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186話 「ク○ネコヤ○ト(異世界版)」

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火にくべられた薪がパチパチと音を立てる。
街と街を結ぶ街道、その少し離れた所で火がたかれていた。
火の側には分厚い外套をまとった一人の男性と彼の乗り物であろう帆がついた巨大なソリの様な物がある。

「晴れてても寒いもんは寒いなあ……」

男は眩しそうに空を見上げそう呟くがすぐに視線を戻し、沸いたお湯をコップへと注ぐ。
息を吹きかけ美味しそうにコップの中身を口にする男はまだ青年と呼べるような年齢である。
こんな青年が一人旅とは危険ではないかと思われるが、彼は一人で旅しているわけではないようだ。

巨大なソリの扉が開き中から一人の老人が現れる、老人は手に持った杖をつきながら火の側までいくと青年に向かい言葉をかけた。

「儂にも一杯貰えるかね」

「いいっすよ、コップ貸してください」

老人が差し出したコップにお湯を注ぐ青年。コップにはあらかじめ何か入れてあったのだろう、ほんのり茶色くなっている。

「うむ……寒いときは暖かいものがうまいの」

「まったくです」

コップの中身を飲み、満足げに白い息を吐く老人。

「魔力の方はどんなもんです?」

「む……」

青年の言葉を受け、手に持った杖を持ち上げる老人。どうやらその杖はただ歩く補助の為のものではなく、魔法を使う際に使用するものだったらしい。よく見ればごつすぎるし何やら不思議な紋様が浮かび上がっている。

「ふむ……9割方回復しとるの、これ飲み終わったら丁度良いじゃろ」

「了解っす。それじゃ飲み終わったらまたお願いしますね」

青年にうむと頷いて再びコップに手をつける老人。
青年が老人にお願いするのは魔法によって風を吹かせる事である。移動手段と荷物を運ぶ手段として使用しているソリは自然の風頼りに進むことも出来なくはないがそれだと街までどれだけ掛かるか分かった物ではない。
故に青年は魔法使いである老人を雇い入れ風を起こして貰っているのだ。
だが弱い風をとは言えども長時間起こすとなるとかなりの魔力を消耗する。そのためソリの移動は老人の魔力が少なくなれば休み、回復すれば進むその繰り返しとなる。
魔道具を使うと言う手段もあるが魔石代が馬鹿にならないのと護衛も雇う必要がある。
老人は魔法使い……それもダンジョンで探索者として活躍していた魔法使いである。引退して久しいが老人であるにも関わらず青年よりも遙かに筋骨隆々としたその姿が老人の実力を物語っている。もちろん護衛としても十分働いてくれるだろう。

「そろそろ行きますかね」

「次はフォルセイリアだったかの、しばらく行ってないで楽しみだわい」

老人が青年と雇われている理由の一つが色んな街や国に行けるから、である。
青年の仕事は荷物の配達……それも近隣だけでは無く隣国や時には海を渡ることもある。

街に着いた青年は荷物を配達し、新たな荷物を受け取る。
青年が働いている間、老人は自由気ままに街中を探索する。それが老人には思いの外楽しかったのだ。


「それじゃ、配達行ってきますね。宿も適当に確保するんで夕方にここでまた落ち合いましょう」

「うむ、気をつけてなあ」

フォルセイリアに着いた二人は一旦別れ、老人は街の探索に青年は配達をしにそれぞれ行動を開始する。
そして青年が真っ先に向かった先は神の落とし子が働く宿屋であった。


「はーい、今いきまーす」

宿の玄関に設置した呼び鈴の音に慌てた様子で玄関へと向かう加賀。
咲耶は掃除中であるしバクスは燻製小屋、そしてアイネは小麦粉まみれでうーちゃんは兎である。そうなると必然的に加賀が向かう事になるのである。

「……に、荷物届けに上がりましたっ」

「おー、ありがとうございますー……やった! まさか今年中に届くなんて……っと、ごめんなさい。サインここでいいですか?」

受け取り票を青年から受け取りサインをする加賀。
いい加減伸びてきた髪をさっとかき上げ手早くサインを済ませる。

「はい……? えっとこれ代金です」

「は、はいっ……確かに受け取りました! またのご利用お待ちしておりましゅ」

(噛んだ……)

ぎくしゃくしながら玄関を出て行く青年を見送った加賀、鼻歌を歌いながら荷物を抱え‥…重いので諦めうーちゃんを呼ぶ。


「うーちゃんありがとねー」

荷物を運んでくれたうーちゃんの頭を撫でお礼にを言う加賀。

「んじゃさっそく……うーちゃんも見る?」

うー(みるー)

荷物を運んだあとも厨房へ戻らずじっと荷物を見つめるうーちゃん。
荷物の中身が気になり加賀が空けるのを待っていたらしい。

「おー……思ったよりたくさん」

うー(これなーに)

荷物の中には5キロほどはありそうな麻袋がいくつか入っていたようだ。ぱんぱんに膨らんだ麻袋はあまり凹凸がなく、中に入っているのは粒の小さなものか粉系だろうと思われる。

「これー? これはねー……もち米だよ」

「もちぃっ!?」

もち米と聞いて部屋のすみでトランプタワーを建てていた八木が反応する。
そしてタワーが崩れるのも気にせず立ち上がると駆け足で加賀の元へと寄っていく。

「まじかっ! 見つかったのかー……これなに?」

「ん?」

麻袋を一つ手に取り中を覗き込む八木であるが、眉をひそめ首を傾げてしまう。
一体どうしたのだろうかと加賀も中を覗き込むとそこに入っていたのは普段加賀達が慣れ親しんだ透明感のある粒ではなく、茶色い何かがびっしりと詰まっていた。

「あー……精米してないか。そりゃそうだよね……」

「あ、そういうことか。むっちゃびびったわ」

麻袋の中身は精米前の籾殻がついたままのもち米であった。
籾殻と分かってほっとした様子を見せる八木。期待を込めた目で加賀を見つめ口を開く。

「で、精米ってどうやるの?」

「……知らない」
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