上 下
212 / 332

210話 「夏の過ごし方8」

しおりを挟む
切り分けたスペアリブを皆が食べて居るのを見て間に合ったと安堵の表情を浮かべる八木。
エルザに手近な椅子に座るよう声をかけ自身は加賀の元へと肉を取りに向かう。

「間に合って良かったわ。加賀、こっちにもお肉におくれー」

「ほいほい。……じゃ、こっちはエルザさんの分ね。 んでだいじょぶだったん?」

加賀は肉を皿に取り分け渡す際にちらりと横目でエルザの様子を窺い八木に声をかける。
ぱっと見で不機嫌な様子は見えなかったが一応気にはなるのだ。

「おう、致命傷で済んだぞ」

「致命の時点でダメじゃん」

八木の言葉においおいと言った表情を浮かべる加賀。
まあ八木としては問題なかったと言いたかったのだろうが……。

「まあ、プールの映像見せてやましい気持ちなんてほんの少ししか有りませんって言ったら許してくれたよ」

「そこ、あるって言っちゃったのね……」

「嘘ついてもバレバレじゃん」

「胸張って言うなし……」

八木の説明に呆れた表情を浮かべていた加賀であるがその堂々とした態度を見て諦めた表情へと変わっていく。
軽く息を吐いてソースの入った容器を八木へと手渡す。

「はいこれソースね。冷めない内にエルザさんと食べなー」

「お、あんがとなー」

ソースを受け取った八木は喜びスキップするようにエルザの元へと向かっていく。その様子をぼーっと眺めていた加賀であったが、その背中に背後から声が掛かる。

「加賀ちゃーんちょっといい?」

「おー?」

加賀が振りかえるとそこにはプールの縁に上半身をのせたヒューゴがヒラヒラと手を振る姿があった。

「なんかさープールの水温くなってきたんだけどさ、これ冷たく出来ないのかな?」

「んー……あ、ほんとだぬるま湯みたい」

ヒューゴの用件は水が温いので冷やせないか、と言うものであった。加賀が確かめるように足のつま先をちょいちょいと水面に付けて見ると、確かに水はぬるま湯の様になっていた。
焼け付くような日差しと暑苦しい連中の熱気によって水温が一気に上がってしまったのだろう。

「んー……アイネさーん。ちょっと手伝ってー」

一瞬精霊に頼む事も考えた加賀であるが周りにはエルザなども居る、出来るだけ使わない方が良い、そう判断し加賀はアイネへ声をかける。

「……ん、どうしたの」

アイネは皆に混ざって食事中であったようだ。その手には他と比べて幾分大ぶりに切られたスペアリブが握られている。

「アイネさん食事中ごめんねー。 プールの水が温くなっちゃって冷やしたいんだけど……お願いしてもいい?」

「ん……うん、いいよ」

口に含んでいたお肉をゴクリと飲み下し、アイネは片手を水面に向け何やら詠唱を始める。

(詠唱って途切れ途切れでもいいんだ……?)

詠唱を始めたアイネを見てそんな事を考える加賀。と言うのもアイネは詠唱する片手間にお肉をもしゃもしゃ食べていたりするのだ。魔法を使うための詠唱と言うのはもっと、こう集中して行うはずであるが……冷やすためだけの恐らくは簡単な魔法であり、アイネにとっては別に集中が必要なものでは無いのかも知れない。

「おー凍ってくー」

アイネが完成した魔法を放つと着弾した水面がぴしぴしと音を立てて凍り付いていく。

「冷てええええ!?」

それはぐんぐん範囲を広げ側にいたヒューゴを見事に巻き込んだ。

「ありがとアイネさんー」

「どういたしまして」

加賀からお礼を言われたアイネはにこりと笑い再び食事が並んだテーブルへと向かう。他にも色々と料理は用意してあるので全部食べてみるつもりなのかも知れない。
そしてアイネが凍らせた水であるが今は小さな氷山の様にぷかぷかと水面に浮かんでいた。凍った範囲はどうやら横にではなく下に広がっていたようだ。もし横に広がっていたら今頃ヒューゴは全身氷付けになっていただろう。

うー(うひょーい)

そんな氷山目がけて犬かきですいーっと近付いていくうーちゃん。ひょいっと氷山の上に乗っかると必死になって腕を抜こうとしているヒューゴを尻目にごろりと横になる。
どうやら涼みに来たらしい。

「うーちゃん涼しげでいいねえ……」

うー(つめたーい)

その姿はまるで流氷の上に乗ったアザラシか何かのようであり、見ていて中々和む光景である。加賀はそれを眺めつつこっそりデザートのかき氷を食べるのであった。

「あっ、ずるいー。一人だけデザート食べてるー!」

「ソシエさんイーナさん……シェイラさんも食べますか?」

「加賀っち今私のお腹見たでしょっ」

こっそり食べようが甘い匂いが漂えばあっさりばれるものである。加賀は早速女性陣に集られる羽目になったようだ。
なおヒルデは甘味よりも酒とお肉派のようでデザートにはまだ興味を示さずひたすらスペアリブに齧り付いていたりする。

「それじゃーこれ回してくださいな」

シェイラの突っ込みをスルーして加賀が皆の前に差し出したのはゴートンお手製のかき氷器である。
ハンドルをぐりぐり回せばふわふわに削られた氷が容器の上に降り積もっていく。
色が白なのはただの氷ではなく牛乳も使っているからだ。
上にも大量のカットフルーツが乗りかなり豪勢なかき氷が完成となる。
氷にシロップだけでも十分いけるが加賀は切角だからと凝った物にしたようである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

こちらの世界でも図太く生きていきます

柚子ライム
ファンタジー
銀座を歩いていたら異世界に!? 若返って異世界デビュー。 がんばって生きていこうと思います。 のんびり更新になる予定。 気長にお付き合いいただけると幸いです。 ★加筆修正中★ なろう様にも掲載しています。

加護とスキルでチートな異世界生活

どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!? 目を覚ますと真っ白い世界にいた! そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する! そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる 初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです ノベルバ様にも公開しております。 ※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません

生活魔法しか使えない少年、浄化(クリーン)を極めて無双します(仮)(習作3)

田中寿郎
ファンタジー
壁しか見えない街(城郭都市)の中は嫌いだ。孤児院でイジメに遭い、無実の罪を着せられた幼い少年は、街を抜け出し、一人森の中で生きる事を選んだ。武器は生活魔法の浄化(クリーン)と乾燥(ドライ)。浄化と乾燥だけでも極めれば結構役に立ちますよ? コメントはたまに気まぐれに返す事がありますが、全レスは致しません。悪しからずご了承願います。 (あと、敬語が使えない呪いに掛かっているので言葉遣いに粗いところがあってもご容赦をw) 台本風(セリフの前に名前が入る)です、これに関しては助言は無用です、そういうスタイルだと思ってあきらめてください。 読みにくい、面白くないという方は、フォローを外してそっ閉じをお願いします。 (カクヨムにも投稿しております)

目覚めたら地下室!?~転生少女の夢の先~

そらのあお
ファンタジー
夢半ばに死んでしまった少女が異世界に転生して、様々な困難を乗り越えて行く物語。 *小説を読もう!にも掲載中

ユニークスキルで異世界マイホーム ~俺と共に育つ家~

楠富 つかさ
ファンタジー
 地震で倒壊した我が家にて絶命した俺、家入竜也は自分の死因だとしても家が好きで……。  そんな俺に転生を司る女神が提案してくれたのは、俺の成長に応じて育つ異空間を創造する力。この力で俺は生まれ育った家を再び取り戻す。  できれば引きこもりたい俺と異世界の冒険者たちが織りなすソード&ソーサリー、開幕!! 第17回ファンタジー小説大賞にエントリーしました!

望んでいないのに転生してしまいました。

ナギサ コウガ
ファンタジー
長年病院に入院していた僕が気づいたら転生していました。 折角寝たきりから健康な体を貰ったんだから新しい人生を楽しみたい。 ・・と、思っていたんだけど。 そう上手くはいかないもんだね。

加工を極めし転生者、チート化した幼女たちとの自由気ままな冒険ライフ

犬社護
ファンタジー
交通事故で不慮の死を遂げてしまった僕-リョウトは、死後の世界で女神と出会い、異世界へ転生されることになった。事前に転生先の世界観について詳しく教えられ、その場でスキルやギフトを練習しても構わないと言われたので、僕は自分に与えられるギフトだけを極めるまで練習を重ねた。女神の目的は不明だけど、僕は全てを納得した上で、フランベル王国王都ベルンシュナイルに住む貴族の名門ヒライデン伯爵家の次男として転生すると、とある理由で魔法を一つも習得できないせいで、15年間軟禁生活を強いられ、15歳の誕生日に両親から追放処分を受けてしまう。ようやく自由を手に入れたけど、初日から幽霊に憑かれた幼女ルティナ、2日目には幽霊になってしまった幼女リノアと出会い、2人を仲間にしたことで、僕は様々な選択を迫られることになる。そしてその結果、子供たちが意図せず、どんどんチート化してしまう。 僕の夢は、自由気ままに世界中を冒険すること…なんだけど、いつの間にかチートな子供たちが主体となって、冒険が進んでいく。 僕の夢……どこいった?

気がついたら異世界に転生していた。

みみっく
ファンタジー
社畜として会社に愛されこき使われ日々のストレスとムリが原因で深夜の休憩中に死んでしまい。 気がついたら異世界に転生していた。 普通に愛情を受けて育てられ、普通に育ち屋敷を抜け出して子供達が集まる広場へ遊びに行くと自分の異常な身体能力に気が付き始めた・・・ 冒険がメインでは無く、冒険とほのぼのとした感じの日常と恋愛を書いていけたらと思って書いています。 戦闘もありますが少しだけです。

処理中です...