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241話 「珍しい組合せ」
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ある朝の食堂、食事時であればうるさいほどに賑やかなそこも探索者達が皆朝食を終えてダンジョンへと行ってしまい、今は人がほとんどおらず静かなものである。
そんな食堂の扉がガチャリと音を立て開かれた。寝坊した八木が遅めの朝食を取ろうとやってきたのだ。
「と言うわけで、ほい」
「おう?」
休憩中だったのだろうか食堂には加賀、それにうーちゃんが居た。
そして加賀はや入ってきた八木と目が合うなり八木の手にぽんと何かを押しつける。
それは加賀のお財布であった。
「あとうーちゃんも、ほい」
「痛いんっ!?」
そして頭にはてなマークを浮かべている八木に今度はぐいっとうーちゃんを押しつける。
うーちゃんの前足が八木の頬をとらえた。
「なんでいきなり叩かれなきゃならんのだ……」
「ごめん、いきなり押しつけたらびっくりするよねー」
「おう、こっち見て言おうや」
乙女のようなポーズで床に座り込む八木。それをスルーしてうーちゃんを撫で繰り回す加賀。割といつも通りである。
「冗談は置いといて……実は後でちょっと買い物に行ってきて貰いたいのだけど」
うーちゃんから手を離し申し訳なさそうに八木に話す加賀。
どうも料理の仕込みで長時間離れられないらしい。
ちらりと視線をうーちゃんに向け言葉を続ける。
「前にうーちゃん一人で行ったときにね絡まれてたらしいの」
「まじか」
絡まれたと聞いて驚いた表情でうーちゃんを見る八木。
ぐっと前足を構えたうーちゃんが視界に入りすっと目をそらす。
「警備隊の人に後から聞いて知ったんだけどねー。皆地面に埋まってたらしーよ」
「……おう」
その光景がリアルに頭に浮かぶ八木。
少しだけ絡んだ連中に同情してしまう。
「だからうーちゃんだけだと不安で……八木も一緒に行ってくれると嬉しいな、なんて」
「おう、上目遣いやめーや」
上目遣いでお願いする加賀に思いっきり真顔で返す八木。
「お腹でも見せよーか」
あれ?っといった表情を浮かべた後にそんな事をのたまう加賀の頭にチョップをかます八木。
軽くため息を吐くと財布をポケットにしまいこむ。
「……まー暇だしいいよ、何買ってくれば良い?」
八木の言葉に加賀はニコリと微笑むと買い物リストが書かれた紙をを手渡した。
実はちゃっかり用意してあったらしい。
宿をうーちゃんと共に出た八木は渡された紙を眺めながら道をぶらぶらと歩いて行く。
「えーと……春野菜が多いな。リンゴなんて今時期あったか?」
リストの多くは春野菜の様である。
せっかく春になったのだからと積極的に料理に使うようにしているのだ。
だがそんな旬のものが並んだリストの中に明らかに時期が外れているものがあった。
うっうー(ぷっぷくぷー)
りんごと言えば……とうーちゃんへと視線を向ける八木であったが、視線に気付いたうーちゃんは視線をそらすと全身で自分は知りませんとアピールする。
「うーちゃんが書いたのか……今時期は輸入品でもなきゃ多分無いんじゃねーかなあ……ま、一応探してみるけど」
もっともバレバレな態度であった為リンゴと書いたのはうーちゃんだと即ばれたようである。
それはそれとして、時季外れではあるが八木はとりあえずリンゴがあるかどうかを見に八百屋へと向かう事にしたようだ。
「おやおやまあまあ、珍しい組み合わせが来たねえ」
二人を出迎えたのはいつも店番をしている八百屋にお婆さんだ。
いつも加賀がこの八百屋で野菜を買っている事を知っていた八木はお婆さんの姿を見て軽く会釈する。
「どーもっす。いつも加賀が世話になってます」
「こちらこそだよお、いつもあんなに沢山買って貰えて本当助かるわあ。この前だってお野菜いっぱい入荷しちゃった時に――」
ここですぐ買いたいものを伝えておけば良かったのだが、あまり八百屋での買い物になれていない八木はそのタイミングを逃してしまう。
「――あそこのお店がね、アイネさんから教わったお菓子だししててね最近評判なのよ」
いったいどれだけ時間が経過したのだろうか、静かに相槌を打っていた八木の表情が引きつり始めた頃救いの手が現れる。
「ばあさんや、お客さんが困ってるだろ……そこらにしとき」
八百屋のお爺さんだ。
婆さんの話しが長いことを知っている彼は話し込み過ぎない様にとこうして時折様子を見に来ているらしい。
「あらやだ、まあ私ったら……ごめんなさいねえつい話し込んじゃって。それで今日は何が欲しいのかしら」
ぐったりした様子で道を歩く八木。
それに反して先頭を行くうーちゃんは嬉しそうに跳ねながら歩いている。
「すっごい疲れた……そして本当にリンゴあったのが驚きだよ」
うー(ひゃっはー)
「キャラ変わってないですかねえ……」
時季外れのリンゴ……ではなくまさかの輸入品のリンゴが手に入ったのだ。
すっかりキャラの変わったうーちゃんを見ながら長く大きなため息をつく八木。
まだリストに半分も買えて無いのにこの疲れ様。先が思いやられるばかりである。
そんな食堂の扉がガチャリと音を立て開かれた。寝坊した八木が遅めの朝食を取ろうとやってきたのだ。
「と言うわけで、ほい」
「おう?」
休憩中だったのだろうか食堂には加賀、それにうーちゃんが居た。
そして加賀はや入ってきた八木と目が合うなり八木の手にぽんと何かを押しつける。
それは加賀のお財布であった。
「あとうーちゃんも、ほい」
「痛いんっ!?」
そして頭にはてなマークを浮かべている八木に今度はぐいっとうーちゃんを押しつける。
うーちゃんの前足が八木の頬をとらえた。
「なんでいきなり叩かれなきゃならんのだ……」
「ごめん、いきなり押しつけたらびっくりするよねー」
「おう、こっち見て言おうや」
乙女のようなポーズで床に座り込む八木。それをスルーしてうーちゃんを撫で繰り回す加賀。割といつも通りである。
「冗談は置いといて……実は後でちょっと買い物に行ってきて貰いたいのだけど」
うーちゃんから手を離し申し訳なさそうに八木に話す加賀。
どうも料理の仕込みで長時間離れられないらしい。
ちらりと視線をうーちゃんに向け言葉を続ける。
「前にうーちゃん一人で行ったときにね絡まれてたらしいの」
「まじか」
絡まれたと聞いて驚いた表情でうーちゃんを見る八木。
ぐっと前足を構えたうーちゃんが視界に入りすっと目をそらす。
「警備隊の人に後から聞いて知ったんだけどねー。皆地面に埋まってたらしーよ」
「……おう」
その光景がリアルに頭に浮かぶ八木。
少しだけ絡んだ連中に同情してしまう。
「だからうーちゃんだけだと不安で……八木も一緒に行ってくれると嬉しいな、なんて」
「おう、上目遣いやめーや」
上目遣いでお願いする加賀に思いっきり真顔で返す八木。
「お腹でも見せよーか」
あれ?っといった表情を浮かべた後にそんな事をのたまう加賀の頭にチョップをかます八木。
軽くため息を吐くと財布をポケットにしまいこむ。
「……まー暇だしいいよ、何買ってくれば良い?」
八木の言葉に加賀はニコリと微笑むと買い物リストが書かれた紙をを手渡した。
実はちゃっかり用意してあったらしい。
宿をうーちゃんと共に出た八木は渡された紙を眺めながら道をぶらぶらと歩いて行く。
「えーと……春野菜が多いな。リンゴなんて今時期あったか?」
リストの多くは春野菜の様である。
せっかく春になったのだからと積極的に料理に使うようにしているのだ。
だがそんな旬のものが並んだリストの中に明らかに時期が外れているものがあった。
うっうー(ぷっぷくぷー)
りんごと言えば……とうーちゃんへと視線を向ける八木であったが、視線に気付いたうーちゃんは視線をそらすと全身で自分は知りませんとアピールする。
「うーちゃんが書いたのか……今時期は輸入品でもなきゃ多分無いんじゃねーかなあ……ま、一応探してみるけど」
もっともバレバレな態度であった為リンゴと書いたのはうーちゃんだと即ばれたようである。
それはそれとして、時季外れではあるが八木はとりあえずリンゴがあるかどうかを見に八百屋へと向かう事にしたようだ。
「おやおやまあまあ、珍しい組み合わせが来たねえ」
二人を出迎えたのはいつも店番をしている八百屋にお婆さんだ。
いつも加賀がこの八百屋で野菜を買っている事を知っていた八木はお婆さんの姿を見て軽く会釈する。
「どーもっす。いつも加賀が世話になってます」
「こちらこそだよお、いつもあんなに沢山買って貰えて本当助かるわあ。この前だってお野菜いっぱい入荷しちゃった時に――」
ここですぐ買いたいものを伝えておけば良かったのだが、あまり八百屋での買い物になれていない八木はそのタイミングを逃してしまう。
「――あそこのお店がね、アイネさんから教わったお菓子だししててね最近評判なのよ」
いったいどれだけ時間が経過したのだろうか、静かに相槌を打っていた八木の表情が引きつり始めた頃救いの手が現れる。
「ばあさんや、お客さんが困ってるだろ……そこらにしとき」
八百屋のお爺さんだ。
婆さんの話しが長いことを知っている彼は話し込み過ぎない様にとこうして時折様子を見に来ているらしい。
「あらやだ、まあ私ったら……ごめんなさいねえつい話し込んじゃって。それで今日は何が欲しいのかしら」
ぐったりした様子で道を歩く八木。
それに反して先頭を行くうーちゃんは嬉しそうに跳ねながら歩いている。
「すっごい疲れた……そして本当にリンゴあったのが驚きだよ」
うー(ひゃっはー)
「キャラ変わってないですかねえ……」
時季外れのリンゴ……ではなくまさかの輸入品のリンゴが手に入ったのだ。
すっかりキャラの変わったうーちゃんを見ながら長く大きなため息をつく八木。
まだリストに半分も買えて無いのにこの疲れ様。先が思いやられるばかりである。
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