242 / 332
240話 「一人で出来るもん2」
しおりを挟む
巨大なチーズを籠に入れて機嫌よさげにスキップしながら店を後にするうーちゃん。
その様子を露店で安酒をあおっていた男達の視線が追いかける。
「おい、みたかよあれ。兎が買い物してたぜ」
彼らは春になり雪が溶けたのを見計らってこの街へとやって来た探索者達である。
この街である程度過ごしていれば何度も見かける事となる光景、だが街に来たばかりの彼らにとっては初めて見る光景である。
「つーかあれモンスターだよな、なんで街中にいんだよ」
「……それよりあいつ結構な金持ってたよな」
酔っ払った彼らの目にはうーちゃんはお金を持ったモンスターにしか見えないようだ。
赤くなった顔に下卑た笑みが浮かぶ。
「おい、お前らバカな事考えんなよ? あの兎は――」
彼らが何をしようとしているか気がついたのだのだろう。同じく露店で安酒を飲んでいた者が席を立つ探索者達に声を掛ける。
「――っおい! ……ちっ、おいお前ら避難しとけよ」
だが彼らはその声に反応する事なくうーちゃんの後を追っていく。残された男は露店にいる知り合いに避難するよう声を掛け、自分も早々に避難を始めるのであった。
「へっへっへっ」
「なんで街中にモンスターがいるのか知れねえが……ま、運が悪かったと思って大人しく死んでくれや。財布の中身は俺らがありがたく頂いてやっからよお」
いかにもチンピラですと言った風貌に言動。
道行く人々はトラブルの予感を察知して距離を置くようにチンピラを中心に人が居なくなっていく。
いつの間にかガン無視してたうーちゃんすらも居なくなっている。
「って無視すんなや! ……っこの糞うさああああぁっ!?」
初めてのお使いにトラブルは付きものなのかも知れない。だが通常であればうーちゃんにとっては彼らの存在などトラブルにすらなり得ない相手である。
しかし食材に手を出そうとするのなら話は別だ。
男がうーちゃんの後ろから背中に背負った籠に蹴りを入れようとした瞬間、ぱっとうーちゃんの姿がかき消えたその直後、男の目にうーちゃんの耳が突き立っていた。
「こいつ何しやがああああああ!?」
一人がやられたのを見て剣を抜いて斬り掛かる男達。
だが斬り掛かった剣はうーちゃんが軽く前足で触れただけで砕け散る。そして男の目に耳が突き立てられた。
「こ、こっち来るんじゃねぁああああ!?」
皆やられてしまい一人残された男は剣をブンブンと振り回しながら後ずさる、だがそんなものは威嚇にすらなりはしない。剣は砕かれ残された男の目にも耳が突き立てられる。
通報を受けた警備隊の面々が現場に集まってくる。
だが暴れていたと言う連中の姿はなく、代わりに地面に頭から下が埋もれ、悲痛な叫びを上げている男達の姿があった。
「くっそうるせえ……なんでこいつら地面に埋まってんだ?」
うるさそうに顔をしかめそう呟く隊長格の男。
それに反応して早めに現場へと向かい、辺りの者から事情を聞き集めていた隊員が調書を見ながら口を開く。
「……例の兎に手を出したそ――」
そこまで言った瞬間隊長格をはじめとした警備隊の面々の蹴りが地面に埋もれた男達の顔をとらえる。
「――うです。ですが居たのは兎だけだったようであの店や店主には害はなかったそうです」
「はよ言え……おい、引っ張り出して詰め所連れてくぞ。手伝え」
携帯スコップを使い穴を掘って男達を掘り出し始める隊員達。
気絶した男達が手当を受けるのはしばらく後になるだろう。
隊員達は加賀の屋台の常連だったりするのだ。
「おう、いらっしゃい……ん? お前さんだけか?」
あの後何事もなかったように買い物を続けたうーちゃんであるが、最後に宿のすぐ側にあるオージアスのパン屋へと入っていく。
「お使いとは偉いな。 ……そいつか? ライ麦を使ったパンだな……ああ、チーズとの相性は抜群に良いぞ」
目当ての物は決まっているようで店に入るなり普段あまり食べることのない黒パンの元へと向かっていく。
「お、買うのか? ……おう、これお釣りな。毎度あり~」
これで必要……と言うかうーちゃんの食べたい食材は一通りそろった。食材がたっぷりと詰まった籠を大事そうに抱え宿へと戻るのであった。
うーっ(ただまー)
「おかえりーっていっぱい買ってきたねえ」
食堂の扉を勢い良く開け中へと入るうーちゃんを出迎えた加賀。
予想以上に大量の食材に驚いているようだ。
「美味しそうなチーズ……」
籠に入っていたチーズをめざとく見付けるアイネ。
チーズを始め、乳製品は彼女の好物である。
「ほんとだ、すごいの買ってきたねー。 んー……察するにラクレット食べたいのかな?」
大量のチーズとそれ以外の食材。それらを見た加賀はうーちゃんが食べたい物を何となく察する。
実際ラクレットであっていたようでうーちゃんは嬉しそうに高速で首を縦に振っている。
「いいよー。夕飯にはちょっと出せないからお昼はそれにしよっか」
チーズを溶かすのが手間なので大人数に出すのには向いていないが、少人数で食べる分には問題は無い。
こうしてうーちゃんの初めてのお使いは無事完了したのであった。
その様子を露店で安酒をあおっていた男達の視線が追いかける。
「おい、みたかよあれ。兎が買い物してたぜ」
彼らは春になり雪が溶けたのを見計らってこの街へとやって来た探索者達である。
この街である程度過ごしていれば何度も見かける事となる光景、だが街に来たばかりの彼らにとっては初めて見る光景である。
「つーかあれモンスターだよな、なんで街中にいんだよ」
「……それよりあいつ結構な金持ってたよな」
酔っ払った彼らの目にはうーちゃんはお金を持ったモンスターにしか見えないようだ。
赤くなった顔に下卑た笑みが浮かぶ。
「おい、お前らバカな事考えんなよ? あの兎は――」
彼らが何をしようとしているか気がついたのだのだろう。同じく露店で安酒を飲んでいた者が席を立つ探索者達に声を掛ける。
「――っおい! ……ちっ、おいお前ら避難しとけよ」
だが彼らはその声に反応する事なくうーちゃんの後を追っていく。残された男は露店にいる知り合いに避難するよう声を掛け、自分も早々に避難を始めるのであった。
「へっへっへっ」
「なんで街中にモンスターがいるのか知れねえが……ま、運が悪かったと思って大人しく死んでくれや。財布の中身は俺らがありがたく頂いてやっからよお」
いかにもチンピラですと言った風貌に言動。
道行く人々はトラブルの予感を察知して距離を置くようにチンピラを中心に人が居なくなっていく。
いつの間にかガン無視してたうーちゃんすらも居なくなっている。
「って無視すんなや! ……っこの糞うさああああぁっ!?」
初めてのお使いにトラブルは付きものなのかも知れない。だが通常であればうーちゃんにとっては彼らの存在などトラブルにすらなり得ない相手である。
しかし食材に手を出そうとするのなら話は別だ。
男がうーちゃんの後ろから背中に背負った籠に蹴りを入れようとした瞬間、ぱっとうーちゃんの姿がかき消えたその直後、男の目にうーちゃんの耳が突き立っていた。
「こいつ何しやがああああああ!?」
一人がやられたのを見て剣を抜いて斬り掛かる男達。
だが斬り掛かった剣はうーちゃんが軽く前足で触れただけで砕け散る。そして男の目に耳が突き立てられた。
「こ、こっち来るんじゃねぁああああ!?」
皆やられてしまい一人残された男は剣をブンブンと振り回しながら後ずさる、だがそんなものは威嚇にすらなりはしない。剣は砕かれ残された男の目にも耳が突き立てられる。
通報を受けた警備隊の面々が現場に集まってくる。
だが暴れていたと言う連中の姿はなく、代わりに地面に頭から下が埋もれ、悲痛な叫びを上げている男達の姿があった。
「くっそうるせえ……なんでこいつら地面に埋まってんだ?」
うるさそうに顔をしかめそう呟く隊長格の男。
それに反応して早めに現場へと向かい、辺りの者から事情を聞き集めていた隊員が調書を見ながら口を開く。
「……例の兎に手を出したそ――」
そこまで言った瞬間隊長格をはじめとした警備隊の面々の蹴りが地面に埋もれた男達の顔をとらえる。
「――うです。ですが居たのは兎だけだったようであの店や店主には害はなかったそうです」
「はよ言え……おい、引っ張り出して詰め所連れてくぞ。手伝え」
携帯スコップを使い穴を掘って男達を掘り出し始める隊員達。
気絶した男達が手当を受けるのはしばらく後になるだろう。
隊員達は加賀の屋台の常連だったりするのだ。
「おう、いらっしゃい……ん? お前さんだけか?」
あの後何事もなかったように買い物を続けたうーちゃんであるが、最後に宿のすぐ側にあるオージアスのパン屋へと入っていく。
「お使いとは偉いな。 ……そいつか? ライ麦を使ったパンだな……ああ、チーズとの相性は抜群に良いぞ」
目当ての物は決まっているようで店に入るなり普段あまり食べることのない黒パンの元へと向かっていく。
「お、買うのか? ……おう、これお釣りな。毎度あり~」
これで必要……と言うかうーちゃんの食べたい食材は一通りそろった。食材がたっぷりと詰まった籠を大事そうに抱え宿へと戻るのであった。
うーっ(ただまー)
「おかえりーっていっぱい買ってきたねえ」
食堂の扉を勢い良く開け中へと入るうーちゃんを出迎えた加賀。
予想以上に大量の食材に驚いているようだ。
「美味しそうなチーズ……」
籠に入っていたチーズをめざとく見付けるアイネ。
チーズを始め、乳製品は彼女の好物である。
「ほんとだ、すごいの買ってきたねー。 んー……察するにラクレット食べたいのかな?」
大量のチーズとそれ以外の食材。それらを見た加賀はうーちゃんが食べたい物を何となく察する。
実際ラクレットであっていたようでうーちゃんは嬉しそうに高速で首を縦に振っている。
「いいよー。夕飯にはちょっと出せないからお昼はそれにしよっか」
チーズを溶かすのが手間なので大人数に出すのには向いていないが、少人数で食べる分には問題は無い。
こうしてうーちゃんの初めてのお使いは無事完了したのであった。
0
お気に入りに追加
823
あなたにおすすめの小説
こちらの世界でも図太く生きていきます
柚子ライム
ファンタジー
銀座を歩いていたら異世界に!?
若返って異世界デビュー。
がんばって生きていこうと思います。
のんびり更新になる予定。
気長にお付き合いいただけると幸いです。
★加筆修正中★
なろう様にも掲載しています。
加護とスキルでチートな異世界生活
どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!?
目を覚ますと真っ白い世界にいた!
そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する!
そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる
初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです
ノベルバ様にも公開しております。
※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません
生活魔法しか使えない少年、浄化(クリーン)を極めて無双します(仮)(習作3)
田中寿郎
ファンタジー
壁しか見えない街(城郭都市)の中は嫌いだ。孤児院でイジメに遭い、無実の罪を着せられた幼い少年は、街を抜け出し、一人森の中で生きる事を選んだ。武器は生活魔法の浄化(クリーン)と乾燥(ドライ)。浄化と乾燥だけでも極めれば結構役に立ちますよ?
コメントはたまに気まぐれに返す事がありますが、全レスは致しません。悪しからずご了承願います。
(あと、敬語が使えない呪いに掛かっているので言葉遣いに粗いところがあってもご容赦をw)
台本風(セリフの前に名前が入る)です、これに関しては助言は無用です、そういうスタイルだと思ってあきらめてください。
読みにくい、面白くないという方は、フォローを外してそっ閉じをお願いします。
(カクヨムにも投稿しております)
ユニークスキルで異世界マイホーム ~俺と共に育つ家~
楠富 つかさ
ファンタジー
地震で倒壊した我が家にて絶命した俺、家入竜也は自分の死因だとしても家が好きで……。
そんな俺に転生を司る女神が提案してくれたのは、俺の成長に応じて育つ異空間を創造する力。この力で俺は生まれ育った家を再び取り戻す。
できれば引きこもりたい俺と異世界の冒険者たちが織りなすソード&ソーサリー、開幕!!
第17回ファンタジー小説大賞にエントリーしました!
望んでいないのに転生してしまいました。
ナギサ コウガ
ファンタジー
長年病院に入院していた僕が気づいたら転生していました。
折角寝たきりから健康な体を貰ったんだから新しい人生を楽しみたい。
・・と、思っていたんだけど。
そう上手くはいかないもんだね。
気がついたら異世界に転生していた。
みみっく
ファンタジー
社畜として会社に愛されこき使われ日々のストレスとムリが原因で深夜の休憩中に死んでしまい。
気がついたら異世界に転生していた。
普通に愛情を受けて育てられ、普通に育ち屋敷を抜け出して子供達が集まる広場へ遊びに行くと自分の異常な身体能力に気が付き始めた・・・
冒険がメインでは無く、冒険とほのぼのとした感じの日常と恋愛を書いていけたらと思って書いています。
戦闘もありますが少しだけです。
知らない異世界を生き抜く方法
明日葉
ファンタジー
異世界転生、とか、異世界召喚、とか。そんなジャンルの小説や漫画は好きで読んでいたけれど。よく元ネタになるようなゲームはやったことがない。
なんの情報もない異世界で、当然自分の立ち位置もわからなければ立ち回りもわからない。
そんな状況で生き抜く方法は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる