

「あ、そうなんだ」

「へーそれだけで良いんすね? どれどれ」

なんだそんな事で見れるのか、そう思ったのだろう。
八木はさっそくとばかりに試そうとする。

「精霊さん! 俺に姿を見せてください!」

「あ……」

「あふぅ……」

一瞬何か赤く光る舌の様なものがちらりと見え、そしてすっと消える。
一体どうしたのかと思えば八木が若干乙女チックな声をだしテーブルに突っ伏してしまう。

「ありゃ魔力切れだねー」

「八木ってば魔力少ないのに無理するから……さっきちらっと見えたのがそうなのかな?」

「そうそう舌先ちろっと見えたっしょ。あれは火の精霊だねー」

「へー」

やはりちらりと見えたものが精霊である様だ。
赤く光る舌……おそらく火トカゲの様な存在だろうか。

「じゃあボクもやってみようかなー……んー、じゃあまずは火の精霊さんかなー」

「あ、加賀っちできるだけゆっくり出てもらってね」

「? ほいほい、それじゃー火の精霊さんゆっくり姿を見せてくださいなー」

八木に続いて加賀も精霊の姿を見ようと始めた所でシェイラからゆっくり出て貰うようにと注意される。
理由は分からないが精霊魔法についてはシェイラのほうがより専門家である、加賀は素直に従ったようである。

「でっか!!?」

「ふわあー!?」

さきほどと同様に何もない空間からぬるりと赤く光る舌、ついで蜥蜴の様な顔がぬっと現れる。
だがその大きさが異常であった。おそらく全身は汽水湖のドラゴンに匹敵する大きさだ。

「まって、ストップ! 一回引っ込んでー!」

そんなものが食堂に出てくればどうなるか、床は抜け、天井を突き破り、最悪建物が崩壊するかもしれない。慌てた加賀は急いで静止し、引っ込むように指示を出した。

「待って待って! でかすぎないっ!?」

「やー、何となく予想してたけどあそこまで大きいとはねー……びっくり」

「どうしよあんなに大きいなんて思わなった……」

ちょっと精霊を見たかっただけ。ただそれだけであるがあの大きさとなると見るだけでも大変である、何せスペースがない。

「小さくなってーてお願いすればなってくれるかも?」

「……やってみよ」

ものは試しとシェイラの提案にのる加賀。

「えーっと……火の精霊さん、次はもっとコンパクトにお願いします……」

加賀の言葉が届いたのだろう、次に出てきた精霊は最初と違いトカゲと認識できるレベルの大きさであった。
片手には乗り切らないだろうが、両手であれば問題なく乗るレベルの大きさである。

「おー……」

「目がくりっとしてかわいいね」

遠目ではトカゲに見えるそれも、近くでみると違う事がよくわかる。
体にまとっているのは鱗ではなく鱗の様に見える火であった。
火で出来ているためだろうか、輪郭が角ばってなく丸くなっているためどこかデフォメルメされたような可愛さがある。
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