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242話 「珍しい組合せ2」
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疲れながらも買い物を続ける八木。
次にはいった店では店員につかまることなくリストにあったものをぽんぽん買い物かごに突っ込んでいく。
うーちゃんもただ見てるだけではなく、買い物かごに商品を突っ込んでいるが、自分の欲しいものを紛れ込ませていたりする。
「あとこいつもください……うーちゃんそいつはリストに無いっしょ。戻しておきなさい」
うー(ぶーぶー)
だがきっちりリストを見ながら買い物をしていた八木はその事にばっちり気が付いていたようである。
ぶーぶー文句を言ううーちゃんから商品を取り、棚へと戻す。
これが加賀の場合であればしょうがないなあと言いながら商品を籠に入れたままにしてしまうだろう。
「はい毎度」
「……ねえねえ、あの人って」
「うん……たぶんそうだよ」
「やっぱりー」
買い物を終え店を出た八木であったが、何やら八木の方をちらちらと伺う若い女性の姿に気が付く。
八木に聞こえるか聞こえないかぎりぎりの声ではあったがどうやら八木について話している事はなんとなくは分かる。
(ついに俺にもモテ期が来たか……)
等考えながらと八木が感慨深げにしていると、背後から袖をくいくいと引かれ振り返る八木。
一瞬誰もいないかと思ったが、視線を下げればそこにはまだ小さな女の子が八木の顔をじっと見上げていた。
「ねえねえおじちゃん」
「おじ……ええと何だいお嬢ちゃん?」
おじちゃん。
無邪気な子供の言葉が八木の心に突き刺さる。
ショックを受けたことも表情に出さず、目線を下げ優し気な声で話しかける八木。
現代日本であればその時点で通報ものである。
「おじちゃん兎さんとお話しできるってほんとー?」
「む……うん、本当だよ」
一瞬なぜそのことを? と思う八木であるが何度となく街中でうーちゃんに話しかけていた事を思い出す。
その場面でも見たのだろうと、話せる事は事実であるので少女の問いに頷き返す。
「すごーいやっぱほんとーだったんだ!」
「はっはっはっ」
純粋そうな少女にすごいと言われまんざらでもない八木。
少女はしばらくぴょんぴょん飛び跳ねていたと思うと、先ほど八木についてひそひそ話していた女性へと一直線に向かっていく。
「ねえねえお姉ちゃん!あの話しほんとーだって!」
「ちょっとあんたっ……あ、ど……どうも」
どうやらこの少女とその女性は姉妹であったらしい。
目がぴったりあってしまい、少し気まずそうに頭を下げる女性。
八木も軽く会釈を返すが、先ほど少女が言った言葉が気になりそのまま女性へ話しかける。
「……姉妹でしたか……ところであの話しというのは? 良ければ教えて頂きたいのですが……」
「えと……兎と必死に話すやばい筋肉が居るって……噂が」
「予想以上に酷い話しだった」
がっくりと地面に膝をつく八木。
決して間違ってはいないのでその分ダイレクトに心にダメージが入ったようだ。
「ご、ごめんなさい」
「いえ、貴女が悪いわけではないので……この兎は人の言葉が分かるんですよ」
「そ、そうなんですか……?」
ただ誤解はといておくべきだろう。
八木はうーちゃんが人の言葉が分かると言うことを女性に伝える。
ここで実際うーちゃんに話しかけてもらい、それの事が事実であると分かりそれが広まれば八木の噂も多少ましになる。かもしれない。
「ええ、試しに話しかけて見るといいですよ。ちゃんと反応してくれますよ」
「うぅ……そ、それじゃ」
八木にそう言われ困ったようにあたりを見渡す女性。
気が付けば一緒にいた女性達は遠く離れたところにいてじっと様子を伺っているようだ。
そしてその口ががんばれと言っているようにぱくぱく動く。
女性はそれを見て観念したのか意を決してうーちゃんへと近寄っていく。
「あの……こんにちは?」
意を決して話しかけた女性であるが、当のうーちゃんは一切反応を見せない。
「あれ……照れてるのかな、ははは」
「……」
おかしいなー?と言いながらうーちゃんをぐいぐいと揺する八木。
「普段はもっと喋るんですけどねー。 ねー? うーちゃん」
何とか反応してもらおうと話かけるが一切反応はない。
それどころか買い物籠からニンジンを取り出すとぽりぽりとかじり始める。
「おーい、うーちゃん?」
うーちゃんにとっては加賀が調理していない人参などまったく食べる気のおきない物であるはずだ、だがうーちゃんはそれをぽりぽりと無表情でかじり続ける。
その様子はどこから見てもただのでかい兎である。
「あの、うーちゃんさん? 聞こえないふりやめてくれませんか? おおーい?」
「あ、あの……失礼しました!」
涙目になりながら必死にうーちゃんに話かけるその姿はまさに噂通りである。
ついに居た堪れなくなった女性が走って逃げだした。
「あっ、ま、待って!」
「お客さん、兎どっかいっちまいますよ?」
「へっ?」
逃げ出した女性をみて呆然とする八木に後ろから店の店員が声をかける。
どういう事かと振り返ればすぐそこにいたはずのうーちゃんがもう遥か彼方をスキップしながら移動していく。
しかも財布の入った籠を持ってだ。
「ちょっ、待って。それ、財布はいったままだから! また一人で好きな物買う気でしょ! お願いっまってええええぇぇぁあああ!!」
この日から街にもう一つ噂が増える事となる。
兎を必死に追いかけまわすやべーのがいると。
「どんまい?」
「うるへーっ」
泣きながら宿に帰った八木。
その肩を加賀がぽんと叩く。
八木は当分うーちゃんと二人で買い物にはいかない、と心に誓うのであった。
次にはいった店では店員につかまることなくリストにあったものをぽんぽん買い物かごに突っ込んでいく。
うーちゃんもただ見てるだけではなく、買い物かごに商品を突っ込んでいるが、自分の欲しいものを紛れ込ませていたりする。
「あとこいつもください……うーちゃんそいつはリストに無いっしょ。戻しておきなさい」
うー(ぶーぶー)
だがきっちりリストを見ながら買い物をしていた八木はその事にばっちり気が付いていたようである。
ぶーぶー文句を言ううーちゃんから商品を取り、棚へと戻す。
これが加賀の場合であればしょうがないなあと言いながら商品を籠に入れたままにしてしまうだろう。
「はい毎度」
「……ねえねえ、あの人って」
「うん……たぶんそうだよ」
「やっぱりー」
買い物を終え店を出た八木であったが、何やら八木の方をちらちらと伺う若い女性の姿に気が付く。
八木に聞こえるか聞こえないかぎりぎりの声ではあったがどうやら八木について話している事はなんとなくは分かる。
(ついに俺にもモテ期が来たか……)
等考えながらと八木が感慨深げにしていると、背後から袖をくいくいと引かれ振り返る八木。
一瞬誰もいないかと思ったが、視線を下げればそこにはまだ小さな女の子が八木の顔をじっと見上げていた。
「ねえねえおじちゃん」
「おじ……ええと何だいお嬢ちゃん?」
おじちゃん。
無邪気な子供の言葉が八木の心に突き刺さる。
ショックを受けたことも表情に出さず、目線を下げ優し気な声で話しかける八木。
現代日本であればその時点で通報ものである。
「おじちゃん兎さんとお話しできるってほんとー?」
「む……うん、本当だよ」
一瞬なぜそのことを? と思う八木であるが何度となく街中でうーちゃんに話しかけていた事を思い出す。
その場面でも見たのだろうと、話せる事は事実であるので少女の問いに頷き返す。
「すごーいやっぱほんとーだったんだ!」
「はっはっはっ」
純粋そうな少女にすごいと言われまんざらでもない八木。
少女はしばらくぴょんぴょん飛び跳ねていたと思うと、先ほど八木についてひそひそ話していた女性へと一直線に向かっていく。
「ねえねえお姉ちゃん!あの話しほんとーだって!」
「ちょっとあんたっ……あ、ど……どうも」
どうやらこの少女とその女性は姉妹であったらしい。
目がぴったりあってしまい、少し気まずそうに頭を下げる女性。
八木も軽く会釈を返すが、先ほど少女が言った言葉が気になりそのまま女性へ話しかける。
「……姉妹でしたか……ところであの話しというのは? 良ければ教えて頂きたいのですが……」
「えと……兎と必死に話すやばい筋肉が居るって……噂が」
「予想以上に酷い話しだった」
がっくりと地面に膝をつく八木。
決して間違ってはいないのでその分ダイレクトに心にダメージが入ったようだ。
「ご、ごめんなさい」
「いえ、貴女が悪いわけではないので……この兎は人の言葉が分かるんですよ」
「そ、そうなんですか……?」
ただ誤解はといておくべきだろう。
八木はうーちゃんが人の言葉が分かると言うことを女性に伝える。
ここで実際うーちゃんに話しかけてもらい、それの事が事実であると分かりそれが広まれば八木の噂も多少ましになる。かもしれない。
「ええ、試しに話しかけて見るといいですよ。ちゃんと反応してくれますよ」
「うぅ……そ、それじゃ」
八木にそう言われ困ったようにあたりを見渡す女性。
気が付けば一緒にいた女性達は遠く離れたところにいてじっと様子を伺っているようだ。
そしてその口ががんばれと言っているようにぱくぱく動く。
女性はそれを見て観念したのか意を決してうーちゃんへと近寄っていく。
「あの……こんにちは?」
意を決して話しかけた女性であるが、当のうーちゃんは一切反応を見せない。
「あれ……照れてるのかな、ははは」
「……」
おかしいなー?と言いながらうーちゃんをぐいぐいと揺する八木。
「普段はもっと喋るんですけどねー。 ねー? うーちゃん」
何とか反応してもらおうと話かけるが一切反応はない。
それどころか買い物籠からニンジンを取り出すとぽりぽりとかじり始める。
「おーい、うーちゃん?」
うーちゃんにとっては加賀が調理していない人参などまったく食べる気のおきない物であるはずだ、だがうーちゃんはそれをぽりぽりと無表情でかじり続ける。
その様子はどこから見てもただのでかい兎である。
「あの、うーちゃんさん? 聞こえないふりやめてくれませんか? おおーい?」
「あ、あの……失礼しました!」
涙目になりながら必死にうーちゃんに話かけるその姿はまさに噂通りである。
ついに居た堪れなくなった女性が走って逃げだした。
「あっ、ま、待って!」
「お客さん、兎どっかいっちまいますよ?」
「へっ?」
逃げ出した女性をみて呆然とする八木に後ろから店の店員が声をかける。
どういう事かと振り返ればすぐそこにいたはずのうーちゃんがもう遥か彼方をスキップしながら移動していく。
しかも財布の入った籠を持ってだ。
「ちょっ、待って。それ、財布はいったままだから! また一人で好きな物買う気でしょ! お願いっまってええええぇぇぁあああ!!」
この日から街にもう一つ噂が増える事となる。
兎を必死に追いかけまわすやべーのがいると。
「どんまい?」
「うるへーっ」
泣きながら宿に帰った八木。
その肩を加賀がぽんと叩く。
八木は当分うーちゃんと二人で買い物にはいかない、と心に誓うのであった。
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