異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

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172話 「依頼受けたらしい」

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止めようかとアイネに話しかける加賀であったが一足遅かったらしい。

受付の方を見ればラヴィがその巨体でスキップしながら3人の元に戻ってくる所であった。

スキップするラヴィをみてあちゃーといった様子で顔を手で押さえる加賀。

「どうしよー」

「正直に言うしか……まって、加賀これ」

「う?」

ラヴィが迫るなかどうしたものかと困っていた加賀。そこにアイネが掲示板を指さし声をかける。
アイネが指さしていたのは先ほどラヴィが持っていた張り紙のすぐ隣にあったもう一枚の張り紙だ。

「ほーほー?」

張り紙を除きこみ内容を確認する加賀。内容は先ほどラヴィが持っていた依頼と関係するものであった。

「狼を退治するまでの期間、養鶏場近くで待機する者への食事の用意等その人員の募集……ほむ」

「受ける?」

「んー……バクスさんに相談してからかな? ちょっとこの紙に書いてある事だけじゃ分からないから内容だけは聞いておこうと思うけど」

そう言うと加賀はそっと紙を掲示板から取る。

「ただいまー! あれ、3人ともどしたん?」

戻ったラヴィに事情を軽く話入れ替わり受付へと向かう3人。受付嬢から内容を聞く限り、拘束されるのは飯と作る時間とその後片付けの時間、それに寝ずの番となる討伐担当の者用に夜食の用意もあるとの事。つまり泊りがけな上にほぼ一日拘束される内容である。

「ん、こりゃバクスさんに相談だねー」

「そうね、宿に一度戻りましょ」

バクスに戻って相談しよう、そう決めた4人は一旦宿へと戻る。
幸いな事に募集枠はまだまだ空いているため宿に戻って相談する時間は十分るようだ。


「はーなるほど。狼の襲撃ね……で、ラヴィのためにお前ら3人も依頼を受けると」

じっと自分を見つめる視線を受けどうしたものかと思案するバクス。

(加賀が受けるのは絶対、だが一人で受けるのはあり得ない。うーちゃんを付けるか? ……いやそれだと何するか分からんし)

しばし悩んでいたバクスであったが、ふぅと軽く息を吐くと4人へと視線を向ける。

「色々考えたが3人とも受けるといい。ただ可能であれば宿の仕込みも手伝ってほしい……温め直せばすむ料理にすれば俺と咲耶さんでも何とかなるだろう」

バクスの答えに飛び上がらんばかりに喜ぶラヴィ。加賀もほっとした様子を見せる。

「ありがとうバクスさん、退治するまでの期間……たぶんラヴィが張り切ってやるだろうからすぐ終わると思うけど、宿の事お願いします」

「おうよ、ほれさっさと依頼受けてこい。枠無くなっても知らないぞ?」

バクスに礼をいって宿を出る4人、すぐにギルドへと向かい受付を済ませる。
やはりと言うか枠はまだ空いており、3人とも無事受注する事が叶った。


「むーん……30人分の買い出しかー……思ってたより人数いるんだね」

依頼を受け養鶏場に行って早々頼まれたのが食材の買いだしである、お金は養鶏場側が出すがその量が半端ではなかった。養鶏場に集まった討伐隊の人数は合計で60名。狼を取り逃さないのと討伐隊の負担を出来るだけ減らすため大人数であたる事となったのだ。それだけの人数を雇うとなるとかなりの金額となるが養鶏はこの街の食糧事情を支える大事な産業だ、街からもかなりの補助金が出ているため養鶏場側の負担はそれほどでも無い。

「普段の買い出し量と変わらないわね」

うーちゃんが曳く荷車へと視線を向けるアイネ。
荷車の上にはすでに大量の食材が積み込まれている。
加賀達の他にも数名この依頼を受けた者がおり、その者らと分担し買い出しに来ているが30人分となるとやはりかなりの量である。

「そだねえ……うーちゃんだいじょぶ? 重くない?」

うー(よゆーよゆー)

荷車を曳くうーちゃんに声を開ける加賀。
見た目はまったく疲れていないように見えるが、荷物の量が量だけにやはり心配になるらしい。
が、その心配は杞憂である。うーちゃんに取ってこの程度の荷物など負担にもなりはしないのだ。

「ならいいんだけど……おし、買い物はあとちょっとだしさくっと終わらせちゃおう。うーちゃんには後でおやつも用意したげるねー」

うっ(やっほい)

おやつと聞いて嬉しそうにはねるうーちゃん。
さすがに30人分用意するのは環境も違うので難しいがうーちゃんの分ぐらいであればなんとかなるだろう。
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