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231話 「移動はソリで」

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樹液の採取場を離れ黒鉄の森へと向かう一同。
その中で一人跳ねるようにスキップする男がいた。八木である。
周りの兵士連中はすっと目をそらし、後ろでは探索者達がひそひそと耳打ちをしている。
だが当の本人には気づく様子は見られない。

「ねね、なんで八木っちあんな機嫌いいの? ちょっとキモイぐらいなんだけど……」

先行く八木を見て眉を顰めひそひそと隣を歩くヒューゴに耳打ちするシェイラ。
ヒューゴは八木を見てあーと呟き、どうやら先ほどの八木と王のやりとりを見ていなかったであろうシェイラへと理由を説明しだす。

「あー……あれだ。これから黒鉄のエルフとこ行く――」

「ふんっ」

「っあだああぁぁっ!?」

ヒューゴの話を途中まで聞いたところで八木のお尻にシェイラのつま先がぐさりと突き刺さる。
尻が二つに割れそうな痛みに八木は飛びあがり、そして涙目で崩れ落ちる。

「お、俺が何を……」

「おっし、さっと行って戻ってくんぞー」

「行きましょう」

崩れ落ちた八木を可哀そうな目で見るが、シェイラの矛先が自分に向いてはかなわない。
皆スルーして黒鉄の森への道を進むのであった。


「む……」

黒鉄の森の淵まできたところで先頭を行く王がぴたりと足を止める。
ただ足を止めただけでなく、あたりを見渡す様子に何かあったのだろうかと皆首を傾げる。

「どうしたんですか?」

先ほどの尻のダメージから回復した八木。
王のもとへと向かうと何かあったのかと尋ねる。

「いやな、普段ならこのあたりに居るはずなんだが……上か」

何時もであればここにエルフが待機しているのだ。
だが今日は何時もよりも兵士の数が多く、さらには探索者達がぞろぞろと付いてきている。
おそらく警戒してエルフは姿を見せてないのだろう。
ちらりと上を見上げた王の視線が、枝上に立つエルフの姿をとらえた。

「上?」

王の言葉に上を見上げる八木。
そして枝上にエルフとぴたりと視線が合う。

「……確か神の落とし子の八木?」

「そうっす! お久しぶりです」

枝上にいたエルフは八木が最初に出会ったエルフであった。
下にいるのが八木であり、周りにいる探索者達も以前会ったものだと分かったエルフは枝上からするすると降りてくる。

「それで今日はまたどういった要件で?」

視線は王に向けたままエルフの言葉で話しかける黒鉄のエルフ。

「何か宴会開くんでエルフの皆さんも参加しない? って話みたいっす」

「てきとーう」

「合ってはいるんだけどさあ」

王に翻訳する前に思わず答えてしまう八木。
あってはいるがその内容に探索者はおろか王も思わず苦笑を浮かべる。

「……いつも黒鉄を頂いてるわけだし、お礼と親睦を深めようと思ってだな……普段のやりとりも札を見せ合って終わりだし……ああ、もちろん無理にとは言わない、気が乗らなければもちろん断ってくれていいんだ」

「だそうです」

今度はきっちりと王の言葉を伝えた八木。
黒鉄のエルフは言葉を聞いて軽く頷くと口を開く。

「そういう事なら問題ない、参加しよう」

「だそうです」

八木によって訳された言葉を聞いて笑みを浮かべる王とその他大勢。

「本当あの誰とでも話せるの便利よねー」

「魔道具あたりで出てくりゃええんだがの」

探索者達はと言うと改めて誰とでも会話可能というある意味一番のチートスキルに関心した様子を見せる。
実際魔道具でそんなものが存在すればどこに行っても言葉が通じなくて困るということは無くなるのだから。

その後宴会に参加するエルフを募り、合計で10名ほどが王城へと向かう事となる。
エルフが城の者と会話するには翻訳を介する必要があり、自然と八木はエルフに囲まれる事になり。

「いやー、この酒うまいっすよー? え、知ってる? あ、そっか地元っすもんねー!」

浮かれまくった八木は昨日の事も忘れてまたパカパカと酒を煽るのであった。

「八木のやつ、またばかすか飲んでっけど昨日どうなったか忘れてんのかね」

あの酒は後から酔いが一気にくる。
この様子だとまた酔いつぶれるだろうなと八木を遠目から見る探索者達。
きっとその想像通りになる事だろう。

「……とりあえず避難しとくかね」

「異議なし」

このままいけば昨日の再現で再び脱いで踊りだす事だろう。
探索者達はそっとお酒片手に端のほうに避難するのだった。


そして時は少し遡り、八木達が出発した直後の宿にて荷物を担いで出発しようとするアイネと加賀の姿があった。

「それじゃ私達も行きましょうか」

「そっだねー、んじゃ行ってくるよー。うーちゃん拾い食いしちゃダメよ?」

うー(せんわーい)

なお、うーちゃんはお留守番である。
八木達のほうは護衛は必要なく、加賀のほうもアイネがいる為不要である。
それにシグトリアの人込みをうーちゃんが歩くとなると中々大変そうと言うことで今回は宿に残ることにしたのだ。

「シグトリア行くのも久しぶりだねー。半年ぶりぐらい?」

「ん、そうね。前回が秋だったからそれぐらいね」

街の外に向かい歩きながら会話する二人。
シグトリアに前回行ったのは秋の始め頃で、今は真冬は終わり少しずつ暖かくなり始めた頃だ。

「冬はどんなの売ってるかなー。あ、そだそだ」

前回いった時もそうだが、シグトリアは各地から様々な商品が集まる。
冬でもそれは変わらないだろうし、時期が変われば商品も変わる。
いろいろ買い物を楽しめそうだと加賀は結構楽しみにしてたりするのだ。

「今回は何でいくの? 前回は陸船だったけど今雪積もっちゃってるよね」

「ソリで行くよ。門のところに用意してあるから……暗くなる前には着くと思う」

「前回3日ぐらい掛かったのに早いねえ」

今回は雪が積もっているため車輪のついた陸船ではなく、ソリに乗っていくようだ。
アイネ曰く早朝に出て暗くなる前につくと言うことでかなりの速度が出る様である。


「それじゃ行こうか」

「あの、あのね。アイネさん」

「なあに?」

門のそばに用意された大き目のソリへと乗り込むアイネと加賀の二人であるが、額にうっすらと汗を浮かべた加賀が震える声でアイネへと話しかける。

「何で縛られてるのかなーってボクちょっと疑問に思うんだけど」

「それはね、飛ばすから。加賀が落ちてしまったら大変だもの……それじゃ行くよ」

椅子にぎゅっと縄で縛られた加賀。
不安そうな表情を浮かべるがアイネは解く気はなさそうで。
加賀を安心させるようにそっとなでるアイネであるが、その顔に浮かんだ笑みに加賀の不安は募っていくばかりである。

「お、落ち……急に風が……アイネさんの魔法? え、ちょっと待って! 早い、むっちゃ早いぃぃぃ!」

魔法で起こした突風を受けて一気に加速するソリ。
夕方までにつくと言うのは決して嘘ではないとその速度からわかる事だろう。
最もそんな事がわかるほど加賀に余裕はなさそうだが……。
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