上 下
115 / 332

113話 「港にいこう」

しおりを挟む
こんがりと焼けた美味しそうなトースト。その表面に薄くこげ茶色のペーストが塗られていく。
機嫌よさげにスプーンを動かすのは加賀である、一夜明けた今朝、加賀とアイネの二人は昨日から引き続いてアイネの私室で食事をとっている。
トーストに塗られているのは今朝作り立てのチョコクリームだ。パンとの相性もよく上機嫌でパンをぱくつく加賀。それを見てアイネもパンに……こちらはたっぷりとチョコクリームを塗っていく。

「たまにはパンに甘いの合わせるのもいいよね。宿でも出せるといいなー」

「作り方は簡単だし出せると思うよ……おいし」

アイネが調べたところ作るのは割と簡単であった。ネックなのは油が分離しやすいと言う事だがそこは食べる直前に作るか、混ぜればすればよい。他に気になると点としては──

「おいしいけど、高カロリーだからなー。探索者の皆にはいいかもだけど……バクスさん太っちゃいそう」

宿の食事は美味しい。それゆえに食べ過ぎてしまう事も多々ある。
ダンジョンでカロリーを消費出来る探索者達と違い一線を退いたバクスは最近つまめるようになったお腹を気にしていたりする。

「そう、なら加賀はもっと食べないとね」

そう言って加賀のパンにチョコクリームを追加するアイネ。

「ん、あ、ありがと」

「やつれてた時から見れば大分いいけど、それでもまだ痩せ気味でしょ?」

「ん……仕事してるとなかなかねー」

パクりとパンにかじりつき、もごもごと口を動かす加賀。
口から垂れそうになったチョコをぺろりと舐め、口を開く。

「そういうアイネさんだってまだ……細い……のかな?」

アイネの腕をちらりと見る加賀。確かにその腕はまだ細く、痩せていると言って良いだろう。

「そうね、だから私も食べないと、ね」

「……ボタン飛んでも知らないですよ」

たっぷりとクリームの塗ったパンを食べるアイネ。
そんなアイネをじとーっとした目で見つめる加賀、その視線の先にはここ数日で大分ぱっつぱつになったアイネの服。

「服破いたら怒られますよ」

「それは困るね、あとでデーモン出し入れしないと」

「……あれ、見てて可哀想になるんだけど……ほかに方法は」

「あれが一番楽なの」

料理を食べ過ぎてたまりにたまった魔力を消費する方法。
それがデーモンを召喚し即送還、そして再び召喚と繰り返す事であった。
アイネに呼ばれ出てきて見れば挨拶を済ませる暇もなか地面へと沈みこんでいくデーモン。
初めの内こそ御命令をマスターと言っていたデーモンであるが、次第に言うのを諦め項垂れていく姿は中々に哀愁が漂っていた。

「まぁ、ほどほどにね……それで今日は街を見て回るってことでいいのかなー? もう用事は済ませたんだっけ」

「大体終わってるよ。あとは空いた時間でやれば良いから。今日は街にいこう」

「おー。色んなお店あったし楽しみー」

残っていたパンを口に放り込み、お茶で流し込む。
いっぱい買うぞーと気合をいれ、とりあえず食器の片付けをはじめる二人であった。


城をでた二人がまず向かったのは港に一番近い市場であった。
せっかく海が側にあるのだからお昼は魚が食べたいと加賀が言い出した為である。
アイネも新鮮な海の魚を食べる機会……というか今までは食べても意味がなかったので、アイネにとってもいい機会であった。

「わーわーわーっ、かなりいっぱいあるし、皆新鮮だね。エビまであるっ」

「エビ……おいしいのかしら」

「おいしいよ。煮ても焼いても揚げても……わりと何して食べてもおいしい食材だとおもう。エビは絶対確保だねー」

港町だけあって魚介類は新鮮なものがそろっているようだ。
普段宿であまり扱う事の出来ない食材をみて加賀のテンションはあがりまくりである。

「ん、果物もあるみたい」

「おー……南国で取れるのがあるね。さすがいろんな国の商品が集まるだけある……あ、それおいしいよ」

「そう? じゃあ2個ずつくださいな」


はふーとため息をついて椅子に腰かける加賀。
しばらく歩き回り色々なものを買い込んだせいか結構お疲れの様子だ。

「はい、飲み物貰ってきたよ」

「ありーがと」

もっともアイネのほうはまったく疲れた様子は見られないが。
とても一人で持てそうにない量の荷物を軽々と持っているあたり、人間とは基本スペックが違いすぎるのだろう。

「……どうかした?」

「あ、いや。バナナおいしい?」

「……食感が独特だけどおいしい。これも何かに使える?」

先ほどお店でかった果物を食べているアイネ。とりあえず一通り味見してみて気に入ったものを後でまた購入する腹積もりだ。

「バナナはお菓子によく使うよ……生のままでも火を通してもどちらでもいけるねー。個人的には生のやつに生クリームあわせたのがすき」

そういえばと呟く加賀。

「パウンドケーキ以外のケーキ作ったことなかったっけ……材料いいのあったら作ってみようか」

「あの美味しそうなやつだね。型手に入ったらと思ってたけど……ここなら売ってるかも知れないね。それも探しましょ」

とりあえず休息をいれ落ち着いた二人。
昼に間に合うよう海岸へと向かうのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生魔法伝記〜魔法を極めたいと思いますが、それを邪魔する者は排除しておきます〜

凛 伊緒
ファンタジー
不運な事故により、23歳で亡くなってしまった会社員の八笠 美明。 目覚めると見知らぬ人達が美明を取り囲んでいて… (まさか……転生…?!) 魔法や剣が存在する異世界へと転生してしまっていた美明。 魔法が使える事にわくわくしながらも、王女としての義務もあり── 王女として生まれ変わった美明―リアラ・フィールアが、前世の知識を活かして活躍する『転生ファンタジー』──

こちらの世界でも図太く生きていきます

柚子ライム
ファンタジー
銀座を歩いていたら異世界に!? 若返って異世界デビュー。 がんばって生きていこうと思います。 のんびり更新になる予定。 気長にお付き合いいただけると幸いです。 ★加筆修正中★ なろう様にも掲載しています。

加護とスキルでチートな異世界生活

どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!? 目を覚ますと真っ白い世界にいた! そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する! そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる 初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです ノベルバ様にも公開しております。 ※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません

生活魔法しか使えない少年、浄化(クリーン)を極めて無双します(仮)(習作3)

田中寿郎
ファンタジー
壁しか見えない街(城郭都市)の中は嫌いだ。孤児院でイジメに遭い、無実の罪を着せられた幼い少年は、街を抜け出し、一人森の中で生きる事を選んだ。武器は生活魔法の浄化(クリーン)と乾燥(ドライ)。浄化と乾燥だけでも極めれば結構役に立ちますよ? コメントはたまに気まぐれに返す事がありますが、全レスは致しません。悪しからずご了承願います。 (あと、敬語が使えない呪いに掛かっているので言葉遣いに粗いところがあってもご容赦をw) 台本風(セリフの前に名前が入る)です、これに関しては助言は無用です、そういうスタイルだと思ってあきらめてください。 読みにくい、面白くないという方は、フォローを外してそっ閉じをお願いします。 (カクヨムにも投稿しております)

目覚めたら地下室!?~転生少女の夢の先~

そらのあお
ファンタジー
夢半ばに死んでしまった少女が異世界に転生して、様々な困難を乗り越えて行く物語。 *小説を読もう!にも掲載中

ユニークスキルで異世界マイホーム ~俺と共に育つ家~

楠富 つかさ
ファンタジー
 地震で倒壊した我が家にて絶命した俺、家入竜也は自分の死因だとしても家が好きで……。  そんな俺に転生を司る女神が提案してくれたのは、俺の成長に応じて育つ異空間を創造する力。この力で俺は生まれ育った家を再び取り戻す。  できれば引きこもりたい俺と異世界の冒険者たちが織りなすソード&ソーサリー、開幕!! 第17回ファンタジー小説大賞にエントリーしました!

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

望んでいないのに転生してしまいました。

ナギサ コウガ
ファンタジー
長年病院に入院していた僕が気づいたら転生していました。 折角寝たきりから健康な体を貰ったんだから新しい人生を楽しみたい。 ・・と、思っていたんだけど。 そう上手くはいかないもんだね。

処理中です...