164 / 332
162話 「お嬢様ぽい」
しおりを挟む
「えと、もう売り切れて屋台片付けてまして……よければお一つお譲りしましょうか?」
「よろしいのですかっ?」
売り切れたと聞いて暗くなった表情であったが、すぐにぱっと明るくなる。
せっかくのお祭りですし、と一つ譲ることにした加賀。取っておいたフォダンショコラは一人二つ分、加賀は普段からちょくちょく食べる機会もあるのでと言う事で自分の分を女性に渡したようだ。
「この香りがずっと気になっていたのです……いざっ」
勢いよくかぶりついた為中の溶けたチョコがあふれ零れそうになる。
口に着いたチョコをぺろりと舐め、一口二口と食べ進めていく。
「……もうなくなってしまいました」
悲し気に手元を見つめる女性だがそこにあったお菓子は既に胃の中である。
ちらりと視線をアイネとうーちゃんへと向けるが二人共すでに2個目に突入している状態である。
(どこかのお嬢様なのかなー?)
女性が美味しそうに頬張る姿を笑みを浮かべ眺めていた加賀であるが、その女性の来ている衣服がかなり上等なものである事に気が付く。
よくよく見れば髪も荒れておらず、手も綺麗である。おそらくはどこかのお嬢様といったところだろうと当たりを付ける。
「ありがとうございました。ここを一度通ったときからずっと匂いが気になって気になって……」
「なるほど。お口にあったようで良かったです」
「ええ、とっても美味しかったです!」
その後は雑談しながら時を過ごしていた加賀達だが女性がふいに立ち上がると慌てた様子でもう戻らないといけない事を加賀達に告げる。
女婿に手を振り見送る一行。姿が見えなくったところで加賀がぽつりと呟く。
「どっかのお嬢様だよねーあれ」
「そうね、護衛も付いていたし」
「ありゃ、そうなんだ? ……うーちゃん、素振りしないの」
シュッシュッと素振りするうーちゃんの頭をぺちりと叩く加賀。大げさに痛がるうーちゃんの頬をもみほぐし満足したところで椅子から立ち上がる。
「お忍びか何かだったのかなっと。そんじゃー屋台めぐりにいこかー?」
うっ(はよはよ)
屋台めぐりと聞いて俄然やる気を出すうーちゃん。さきほどのお菓子2個だけじゃ到底満腹になるにはほど遠い。
「そうね……屋台を戻してから行くから先に行って貰ってても良い? 匂いでどこに居るかは分かるから安心して」
「匂い……確かに服に甘い匂いが……えと、じゃあ美味しそうな屋台探しておくからお願いしちゃおっかな」
アイネは少し考えた後、加賀に屋台を片付けてから合流するむねを伝える。
匂いと言われくんくんと服の匂いをかいでいた加賀であるが確かに甘い匂いがしみついているようだ。
それなら合流できるかなとアイネの提案を受けることにする。
「それじゃまたあとでー」
「ん、すぐ行くね」
アイネに手を振りうーちゃんと二人で人混みの中へと消えていく加賀。
二人が見えなくなったところでアイネはさてと、と呟く。
「これ片付けといて」
「…………ハイ」
そう言い残しさきほどの女性が向かった方向へと歩いて行くアイネ。
ちなみにアイネの言葉に反応したのはデーモンである。姿は見えないがきっとしょんぼりした顔をしていることだろう。
「お嬢様、そろそろ戻る時間ですぜ」
大通りを歩く先ほどの女性の後ろ、少し距離を取り歩く男が女性に話しかける。
「分かっているよ……もう少し自由な時間が欲しいね、本当。目当ての屋台もうしまっちゃってたんだよ」
そちらを振り返る事無く男の言葉に答える女性。
おそらくこの男は女性の護衛なのであろう。
「それじゃ買えなかった……あれ、でも何か食ってやしたよね?」
目当の屋台がしまっていたと聞いて肩をすくめる男だが、ふとお嬢様と呼ばれる女性が何かしら食べていたことを思い出す。
「親切な人に分けて貰ったの……と言うよりお店の人が自分用のを分けてくれたんでしょうね」
そう話す女性の顔は味を思い出しているのか頬が緩みがちだ。
「へぇ……って事は会えたんですね。どうでした?」
「普通に可愛い子だったよ……あ。でも服は普通じゃなかった。すごく可愛いの着てたなー」
どうでしたと聞かれ店員の姿を思い出す女性。アイネか加賀のどちらを思い浮かべたかは分からないが確かにどちらも見た目は可愛い子ではある、それに二人共咲耶特製の服を着ていた為そちらも印象に残っているようだ。
「せっかくこの街に着たのだから神の落とし子が作った料理もっと食べてみたかったのだけど……そうだ!」
「はい?」
いい事を思いついたとばかりに笑顔で振り向くお嬢様に呆気にとられた様子の護衛の男。
「帰るのは明後日、今日はもう無理でも……明日なら例の宿に泊まる事も出来るんじゃない? ちょっと宿に空きがあるか確認してきてくれない?」
「まあ、確認するのはかまいやせんが……許可が出るかは俺からは何とも、旦那様と相談してくだせえ。っと、この先に馬車用意してありますんでお嬢様は乗ってください。俺は宿の空きを確認してから戻りまさ」
そういうとお嬢様を馬車に押し込み馬車から離れる男。
護衛は馬車の中に待機しているので問題はない。男は馬車が居なくなるのを見送った後軽くため息をつくと宿の方へと向かおうとするが。
「……ちょっとお話聞きたいのだけど」
壁からにゅっと伸びてきた腕が男の体を拘束する。
男が驚き視線を壁に向けるとそこには黒くどろりとした霞の中に赤い光を放つ瞳が二つ浮かんでいた。
「よろしいのですかっ?」
売り切れたと聞いて暗くなった表情であったが、すぐにぱっと明るくなる。
せっかくのお祭りですし、と一つ譲ることにした加賀。取っておいたフォダンショコラは一人二つ分、加賀は普段からちょくちょく食べる機会もあるのでと言う事で自分の分を女性に渡したようだ。
「この香りがずっと気になっていたのです……いざっ」
勢いよくかぶりついた為中の溶けたチョコがあふれ零れそうになる。
口に着いたチョコをぺろりと舐め、一口二口と食べ進めていく。
「……もうなくなってしまいました」
悲し気に手元を見つめる女性だがそこにあったお菓子は既に胃の中である。
ちらりと視線をアイネとうーちゃんへと向けるが二人共すでに2個目に突入している状態である。
(どこかのお嬢様なのかなー?)
女性が美味しそうに頬張る姿を笑みを浮かべ眺めていた加賀であるが、その女性の来ている衣服がかなり上等なものである事に気が付く。
よくよく見れば髪も荒れておらず、手も綺麗である。おそらくはどこかのお嬢様といったところだろうと当たりを付ける。
「ありがとうございました。ここを一度通ったときからずっと匂いが気になって気になって……」
「なるほど。お口にあったようで良かったです」
「ええ、とっても美味しかったです!」
その後は雑談しながら時を過ごしていた加賀達だが女性がふいに立ち上がると慌てた様子でもう戻らないといけない事を加賀達に告げる。
女婿に手を振り見送る一行。姿が見えなくったところで加賀がぽつりと呟く。
「どっかのお嬢様だよねーあれ」
「そうね、護衛も付いていたし」
「ありゃ、そうなんだ? ……うーちゃん、素振りしないの」
シュッシュッと素振りするうーちゃんの頭をぺちりと叩く加賀。大げさに痛がるうーちゃんの頬をもみほぐし満足したところで椅子から立ち上がる。
「お忍びか何かだったのかなっと。そんじゃー屋台めぐりにいこかー?」
うっ(はよはよ)
屋台めぐりと聞いて俄然やる気を出すうーちゃん。さきほどのお菓子2個だけじゃ到底満腹になるにはほど遠い。
「そうね……屋台を戻してから行くから先に行って貰ってても良い? 匂いでどこに居るかは分かるから安心して」
「匂い……確かに服に甘い匂いが……えと、じゃあ美味しそうな屋台探しておくからお願いしちゃおっかな」
アイネは少し考えた後、加賀に屋台を片付けてから合流するむねを伝える。
匂いと言われくんくんと服の匂いをかいでいた加賀であるが確かに甘い匂いがしみついているようだ。
それなら合流できるかなとアイネの提案を受けることにする。
「それじゃまたあとでー」
「ん、すぐ行くね」
アイネに手を振りうーちゃんと二人で人混みの中へと消えていく加賀。
二人が見えなくなったところでアイネはさてと、と呟く。
「これ片付けといて」
「…………ハイ」
そう言い残しさきほどの女性が向かった方向へと歩いて行くアイネ。
ちなみにアイネの言葉に反応したのはデーモンである。姿は見えないがきっとしょんぼりした顔をしていることだろう。
「お嬢様、そろそろ戻る時間ですぜ」
大通りを歩く先ほどの女性の後ろ、少し距離を取り歩く男が女性に話しかける。
「分かっているよ……もう少し自由な時間が欲しいね、本当。目当ての屋台もうしまっちゃってたんだよ」
そちらを振り返る事無く男の言葉に答える女性。
おそらくこの男は女性の護衛なのであろう。
「それじゃ買えなかった……あれ、でも何か食ってやしたよね?」
目当の屋台がしまっていたと聞いて肩をすくめる男だが、ふとお嬢様と呼ばれる女性が何かしら食べていたことを思い出す。
「親切な人に分けて貰ったの……と言うよりお店の人が自分用のを分けてくれたんでしょうね」
そう話す女性の顔は味を思い出しているのか頬が緩みがちだ。
「へぇ……って事は会えたんですね。どうでした?」
「普通に可愛い子だったよ……あ。でも服は普通じゃなかった。すごく可愛いの着てたなー」
どうでしたと聞かれ店員の姿を思い出す女性。アイネか加賀のどちらを思い浮かべたかは分からないが確かにどちらも見た目は可愛い子ではある、それに二人共咲耶特製の服を着ていた為そちらも印象に残っているようだ。
「せっかくこの街に着たのだから神の落とし子が作った料理もっと食べてみたかったのだけど……そうだ!」
「はい?」
いい事を思いついたとばかりに笑顔で振り向くお嬢様に呆気にとられた様子の護衛の男。
「帰るのは明後日、今日はもう無理でも……明日なら例の宿に泊まる事も出来るんじゃない? ちょっと宿に空きがあるか確認してきてくれない?」
「まあ、確認するのはかまいやせんが……許可が出るかは俺からは何とも、旦那様と相談してくだせえ。っと、この先に馬車用意してありますんでお嬢様は乗ってください。俺は宿の空きを確認してから戻りまさ」
そういうとお嬢様を馬車に押し込み馬車から離れる男。
護衛は馬車の中に待機しているので問題はない。男は馬車が居なくなるのを見送った後軽くため息をつくと宿の方へと向かおうとするが。
「……ちょっとお話聞きたいのだけど」
壁からにゅっと伸びてきた腕が男の体を拘束する。
男が驚き視線を壁に向けるとそこには黒くどろりとした霞の中に赤い光を放つ瞳が二つ浮かんでいた。
0
お気に入りに追加
824
あなたにおすすめの小説
女神スキル転生〜知らない間に無双します〜
悠任 蓮
ファンタジー
少女を助けて死んでしまった康太は、少女を助けて貰ったお礼に異世界転生のチャンスを手に入れる。
その時に貰ったスキルは女神が使っていた、《スキルウィンドウ》というスキルだった。
そして、スキルを駆使して異世界をさくさく攻略していく・・・
HOTランキング1位!4/24
ありがとうございます!
基本は0時に毎日投稿しますが、不定期になったりしますがよろしくお願いします!
異世界に転生!堪能させて頂きます
葵沙良
ファンタジー
遠宮 鈴霞(とおみやりんか)28歳。
大手企業の庶務課に勤める普通のOL。
今日は何時もの残業が無く、定時で帰宅途中の交差点そばのバス停で事件は起きた━━━━。
ハンドルを切り損なった車が、高校生3人と鈴霞のいるバス停に突っ込んできたのだ!
死んだと思ったのに、目を覚ました場所は白い空間。
女神様から、地球の輪廻に戻るか異世界アークスライドへ転生するか聞かれたのだった。
「せっかくの異世界、チャンスが有るなら行きますとも!堪能させて頂きます♪」
笑いあり涙あり?シリアスあり。トラブルに巻き込まれたり⁉
鈴霞にとって楽しい異世界ライフになるのか⁉
趣味の域で書いておりますので、雑な部分があるかも知れませんが、楽しく読んで頂けたら嬉しいです。戦闘シーンも出来るだけ頑張って書いていきたいと思います。
こちらは《改訂版》です。現在、加筆・修正を大幅に行っています。なので、不定期投稿です。
何の予告もなく修正等行う場合が有りますので、ご容赦下さいm(__)m
異世界で魔法使いとなった俺はネットでお買い物して世界を救う
馬宿
ファンタジー
30歳働き盛り、独身、そろそろ身を固めたいものだが相手もいない
そんな俺が電車の中で疲れすぎて死んじゃった!?
そしてらとある世界の守護者になる為に第2の人生を歩まなくてはいけなくなった!?
農家育ちの素人童貞の俺が世界を守る為に選ばれた!?
10個も願いがかなえられるらしい!
だったら異世界でもネットサーフィンして、お買い物して、農業やって、のんびり暮らしたいものだ
異世界なら何でもありでしょ?
ならのんびり生きたいな
小説家になろう!にも掲載しています
何分、書きなれていないので、ご指摘あれば是非ご意見お願いいたします
暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~
暇人太一
ファンタジー
仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。
ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。
結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。
そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。
ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった
16歳の少年【カン】
しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ
これで魔導まで極めているのだが
王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ
渋々それに付き合っていた…
だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう
この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである
※タイトルは思い付かなかったので適当です
※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました
以降はあとがきに変更になります
※現在執筆に集中させて頂くべく
必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします
※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください
神の使いでのんびり異世界旅行〜チート能力は、あくまで自由に生きる為に〜
和玄
ファンタジー
連日遅くまで働いていた男は、転倒事故によりあっけなくその一生を終えた。しかし死後、ある女神からの誘いで使徒として異世界で旅をすることになる。
与えられたのは並外れた身体能力を備えた体と、卓越した魔法の才能。
だが骨の髄まで小市民である彼は思った。とにかく自由を第一に異世界を楽しもうと。
地道に進む予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる