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221話 「カレー出来たよ」

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フライパンの中身を覗き込んだアイネがすんすんと鼻を鳴らす。
熱した油にと共にパチパチとはじける音をさせている物、それが匂いの元である。

「その種? すっごい良い匂いするね」

「でしょでしょ? このあたりの香辛料無いとどうしても物足りなくてねー、やー手に入ってよかった」

匂いの元の正体はクミンシードである。炒めると恐ろしく食欲を刺激する匂いを発するのだ、八木が引き付けられた匂いもこれである。
これらを初めとしたカレーを作るのに必要な香辛料が手元になく今まではカレー作りを諦めていた。

「デミグラスソースも入れるのね」

「うん、作り方は本当いっぱいあるんだけど……ボクの場合はこれかな。他の作り方もいずれやってみたい所だね」

加賀の作り方はデミグラスソースを使ったやり方だ。
そのあたりはある程度ストックがあるので必要な香辛料さえ手に入れてしまえばカレーは作れてしまう。

「ってな訳で出来たよ。はい、ちょっと味見してみて」

「……! これっ」

味見と言って渡されたスプーンをぱくりと咥えたアイネのその目が驚きに見開かれる。
辛いには辛いが複雑に旨みが絡み合いまろやかな味に仕上がっている。美味しいのは確かだろう、ただその複雑な味に感想がうまくでてこないらしい。

「うまく出来たみたいだねー、そんじゃ皆腹ペコだろうし配膳しよっか」

そう言って皿にご飯をよそう加賀。
食堂では八木やうーちゃんを初めてした腹ペコたちがご飯が出てくるのを今か今かと待ち構えているはずである。
ちなみに今日の厨房は加賀とアイネの二人だけで切り盛りしていたりする。カレーの良いところはルーを作ってご飯を炊いておけば後はよそうだけで済んでしまうという点もある。普段ならうーちゃんとバクスの手伝いがいるが今日は二人だけでも大分余裕がある。


そして場所と時間は変わってダンジョンの入り口近くの事。何時もの様にダンジョンから戻った探索者達が疲れた表情を浮かべ宿への帰路についていた。
前日と異なるのはダンジョンを出てすぐにガイの鼻がまた何かの匂いを嗅ぎ取った事だろう。

「あれ、また何か嗅いだこと無い匂いするっすね」

歩きながら鼻をならして皆にまた嗅いだことの無い匂いがした事を伝えるガイ。

「おん? ……まあ、位置的に宿じゃねえな。どんな匂いだ?」

「すっごい腹減りそうな匂いっすね」

先日と違って場所がダンジョン前と言う事で宿から大分離れている為、匂いの元は宿では無いだろうとあたりをつけたヒューゴであるが、それでも一応気になるのかどんな匂いなのかとガイに尋ねる。

「それはちょっと気になりますねえ」

「そのうち宿でも出すんじゃなーい? それより早く宿帰ろうよーお腹空いたよー」

「それもそうだの」

お腹が減りそうな匂い、つまりは美味しそうな匂い。
もし宿以外でその様な料理を出せるのであればいずれ宿でも出すだろう、そんな事よりお腹が減ったので早く戻りたいと訴えるシェイラの言葉に皆も同じ思いだったのか幾分歩くペースを早め宿へと向かうのであった。

「……この匂いがそうか」

「確かに、食欲を刺激する匂いです」

宿に近づいていくにつれ匂いは強くなっていく。
最初はガイのみが嗅ぎ取れた匂いも今では全員の鼻に届いていた。

「え、この匂いやばくない? これ宿が発生源だよね絶対。外なのにこれって……」

「宿の前に立ち止まってる人いるじゃねえか……てかこの匂い……絶対美味いぞこれ」

そして宿の前までくると匂いはよりはっきりしたものとなっていた。
ときおり宿の前の通りを歩く者が立ち止まり、一体この匂いは何なのかと宿の様子をちらちらと伺っている。

「うおっ」

「わっ、玄関あけたらもっとすごい」

「おぉぉぉ……やべえむっちゃ腹鳴ってる」

匂いに誘われる様に宿の玄関に向かった探索者達の鼻をカレーの匂いが刺激する。
それは空きっ腹で嗅ぐには中々つらい香りだろう、何名もの腹からぐぅと音が聞こえてくる。

「お、八木っちじゃん。もう待機してたの?」

「あ、皆さんお疲れさまっす。いやー今日は俺の好物なもんでもう楽しみすぎて……」

探索者達が食堂に入るとそこには八木が既にスタンバっている状態であった。
シェイラに声を掛けられた八木は皆に軽く挨拶をし、ぎゅるるると盛大に腹を鳴らす。
それに呼応する様にあちこちから聞こえる腹の音、みんなもう色々と限界である。

「んっし、皆おっまたせー」

それと同時ぐらいにふいに騒がしくなった食堂から皆が戻ってきた察知していた加賀がカレーの皿を持って現れる。
歓声をもって歓迎する探索者達の前に次々カレーの皿が並んでいく。

「見た目はビーフシチューに似てますね、ただ香りはまったく別物ですが」

「んなこた見たらわかるってーの。早速いっただきまーす……ん、辛っ……うまっ!?」

最初の一口はまず香りが鼻に抜け、ついで辛さ、旨味が舌に来る。
香りと辛さに一瞬面食らうがすぐに美味しいと理解し、あとはひたすら無言でスプーンを動かし続ける。
辛さは甘口であり、慣れれば気になる辛さではないが熱々のカレーと合わさって体がどんどん火照ってくる、一皿目を食べ終わる頃には額に汗が浮かんでいた。

「加賀ちゃんお代わり! 大盛りで!」

「あ、俺もお願いいます。いやこれ美味いですねぇ」

一人がお替りしたのを皮切りに周りからも次から次へとお代わりの声が上がる。

「はい、おまたせー」

「おっ、はやい」

普段の食事であれば、物によっては一から作らないといけないので次が出てくるまで多少時間が掛かる。
だが今日は違う。ご飯とカレーを皿によそうだけなので、急なお代わりにも対応は可能である。
探索者達はすぐに出てきたお代わりを見て笑みを浮かべるとガフガフと音がしそうな勢いでカレーをかっこむのであった。
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