異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

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207話 「夏の過ごし方5」

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BBQ大会に向けて着々と準備が進んでいくとそれにつれて参加者も増えて行く。
近所のオージアスやハンズ、それにリザートマン達にドラゴン。八木が誘うことに成功したエルザに事務所のモヒカン連中も加わり総勢50人近くが最終的に参加する事となった。
そして大会まであと2日となり、探索者達がダンジョンへと向かい静かとなった宿、その庭にて複数の人物が集まり何やら地面に機材を設置している様子である。

「おしおし、こんなもんかいな」

「……うん、ぐらつかないし大丈夫だと思います」

庭に設置されたBBQ様の機材の設置具合を確かめにこりと笑う加賀。
ゴートンも満足げに頷くとよっこいせとしゃがんでいた身を起こす。
腰を押さえぐいと伸ばしながら設置された機材の数々を見て少し呆れた表情を浮かべる。

「しっかし作っとる時はそうでもなかったが、こう並べてみると数もそうじゃが……何というか肉を焼くには随分大げさな機材じゃの」

並んだ機材はいずれも大きく加賀ぐらいなら余裕で乗るレベルだ、そしてただグリルの上に網が乗るだけ……という訳では無く物によっては蓋ついて閉まる様になっていたり、ハンドルを回す事で網が上下に移動するもの等様々なものがある。

「……まあ、あんだけでかいのを焼くのだからこれぐらいは必要かの」

だが、ゴートンは例の映像を見ており、さらにはBBQ用に用意した肉の塊をその目で実際見ている。なのでこの大げさに見える機材も必要だからこの形なのだと分かっているのだ。

「そんで試し焼きはいつやるんかの? まさか今からじゃないとは思うが……飯食ったばかりだぞい」

「えっと焼くのは今からです、でも実際食べるのは昼過ぎですね」

「なんと、そんな長時間焼いて大丈夫なのか? ただの炭になっちまうぞい」

ゴートンが心配するのも無理はない、普段食べているお肉はせいぜい数分、分厚いもの10分かそこからかけて焼く事はあるが4時間以上かける事はまずない。
八木が仕事で向かったリッカルドで出されたローストビーフ、あれもかなりの大きさの塊肉ではあったがあれでもせいぜい1時間前後で焼き上げたものである。

「低温でじっくり焼くんで大丈夫ですよー。……むしろ時間足らないかも」

「ほ~……まあ料理の事は詳しくないでの、その辺りはあんたらにまかせる、わしは美味い飯と酒にありつければそれで良いんじゃ。そんじゃ鍛冶小屋にいっとるで飯になるか問題でみ起きたら呼んでくれい」

ゴートンは普段加賀やアイネの作る料理を食べていて二人の腕前は分かっている。
加賀が大丈夫だと言うのなら素人である自分が口出すものではない。それよりも飯までに汗をかきより美味しく酒と飯を楽しみたい、そう考えゴートンは料理が出来るまでの間は大人しく鍛冶場にこもる事にしたようだ。

「それじゃ焼きましょ。もう下味はつけてあるのよね?」

「うん、こっちがタレに暫く漬け込んでおいたやつ。でこっちは塩とスパイスでちょっと前に味付けしたやつ……それじゃ炭も落ち着いて来たしお肉を乗せ……重い」

網にお肉を乗せようと持ち上げた加賀の手がぷるぷると震える。
今回はあくまで試食であり、本番用のお肉と比べると大分小さいがそれでも骨が2本丸々くっついた肉の塊を使用するようで加賀の細腕では持ち上げるも厳しい様である。

「ありがとー」

「ん」

だが作業をいているのは加賀一人ではない、別のお肉を用意していたアイネが見かねて助けに入る、

「いやー本当でっかいねこれ。本番がこれの5倍ぐらいになるのかなー」

「1本食べたらお腹いっぱいになりそ」

網の上に乗せられ香ばしい匂いを発し始めた骨付きの塊肉であるが、部位はあばらの部分……つまりスペアリブである。加賀の感覚で言えばスペアリブと言えば片手で普通に持てて1本やそこら食べた程度では到底満福にはならない、そのぐらいの大きさの認識であったが今回使うお肉は豚などではなくウォーボアである。その大きさは1本1本切り離したとしても加賀の腕よりボリュームがあるだろう。
大食らいの探索者達であっても1本食べればお腹いっぱいになるはずだ。もっとも他にもたくさんの料理を出すので実際出す際には3~4分割して提供される事になるが。

「んじゃこのまま暫く放置で時々ひっくり返してソース塗ったりするよ」

「他のやつはまだ焼かなくていいの?」

「うん、こいつが一番時間係るからねー。2時間ぐらいしたらローストビーフも焼き始めようかな、残りはもっと後だね」

機材の蓋を閉め一度宿の中へと戻る二人。屋台の準備や肉以外の料理の良いがあるのだ。
残されたお肉が入った機材からは香ばしいスパイスの香りが混ざった肉の焼ける煙と香りが漏れ出し辺りに漂っていた。

「……え、なに俺この状態で作業すんの?」

その香りは側でプールの仕上げにはいった八木の元へも当然届いていた。
魔道具から出る冷風を自分に向けているせいで煙が風に巻かれてダイレクトに八木の元へと届くのだ。
暑さはともかくずっと肉の焼ける良い匂いを嗅ぎながら肉体労働をすると言うのは中々に辛いものがある。

(……食ったらプールに沈められそう)

一瞬つまみ食いしてやろうかという思いが八木の頭を過るが、同時に水の張ったプールに蹴り込まれるという明確なビジョンも頭を過る。

(空腹は最高の調味料……)

作業を進めていくうちにお腹が空腹である事を切実に訴えてくるが八木は我慢した、もう少し我慢すれば美味しい食事が待っているのだから。
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