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神様の家出。
ダンジョン攻略、その前に……
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この日、夜空に月は見えなかった。だが眩しいほどに星々が瞬いて、光の運河を描いていた。
昼に、ペルカがダンジョン攻略の仲間を募った。
俺とクリフ。そして女将さんが名乗りを上げて、明日から先ずはダンジョンの入り口を探すことになった。
さてそんな中、星の光に照らされて、俺が今いるのは放浪亭の裏、キロ小屋の横である。
ここは、小さな広場になっていて身体を動かすのにちょうどいいのだ。
「フーッ、やっぱり確認しとかないとまずいよな……。はーっ」
俺は、キロの眠る納屋から持ち出した大きな箱を地面に置いた。
「キロも今日は疲れたよな。あれだけ動いたキロ、はじめて見たもんな」
キロは俺が納屋からこの箱を持ち出す物音にも、起きだすそようすもなかった。
「ヨシッ!」
俺は、相撲取りのように掌でパンッ――と、頬を張った。
意を決して地面に置いた箱の蓋を開ける。
中に入っているのは、いくつかの武器だ。これは、女将さんが冒険者時代に使っていた装備の一部だという。
パッと見ただけで分かるのは、棍棒、槌矛、戦鎚、剣かな。ああ、短剣もあるね。
「とりあえず、これからいくか」
棍棒を手に取る。……ブンブン振る。
「まあ、こんなもんだよね。次は……」
槌矛を手に取る。……ブンブン振る。
「やっぱりこのくらいの重量が有った方が威力はありそうだよね。持ち手もしっかりしてるし」
戦鎚を手に取る。……ブンブン、うぉッ、あぶなッ!
ピッケルの刃先みたいになってるところが額に刺さりそうになりましたよ。
「これは、慣れないとこっちが怪我しそうだ。というわけでパス。――ダガーは魔物討伐には向かないよね。……さて」
最後に残った剣を見る。この世界に来てから最も馴染みのある武器だ。
簡素な鞘に収められた剣は、実用のみを考えて作られたような印象を受ける。女将さんの持ち物らしいというかなんというか。
俺は剣の鞘を掴むと左手で腰に添え、軽く腰を落として構える。
ヒュンッ、と刃が、空を切った。
居合いのように抜き放たれた剣の刃先は、星々の光を受けて輝きを放つ。
……トクン……
……トクン、トクン……トクン…………トクン………………
有り得ないはずの鼓動が、抜き放った剣を通して俺の腕に伝わる。
刃先がブルブルと震え出した。
「――うっぷッ」
俺は剣を取り落とし、込み上がってきたものを押しとどめるように、口を手で押さえた。
膝が折れ、倒れ込みそうになった身体を、左手の鞘を付いて支える。
何とか胃の内容物を吐き出すのは堪えた。
「やっぱり……あれが原因だよな……」
薄々気付いてはいた。
あのエルトーラでの出来事。
俺の意志とは関係なく、デビットの心臓を貫いた俺の剣。あのとき感じた心臓の断末魔の鼓動。
正直、あの後の事は薄らとした記憶だ。
だがあの昏い闇に呑み込まれたような狂乱にいたる前。あのとき感じた、あの感覚だけが異様に膨れ上がって俺の中に残っている。
思い返してみると、放浪亭でも女将さんのサポートはしていたが、ナイフなどの刃物を使うことは避けていた。
それはこの事実と向き合うことから逃げていたんだと思う。
「我ながら情けないけど、今はそんなこと言ってる場合じゃないよな。……現実的に考えて、やっぱりこいつかな」
俺は、取り落とした剣をそのままに、鎚矛を手に取った。
このメイスはモーニングスターと呼ばれる種類のもので、金属製でポールの上部に六枚の厚いブレード状の突起が付いているタイプだ。
「これなら、剣術の動作がある程度使えるし、モンスター相手なら打撃がかなり有効だろう」
俺は、ダンジョン探索に使う武器としてメイスを使うことに決めた。
「それよりこれどうしようか? ……こうすればどうだ」
地面の上の剣。
俺はその刃先に鞘の受け口を持って行き慎重に鞘に納めた。
鞘越しになら、剣を持ってもあの感覚に襲われることがないのは、さっき確認したばかりだ。
自分の情けない状況に思うところが無いではないが、今はそうも言っていられない。
そんな俺の一連の行動を、放浪亭の影から何者かが覗き見ていたのだが、俺はその気配に気付くことは出来なかった。
昼に、ペルカがダンジョン攻略の仲間を募った。
俺とクリフ。そして女将さんが名乗りを上げて、明日から先ずはダンジョンの入り口を探すことになった。
さてそんな中、星の光に照らされて、俺が今いるのは放浪亭の裏、キロ小屋の横である。
ここは、小さな広場になっていて身体を動かすのにちょうどいいのだ。
「フーッ、やっぱり確認しとかないとまずいよな……。はーっ」
俺は、キロの眠る納屋から持ち出した大きな箱を地面に置いた。
「キロも今日は疲れたよな。あれだけ動いたキロ、はじめて見たもんな」
キロは俺が納屋からこの箱を持ち出す物音にも、起きだすそようすもなかった。
「ヨシッ!」
俺は、相撲取りのように掌でパンッ――と、頬を張った。
意を決して地面に置いた箱の蓋を開ける。
中に入っているのは、いくつかの武器だ。これは、女将さんが冒険者時代に使っていた装備の一部だという。
パッと見ただけで分かるのは、棍棒、槌矛、戦鎚、剣かな。ああ、短剣もあるね。
「とりあえず、これからいくか」
棍棒を手に取る。……ブンブン振る。
「まあ、こんなもんだよね。次は……」
槌矛を手に取る。……ブンブン振る。
「やっぱりこのくらいの重量が有った方が威力はありそうだよね。持ち手もしっかりしてるし」
戦鎚を手に取る。……ブンブン、うぉッ、あぶなッ!
ピッケルの刃先みたいになってるところが額に刺さりそうになりましたよ。
「これは、慣れないとこっちが怪我しそうだ。というわけでパス。――ダガーは魔物討伐には向かないよね。……さて」
最後に残った剣を見る。この世界に来てから最も馴染みのある武器だ。
簡素な鞘に収められた剣は、実用のみを考えて作られたような印象を受ける。女将さんの持ち物らしいというかなんというか。
俺は剣の鞘を掴むと左手で腰に添え、軽く腰を落として構える。
ヒュンッ、と刃が、空を切った。
居合いのように抜き放たれた剣の刃先は、星々の光を受けて輝きを放つ。
……トクン……
……トクン、トクン……トクン…………トクン………………
有り得ないはずの鼓動が、抜き放った剣を通して俺の腕に伝わる。
刃先がブルブルと震え出した。
「――うっぷッ」
俺は剣を取り落とし、込み上がってきたものを押しとどめるように、口を手で押さえた。
膝が折れ、倒れ込みそうになった身体を、左手の鞘を付いて支える。
何とか胃の内容物を吐き出すのは堪えた。
「やっぱり……あれが原因だよな……」
薄々気付いてはいた。
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正直、あの後の事は薄らとした記憶だ。
だがあの昏い闇に呑み込まれたような狂乱にいたる前。あのとき感じた、あの感覚だけが異様に膨れ上がって俺の中に残っている。
思い返してみると、放浪亭でも女将さんのサポートはしていたが、ナイフなどの刃物を使うことは避けていた。
それはこの事実と向き合うことから逃げていたんだと思う。
「我ながら情けないけど、今はそんなこと言ってる場合じゃないよな。……現実的に考えて、やっぱりこいつかな」
俺は、取り落とした剣をそのままに、鎚矛を手に取った。
このメイスはモーニングスターと呼ばれる種類のもので、金属製でポールの上部に六枚の厚いブレード状の突起が付いているタイプだ。
「これなら、剣術の動作がある程度使えるし、モンスター相手なら打撃がかなり有効だろう」
俺は、ダンジョン探索に使う武器としてメイスを使うことに決めた。
「それよりこれどうしようか? ……こうすればどうだ」
地面の上の剣。
俺はその刃先に鞘の受け口を持って行き慎重に鞘に納めた。
鞘越しになら、剣を持ってもあの感覚に襲われることがないのは、さっき確認したばかりだ。
自分の情けない状況に思うところが無いではないが、今はそうも言っていられない。
そんな俺の一連の行動を、放浪亭の影から何者かが覗き見ていたのだが、俺はその気配に気付くことは出来なかった。
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