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141話 「夢の薬」
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「ダメ元でやってみるから元気出しなよー」
「……?」
八木にダメ元でやってみるかと話す加賀であるが、何をダメ元でやるのか分からない八木はただ首を捻るのだけである。
「料理は薬代わりにならしーから、毛生え薬代わりになるかもよ?」
加賀が何をダメ元でやるのか。それは魔力を意識してこめれば薬代わりにもなるという特製を生かした毛生え薬の作成であった。
世の男性にとっては夢のようなその薬はもちろん八木にとっても例外ではない。
「!? お、お願いしますぅうぅううっ」
「ふぎゃーっ」
毛生え薬と聞いた瞬間に八木はがなりと顔を上げると加賀のその細い体へとしがみつく。
その突然の行動に加賀が反応できるはずもなく、食堂に加賀の悲鳴が響き渡った。
「……一応作るけどさ、ダメ元だからね? 失敗して文句言わないようにね? あと今日はもう魔力使っちゃったからやるのは明日からだよ」
「了解っす!」
天井からつり下げられ顔に満面の笑み浮かべ頷く八木を見てはぁと息を吐き厨房へと戻る加賀。そろそろ時間的に探索者達が戻ってくる頃であり、料理の仕上げをしなければいけないのだ。
夕食時は相変わらず厨房は大忙しだ、4人はひたすら料理を造り続ける、それを咲耶がひたすら配膳していく。
そう続けて行くにつれ次第に洗い物が溜まってきてしまうのは仕方の何時ものことである。
洗い物をこなすのは咲耶が一番早い、探索者達の腹が少し膨れ料理の注文が落ち着いてきた頃に加賀は彼女と入れ替わりで配膳に入る。その間に咲耶が洗い物を片してしまうのだ。
「……のぉ加賀ちゃんよ」
「はい、なんでしょー?」
そして皿洗いにはいった咲耶に代わり配膳を行う加賀だが、コップをゆっくりと傾けていたゴートンが声を掛ける。
その顔は眉が八の字に歪み、何かをこらえるようななんとも言えない表情をしていた。
「あのオブジェなんとかならんかいの……うちらが下手に手を出すと怒られそうでなあ」
ゴートンの言葉に協調するように頷く探索者達。一体何のことかとへやをみわたす加賀であったがそこで部屋の中央のそれに気が付く。
「ぁ」
加賀に抱きついた罰としてアイネによって天井から吊り下げられていた八木である。
「やーすっかり忘れてたね。アイネさんに降ろすよう伝えておきますので待っててくださいー」
「んむ、頼んだぞい」
そう言って厨房へと向かった加賀だるが、色々と追加で配膳するものがあり、結局八木が降ろされたのは探索者達が部屋に戻り始めた頃であった。
「ごめんごめん。明日はちゃんと作るからさー」
「その……本当に効果あるのか? その毛生え薬って……」
「やー……たぶんとしか。まったく効果が無いってことにはならないと思うんですけどねー……そんな目で見ないでよ、ダメ元って言ったじゃん」
たぶんと言う加賀にすがるような眼差しを向ける八木。
どうも髪の件はかなりショックだったようで普段ならお代わりと言いまくるその口から今日は一度もその声が聞こえていない。
「ま、なんにせよ明日だな。加賀は今日はもう魔力無いんだろ?」
その言葉にこくりと頷く加賀、八木に毛生え薬の話をした時には既にケーキに魔力をこめた所であった。
「明日にならないと無理だねー。帰ってくるまでには作っておくからさ、とりあえず明日はがまんしてね」
そんな会話をしつつ食事をする5人であったが、そんな彼らを陰からこっそり除くものがいた。
そして翌朝、相変わらずへこんだ状態の八木を玄関まで見送る加賀の姿があった。
「ほら、いってきなって。モヒカンさん達ならだいじょぶだよ、さっぱりしたっすねーぐらいしか思わないってば」
「うぅ……」
出かけるの渋る八木の背中をぐいぐいと押す加賀。
このままぐずっているとそれこそモヒカン達が様子を見に着かねない。
そうなれば結局は八木の髪を見られる事になるのだが、八木はなかなか動こうとしない。
「お二人とも、ちょっとよろしいかな」
そしてそんなやりとりをしている二人へと声を掛けるものがいる。
帽子を深く被った長髪の男、カルロである。
普段食事の際に少し話す程度の彼があらたまって声を掛けて来たことに少し驚く二人。
とりあえず玄関での押し合いをやめ、二人ともカルロの方へと向き直す。
「なんでしょー?」
「……実は折り入って相談したい事があります」
二人を見つめるカルロの眼差しはひどく真剣であった。
これはただ事ではない、そう思った二人はひとまずカルロを連れ食堂へと向かうのであった。
「──それで相談というのは?」
牛乳のはいったコップとお茶菓子のセットをカルロへ出す加賀。
自らの分もちゃっかり確保しつつ椅子へ腰かける。
なお、八木は食欲がないとの事で牛乳のみである。
「実は……先日皆さんが毛生え薬について話しているのを耳にしまして……失礼、盗み聞きするつもりはなかったのです」
「いえいえ……それで、もしかして相談と言うのは……」
毛生え薬と聞いて相談すると言う事はその内容は一つしかないだろう。
加賀にこくりと頷きかけるとカルロはゆっくりと帽子を脱いでいく。
「…………」
それを見た八木と加賀はひたすら無言であった。
想像はしていたが思っていたよりもつるっつるである、その鏡面のような頭皮へ二人とも視線を移す事無くこらえたのは奇跡に近いだろう。
「見ての通りです……どうかお願いします! 私にもその薬を分けて頂けないでしょうか!」
そう言ってテーブルに付くほどに頭を下げるカルロ。
そんなカルロを見て二人は困った様に顔を見合わせるのであった。
「……?」
八木にダメ元でやってみるかと話す加賀であるが、何をダメ元でやるのか分からない八木はただ首を捻るのだけである。
「料理は薬代わりにならしーから、毛生え薬代わりになるかもよ?」
加賀が何をダメ元でやるのか。それは魔力を意識してこめれば薬代わりにもなるという特製を生かした毛生え薬の作成であった。
世の男性にとっては夢のようなその薬はもちろん八木にとっても例外ではない。
「!? お、お願いしますぅうぅううっ」
「ふぎゃーっ」
毛生え薬と聞いた瞬間に八木はがなりと顔を上げると加賀のその細い体へとしがみつく。
その突然の行動に加賀が反応できるはずもなく、食堂に加賀の悲鳴が響き渡った。
「……一応作るけどさ、ダメ元だからね? 失敗して文句言わないようにね? あと今日はもう魔力使っちゃったからやるのは明日からだよ」
「了解っす!」
天井からつり下げられ顔に満面の笑み浮かべ頷く八木を見てはぁと息を吐き厨房へと戻る加賀。そろそろ時間的に探索者達が戻ってくる頃であり、料理の仕上げをしなければいけないのだ。
夕食時は相変わらず厨房は大忙しだ、4人はひたすら料理を造り続ける、それを咲耶がひたすら配膳していく。
そう続けて行くにつれ次第に洗い物が溜まってきてしまうのは仕方の何時ものことである。
洗い物をこなすのは咲耶が一番早い、探索者達の腹が少し膨れ料理の注文が落ち着いてきた頃に加賀は彼女と入れ替わりで配膳に入る。その間に咲耶が洗い物を片してしまうのだ。
「……のぉ加賀ちゃんよ」
「はい、なんでしょー?」
そして皿洗いにはいった咲耶に代わり配膳を行う加賀だが、コップをゆっくりと傾けていたゴートンが声を掛ける。
その顔は眉が八の字に歪み、何かをこらえるようななんとも言えない表情をしていた。
「あのオブジェなんとかならんかいの……うちらが下手に手を出すと怒られそうでなあ」
ゴートンの言葉に協調するように頷く探索者達。一体何のことかとへやをみわたす加賀であったがそこで部屋の中央のそれに気が付く。
「ぁ」
加賀に抱きついた罰としてアイネによって天井から吊り下げられていた八木である。
「やーすっかり忘れてたね。アイネさんに降ろすよう伝えておきますので待っててくださいー」
「んむ、頼んだぞい」
そう言って厨房へと向かった加賀だるが、色々と追加で配膳するものがあり、結局八木が降ろされたのは探索者達が部屋に戻り始めた頃であった。
「ごめんごめん。明日はちゃんと作るからさー」
「その……本当に効果あるのか? その毛生え薬って……」
「やー……たぶんとしか。まったく効果が無いってことにはならないと思うんですけどねー……そんな目で見ないでよ、ダメ元って言ったじゃん」
たぶんと言う加賀にすがるような眼差しを向ける八木。
どうも髪の件はかなりショックだったようで普段ならお代わりと言いまくるその口から今日は一度もその声が聞こえていない。
「ま、なんにせよ明日だな。加賀は今日はもう魔力無いんだろ?」
その言葉にこくりと頷く加賀、八木に毛生え薬の話をした時には既にケーキに魔力をこめた所であった。
「明日にならないと無理だねー。帰ってくるまでには作っておくからさ、とりあえず明日はがまんしてね」
そんな会話をしつつ食事をする5人であったが、そんな彼らを陰からこっそり除くものがいた。
そして翌朝、相変わらずへこんだ状態の八木を玄関まで見送る加賀の姿があった。
「ほら、いってきなって。モヒカンさん達ならだいじょぶだよ、さっぱりしたっすねーぐらいしか思わないってば」
「うぅ……」
出かけるの渋る八木の背中をぐいぐいと押す加賀。
このままぐずっているとそれこそモヒカン達が様子を見に着かねない。
そうなれば結局は八木の髪を見られる事になるのだが、八木はなかなか動こうとしない。
「お二人とも、ちょっとよろしいかな」
そしてそんなやりとりをしている二人へと声を掛けるものがいる。
帽子を深く被った長髪の男、カルロである。
普段食事の際に少し話す程度の彼があらたまって声を掛けて来たことに少し驚く二人。
とりあえず玄関での押し合いをやめ、二人ともカルロの方へと向き直す。
「なんでしょー?」
「……実は折り入って相談したい事があります」
二人を見つめるカルロの眼差しはひどく真剣であった。
これはただ事ではない、そう思った二人はひとまずカルロを連れ食堂へと向かうのであった。
「──それで相談というのは?」
牛乳のはいったコップとお茶菓子のセットをカルロへ出す加賀。
自らの分もちゃっかり確保しつつ椅子へ腰かける。
なお、八木は食欲がないとの事で牛乳のみである。
「実は……先日皆さんが毛生え薬について話しているのを耳にしまして……失礼、盗み聞きするつもりはなかったのです」
「いえいえ……それで、もしかして相談と言うのは……」
毛生え薬と聞いて相談すると言う事はその内容は一つしかないだろう。
加賀にこくりと頷きかけるとカルロはゆっくりと帽子を脱いでいく。
「…………」
それを見た八木と加賀はひたすら無言であった。
想像はしていたが思っていたよりもつるっつるである、その鏡面のような頭皮へ二人とも視線を移す事無くこらえたのは奇跡に近いだろう。
「見ての通りです……どうかお願いします! 私にもその薬を分けて頂けないでしょうか!」
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そんなカルロを見て二人は困った様に顔を見合わせるのであった。
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