上 下
222 / 332

220話 「カレー作るよ」

しおりを挟む
お知らせです。
明日の更新ですがちょいと親戚の家に行くのでおそらく出来ません。
同じ理由で火~木も厳しそうな感じです……






照り焼きを皆に食わせる事に成功した翌日、加賀は手に袋を持ちバクスの燻製小屋を訪ねていた。
バクスは丁度燻製に使う香辛料の調合を行っている所であり、普段見せない張り詰めた表情で測りの針を見つめていた。
今声を掛けるのは良くないと思った加賀はバクスの調合が終わるか、向こうが加賀に気が付くまで待つことにした様だ。
時間にして数分後、香辛料の重さをはかり終えたバクスが軽く息を吐いて顔を上げ、入り口付近にいた加賀に気が付き声をかける。

「む、加賀か。どうした?」

「バクスさん石臼借りていいー?」

「おうよ」

どうしたと尋ねるバクスに予備の石臼を指さし借りて良いか尋ねる加賀。
バクスは使い慣れた石臼を使っているため予備を使う事はまずない、あっさりと許可が下りたので加賀は機嫌良さそうに石臼を棚から取り出す。

「……初めて嗅ぐ匂い。加賀もしかして新しい香辛料も手に入れたのか?」

加賀が近くを通ったとき微かにバクスの鼻が動く。
手に持った袋から香辛料の匂いを嗅ぎ取ったのである。

「そーでっす。また新しいメニュー増えちゃう、やったね」

「テンション……あーっと、すまんが……その」

妙にテンションの高い加賀にちょっと引きつつも袋から目を離さないバクス。
加賀に何かを言いかけて、ためらう様子を見せる。

「もちろんバクスさんにもおすそ分けー。はいこれ分けておきました。こっちで一度に使う分は確保したんで後はご自由にどぞー」

加賀とバクスの付き合いもそれなりの長さになってきた、加賀はバクスの言いたいことを察して……と言うよりは元々予想していたので手に持っていた袋をバクスへと手渡す。
袋の中身はバクス様に分けておいた香辛料達である。

「すまんな助かる。……これでまた新たなステージに行ける」

(……今更だけどすっごいめり込み様だよねー)

あまり人様に見せてはいけない様な笑みを浮かべ袋を大事そうに抱えるバクス。
加賀は石臼を抱えバクスに軽く会釈をしそそくさと退散するのであった。


ゴリゴリと音を立てて香辛料用の石臼によって様々な香辛料がすり潰されて行く。
その種類は多く10種類は優に超えているだろう、その様子をアイネが目をぱちくりさせながら見ている。

「これ、全部使うの? すごい種類ね」

「すごいっしょー。ボクも八木も大好きな料理だから期待しててー」

アイネに答える加賀はとても楽し気である、なにせ作っているのはカレーである。
八木はもちろん加賀も大好物であり、それを久しぶり食べれると思えば機嫌も良くなるだろう。
ふんふーんと無駄にうまい鼻歌交じりに石臼に新たな香辛料を放り込むとすりこぎでゴリゴリしていく。
そして残りの香辛料もあと少しとなった所で加賀はぴたっと手を止め、ぐりっとアイネの方へと顔を向ける。

「あ、でも香辛料いっぱいでちっと辛いから慣れないときついかも……? 甘口にしよ」

「私は辛いの平気だけど……そうね、他の人はどうか分からないものね、それが良いと思う」

自分たちは平気でも他の人はどうか分からない、実際宿では辛い料理というのはせいぜい胡椒やマスタード程度である。呼称は風味付け程度で、マスタードは各自が量を調整できるし付ける付けないも自由だ。カレーの様に全て辛いという料理は出したことがない。
加賀はアイネの意見も聞いて、すり潰した香辛料を混ぜる際に唐辛子系の量は減らしておく事にした様である。


香辛料の調合も終わり、加賀はフライパンを熱すると中にに何かを放り込んだ。
途端に辺りに非常に刺激的な香りが漂う。

「やばい、この匂いやばい……あぁ~」

そしてその強い香りは厨房だけではなく食堂、そして宿中の部屋や外へも漂っていく。
部屋で待機していた八木にもその香りは届いた様で、匂いに誘われふらふらと厨房まで行きその扉から中を覗き込む。

「八木うるさい、まだ出来るまで暫く掛かるから大人しく待ってなさーい」

「……あとどれぐらい?」

大人しく待っていろと言われても今もフライパンを輸するたびに抵抗し難い香りが八木の鼻をがっつり刺激してくる。
八木はフライパンをじっと見つめたままどれぐらい掛かるか加賀に尋ねる。

「2時間かな、煮込んだりしないとだし」

「うそやん。この匂いを嗅ぎながら2時間待つなんてそれなんて拷問。加賀の鬼っ悪魔っ」

八木の問いに少し考え指を2本立て答える加賀。
八木は絶望に打ちひしがれた様に両ひざをつき、顔を手で押さえながら泣きわめく。

「もー……ほらそこにおやつ用意してあるからそれでも食べてなよ。カレー味だよ」

「まじでっ!? 加賀様ありがとうございますぅぅうっ」

どうせ我慢できなくなるだろうと予想してた加賀は八木様におやつを用意してた様である。
皿に盛られたカレーの良い匂いを発するお菓子を抱えた八木は先ほどまでの様子が嘘のように大はしゃぎで厨房を出て行く。そしてうーちゃんだめえと食堂から悲鳴が聞こえてくる。

「あれってさっき揚げてた餅だよね」

「うん、年末の余ったカチカチのやつ。揚げて塩とカレー粉ちょびっと掛けといた」

まったくもうと呟く加賀に先ほど八木が持っていたお菓子について尋ねるアイネ。
あのお菓子は前に作ったお餅のあまりを揚げてかき揚げにしたものである。
まだ残っていたのを忘れていた加賀がここ数日のお米の件で思い出し、急遽お菓子に仕立てのである。

「なるほど……」

「気になるー?」

カレー味のお菓子と言う者に興味惹かれたのかじっと食堂を見つめるアイネ。
それに対し食べてきなよと言う加賀にアイネは軽く首を横に振ると口を開いた。

「ん、私はご飯までがまんする」

「そう? 遠慮しなくてもいいのにー」

明らかに興味は惹かれている様子であるのにがまんすると言うアイネに対し首をかしげる加賀。

「だって、お腹空いている方が美味しく感じるもの」

「ん、確かにその通り。んじゃボクらはご飯まで我慢だねー」

数年ぶりに食べる加賀と初めて食べるアイネ。
二人とも出来ればより美味しく感じられる状態で食べたい、その思いは同じである。カレーを仕上げるべく二人は作業へと戻るのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に転生!堪能させて頂きます

葵沙良
ファンタジー
遠宮 鈴霞(とおみやりんか)28歳。 大手企業の庶務課に勤める普通のOL。 今日は何時もの残業が無く、定時で帰宅途中の交差点そばのバス停で事件は起きた━━━━。 ハンドルを切り損なった車が、高校生3人と鈴霞のいるバス停に突っ込んできたのだ! 死んだと思ったのに、目を覚ました場所は白い空間。 女神様から、地球の輪廻に戻るか異世界アークスライドへ転生するか聞かれたのだった。 「せっかくの異世界、チャンスが有るなら行きますとも!堪能させて頂きます♪」 笑いあり涙あり?シリアスあり。トラブルに巻き込まれたり⁉ 鈴霞にとって楽しい異世界ライフになるのか⁉ 趣味の域で書いておりますので、雑な部分があるかも知れませんが、楽しく読んで頂けたら嬉しいです。戦闘シーンも出来るだけ頑張って書いていきたいと思います。 こちらは《改訂版》です。現在、加筆・修正を大幅に行っています。なので、不定期投稿です。 何の予告もなく修正等行う場合が有りますので、ご容赦下さいm(__)m

女神スキル転生〜知らない間に無双します〜

悠任 蓮
ファンタジー
少女を助けて死んでしまった康太は、少女を助けて貰ったお礼に異世界転生のチャンスを手に入れる。 その時に貰ったスキルは女神が使っていた、《スキルウィンドウ》というスキルだった。 そして、スキルを駆使して異世界をさくさく攻略していく・・・ HOTランキング1位!4/24 ありがとうございます! 基本は0時に毎日投稿しますが、不定期になったりしますがよろしくお願いします!

異世界で魔法使いとなった俺はネットでお買い物して世界を救う

馬宿
ファンタジー
30歳働き盛り、独身、そろそろ身を固めたいものだが相手もいない そんな俺が電車の中で疲れすぎて死んじゃった!? そしてらとある世界の守護者になる為に第2の人生を歩まなくてはいけなくなった!? 農家育ちの素人童貞の俺が世界を守る為に選ばれた!? 10個も願いがかなえられるらしい! だったら異世界でもネットサーフィンして、お買い物して、農業やって、のんびり暮らしたいものだ 異世界なら何でもありでしょ? ならのんびり生きたいな 小説家になろう!にも掲載しています 何分、書きなれていないので、ご指摘あれば是非ご意見お願いいたします

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 よろしくお願いいたします。 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ

雑木林
ファンタジー
 現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。  第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。  この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。  そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。  畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。  斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。

処理中です...