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一章 アホみたい
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女子トイレに駆け込んでは、
化粧を直す。
このまま、拓也と会うわけにはいかない。
私は、ぺたぺたとファンデーションを、
かさかさの肌に押しつけた。
あなたにとって、私は、なに?
いつも、拓也に尋ねたくなる。
由紀子、と優しい目をしながら、
撫でてくるあなたは、私のことは、どうでもいい?
いつも、疑惑に思ってしまう。
野川美優が現れてから。
私は、神谷由紀子。
化粧品会社で働く27歳。
塚野拓也と、付き合っている。
初めての彼氏!
というわけでは、ない。
だが、居心地がいい、と思った。
それだけだ。
彼とは、時々あって、一緒に公園で悩み事を伝えたり、
家に行ってちょっぴり甘いムードになったり。
当たり前の、恋人として、
過ごしていた。
「拓也」
と外見からは似合わない甘ったるい声で言うと、
「ゆき」
と、私を抱き締めてくれた。
なのに。
「俺、美優と飲みに行く」
どこに行くの?と、彼が家から出て行こうと
するから、尋ねる。
帰ってきたのは、それだった。
「美優って、だれ?」
「美優は…えと、俺の幼なじみ」
普通に返答した彼の口とは違い、
目は泳いでいた。
魚のよう。
じっと、彼の瞳を見つめる。
「別に、妖しい関係でもないんだって。
ただ、緊急らしくて、話を
聞いてほしいって」
「…二人きり?」
「二人きりだけど、
俺ら幼なじみだから、
そんな一線をこえるようなこと、しねぇよ」
そう言って、ワイシャツ姿の彼は、
そのまま、ドアを閉めて、
暗闇に消えた。
ここは、彼の家だ。
ふかふかとした小さいミニソファは、
まだ体温が残ってる。
ベッドの下を覗くとほんのすこし、
あらまな本があるのが、
楽しい。
彼のテレビをつける。
面白くない。
こんな時間だと、ニュース番組か、
深夜の寒いバラエティーしか、やってない。
12時を刺す時計を見て、私は溜め息をつく。
今日、私は、泊まるはずだったけど、
彼がいないこの家で、ぐっすりと、
眠る気には、なりはしない。
「…」
女々しい言葉をつぶやきかけた自分の額を
ぺしりと叩く。
鏡に映る自分は、黒髪のボブに、
つり目とほくろで、どう考えてもクールだった。
実際は、お姫様は大好きだし、
アニメも、漫画も好きだけど、
周囲の人は外見で私を
大人しい、聞き分けのいい子だ。
そう思うらしい。
だから、私は期待に答えてきた。
でも、毎回後悔する。
さっき、行かないでって、言ったら。
彼は、まだここで一緒に笑ってくれてただろうか。
ふぅとため息をつき、
バッグを手に取る。
ダメだ、何時間も待ってられない。
帰ろう。
終電は、いつだろうと
思いながら私は、玄関に向かう。
私は、彼が好きだ。
化粧を直す。
このまま、拓也と会うわけにはいかない。
私は、ぺたぺたとファンデーションを、
かさかさの肌に押しつけた。
あなたにとって、私は、なに?
いつも、拓也に尋ねたくなる。
由紀子、と優しい目をしながら、
撫でてくるあなたは、私のことは、どうでもいい?
いつも、疑惑に思ってしまう。
野川美優が現れてから。
私は、神谷由紀子。
化粧品会社で働く27歳。
塚野拓也と、付き合っている。
初めての彼氏!
というわけでは、ない。
だが、居心地がいい、と思った。
それだけだ。
彼とは、時々あって、一緒に公園で悩み事を伝えたり、
家に行ってちょっぴり甘いムードになったり。
当たり前の、恋人として、
過ごしていた。
「拓也」
と外見からは似合わない甘ったるい声で言うと、
「ゆき」
と、私を抱き締めてくれた。
なのに。
「俺、美優と飲みに行く」
どこに行くの?と、彼が家から出て行こうと
するから、尋ねる。
帰ってきたのは、それだった。
「美優って、だれ?」
「美優は…えと、俺の幼なじみ」
普通に返答した彼の口とは違い、
目は泳いでいた。
魚のよう。
じっと、彼の瞳を見つめる。
「別に、妖しい関係でもないんだって。
ただ、緊急らしくて、話を
聞いてほしいって」
「…二人きり?」
「二人きりだけど、
俺ら幼なじみだから、
そんな一線をこえるようなこと、しねぇよ」
そう言って、ワイシャツ姿の彼は、
そのまま、ドアを閉めて、
暗闇に消えた。
ここは、彼の家だ。
ふかふかとした小さいミニソファは、
まだ体温が残ってる。
ベッドの下を覗くとほんのすこし、
あらまな本があるのが、
楽しい。
彼のテレビをつける。
面白くない。
こんな時間だと、ニュース番組か、
深夜の寒いバラエティーしか、やってない。
12時を刺す時計を見て、私は溜め息をつく。
今日、私は、泊まるはずだったけど、
彼がいないこの家で、ぐっすりと、
眠る気には、なりはしない。
「…」
女々しい言葉をつぶやきかけた自分の額を
ぺしりと叩く。
鏡に映る自分は、黒髪のボブに、
つり目とほくろで、どう考えてもクールだった。
実際は、お姫様は大好きだし、
アニメも、漫画も好きだけど、
周囲の人は外見で私を
大人しい、聞き分けのいい子だ。
そう思うらしい。
だから、私は期待に答えてきた。
でも、毎回後悔する。
さっき、行かないでって、言ったら。
彼は、まだここで一緒に笑ってくれてただろうか。
ふぅとため息をつき、
バッグを手に取る。
ダメだ、何時間も待ってられない。
帰ろう。
終電は、いつだろうと
思いながら私は、玄関に向かう。
私は、彼が好きだ。
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