俺は、新(異)世界の神となる! ~そのタイトル、死亡フラグにしか見えないんで止めてくれませんか~

獅東 諒

文字の大きさ
上 下
63 / 80
神様の家出。

間話2 ペルカの一人旅

しおりを挟む
 青い空に薄い雲が糸を引くように流れているのです。
 冬が近づき、朝晩はもうだいぶ寒くなってきたのですよ。
 母さまとアマラが作ってくれた新しい巫女装束は、巫女兵モンクでもあるワタシに合わせて、動きやすいようにと裾が短くなっているので、足下が少し寒いのです。
 眠るときにはマントを羽織るので我慢はできるのですよ。

 村を出て十日。
 遙か向こうにロンダン村のある御山が、まだ山々の間に霞んだ頭を覗かせているのです。
 あと何日か西に進むと、もう御山も見えなくなるのです。
 眼下に深い森が続く小さな山の上。ワタシは道中に仕留めた兎のお肉を捌いて、少し遅いお昼なのです。

 ワタシが今こんな場所にいるのはヤマトさんを探す為なのですよ。
 ヤマトさんが、そのお姿を変えて地上に降臨されたという話を、サテラさまから聞いたのは、大陸西方のエルトーラで起きたあの出来事のすぐ後だったのです。
 ヤマトさんを探す決心をしたワタシは、父さまにお願いして村を出る資格を得るために試練を受けたのです。
 資格を手に入れるのは大変だったのですが何とか試練を乗り越えることができたのですよ。
 村の巫女の仕事は、資質を持った数人のに引き継いだのです。
 驚いたのですがワタシ、ヤマトさんの筆頭巫女なのだそうですよ。

 これはサテラさまから聞いたのですが、筆頭巫女には新たな巫女を選定する力があたえられるのだそうです。
 ヤマトさんの巫女になってすぐの頃には、まだ巫女としての修行がたりなかったのでしょう。その力は発現していなかったのです。
 ですがエルトーラから帰った後。サテラさまにうながされるままに探査サーチのスキルを使ったところ〔神職教示〕というスキルが発現していたのですよ。
 狼人族は仲間の結束が固いので、村から出る者はとても珍しいのです。
 大崩壊の後群れから出ていくのはワタシで二人目なのだそうです。

 ワタシが村を出る前の日。
 みんなが送別のお祭りを開いてくれたのです。
 長老さまがおっしゃっていたのですが、あれほど盛大なお祭りはロンダン村始まって以来の事だったそうなのです。
 ……大鹿のお肉美味しかったのです。
 ……フリェの茸、生け贄になったとき以来だったのです。
 サントの煮物も大鍋で振る舞われてみんな大騒ぎだったのですよ。
 成人した者たちは、お酒をあおって踊り出して最後には広場のそこかしこで寝込んでしまったのです。
 ワタシが出発するときに起きていたのは、父さまと母さま、長老にドゥランのおじさん、幼なじみのアマラと旦那さんのラバルさん、そしてワタシがヤマトさんの巫女として選んだ娘たちなのです。
 確かに、それは盛大なお祭りだったのでしかたないのですが……、生け贄として御山に運ばれたときには、父さまと母さまは居ませんでしたし、アマラとは遠くで視線を交わしただけだったので、今回はきちんと言葉も交わせたのです……ワタシ、みんなに嫌われているわけではないのですよ。ほんとですよ。
 ドゥランのおじさんが「今度は生け贄に召し出されるわけじゃぁないんだ。みんなお前が元気に戻ってくると思っているから……まあ、羽目を外しすぎだがな」と、呆れたように笑っていたのですよ。
 村のみんなとお別れするのは辛かったのですが、たしかに、こんどは先の無い出発ではないのですよ。
 それにヤマトさんの信徒を増やすために、村を出るつもりでいたのです。それが少しばかり早くなっただけなのですよ。

 遠くに霞む御山を目に、村のことを考えていたワタシの頭の中にピンッと何かがつながったような感覚がしたのです。
 途端、凜とした女の人の声が響いたのです。

『ペルカ、聞こえていますか?』
「はやや!? サテラさま――なのですか?」

 ワタシは、口の中に入っている兎の肉を素早く咀嚼して呑み込みました。

『ひと月振りになりますね。……そこはロンダン村ではないようですが……、ヤマトを探すために村を出たのですね。あなた、ひとりで村を出るのは初めてなのではないのですか? 旅の方は問題ありませんか?』
「ハイ、なのです。こうして食事も出来ているのですよ」
『――そうですか、それはなによりです』

 サテラさまの質問に対してワタシの返した答えは、少しズレていたような気もするのですが、サテラさまは優しく声を掛けてくださりました。

『ところでペルカ、ひとつあなたにお願いしたいことが出来てしまったのです』

 サテラさまの声は、どこか言い辛そうな雰囲気をその響きに紛れさせているのです。

「どういったご用件なのでしょうか?」
『あなたはダンジョン迷宮という言葉を聞いたことはありますか?』
「ハイなのです。村の語り部のお婆さんたちから、昔語りで聞いたことがあるのです」
『では、そのダンジョンがどういったものかは知っていますか?』
「その……、怖いモンスター魔物が沢山いる場所というくらいしか知らないのです」
『やはり、今の地上の子供たちにはその程度の知識しかありませんか……』

 サテラさまは、何か諦めたように軽く息をついたのです。

『いいですかペルカ。私たち神々と魔神の間にはとある制約があります。その詳細についてはあなたたち地上の子供たちに語ることはできません。しかしその中であなたたちに大きく関係するいくつかの事柄については語ることが許されています。それをこれから話します。心して聞きなさい』
「はい、分かりましたのです」

 ワタシは居住まいを正すと、神妙にサテラさまの言葉を待ったのです。

『ダンジョンというのは魔神の軍勢が地上に攻め込むために生み出されるものなのです。魔神や魔の者たちが邪気を力とすることは知っていますね。彼らは邪気を蓄え魔神に奉じます。その邪気を蓄えた魔神は地上へと続くダンジョンを生み出します』
「ダンジョンは魔神が生み出すのですか……」
『そうです。そしてダンジョンの最下層には時を同じくして一匹の魔族が産み落とされるのです。その魔族はダンジョンと命を共有する存在です。つまり魔族が死ねばダンジョンも死に、ダンジョンはただの洞窟となります』
「では、その魔族を斃さないとダンジョンはずっとそのままなのですか?」
『いいえ。ダンジョンをそのまま放置しておくと、ダンジョンはモンスターたちをどんどんと生みだし、彼らが発した邪気を糧に迷宮は成長します』
「はわわ、成長するのですか!?」
『そうです。迷宮は十層まで成長した段階ではじめて地上に口を開きます。そしてそのまま最下層の魔族を斃せずにいると百層まで成長します。百層までダンジョンが成長すると、魔族は新たな眷属魔族を生みだし、自身はダンジョンから軛を解かれて地上を自由に徘徊できるようになるのです』

 サテラさまの説明を聞いて、ワタシは自分の血の気が引いていくのが分かったのです。

『しかもそれだけではありません。ダンジョンから解き放たれた魔族が下層から外に向かうのに追われ、恐慌を来たした多くのモンスターたちが迷宮から脱出しします。近郊に村や街があった場合、その恐慌に巻き込まれて崩壊する可能性があるのです』
「それは大変なのです!!」
『ええ……そしてそのダンジョンが、地上に口を開きました』
「はわっ!!」
『ペルカ、あなたにはそのひとつのダンジョンの攻略をお願いしたいのです』
「はわわわわ、そっ、その――ワタシで大丈夫なのですか……」
『今のあなたの力ならば、ダンジョンに挑むにたる資格は充分にあるでしょう。しかし、ひとりでは無理です。幸い、あなたに攻略をお願いするダンジョンの近くには村がありますので、そこを拠点にすれば、ダンジョン攻略の仲間を集めることもできるでしょう。……その、本来ならばヤマトの巫女であるあなたに、私がお願いすることではないのは分かっているのです。ですが、私は戦女神の眷属であり、神職や巫女との繋がりは多くないのです……それに、結果としてヤマトの為にもなることですし……』

 サテラさまの最後の言葉は、どこか自分に言い聞かせているような響きを放っているのです。

「あうぅ、あっ、あの、お気になさらないでくださいなのです。ワタシもサテラさまのお役にたてるのは嬉しいのですよ。……それにサテラさまがヤマトさんの事を思っているのはワタシ分かっているのですよ」
『なななッ――何を言っているのですかペルカ! ヤマトを思っているなどと――私はそんな……』

 何でしょう? サテラさまは何故か慌てているのです。ワタシの言葉が足りなかったのでしょうか?

「その……、サテラさまははじめてヤマトさんと私の前に現れたときから、それはヤマトさんの事を母親が見守るように優しくも厳しく見守っていたのです」
『……コホン。えっ、ええ、そうですね。ヤマトはまだまだ手のかかる子供のようなものですからね』
「ところでサテラさま、ヤマトさんは……」
『ヤマトの居場所ですね。おおよその範囲には絞れたのですが……いまだハッキリとした場所はつかめていません。ですがこれからあなたが向かうことになるダンジョンは、その範囲内にあります。ヤマトのこと、ダンジョンの話を聞きつければ、きっと自分から首を突っ込んでくるでしょう。姿を変えていることは間違いありませんが、あなたならもしかしたら分かるかもしれませんね』

 それはとても嬉しい言葉でした。
 ワタシが村を出たのは、すべてヤマトさんの力になりたいからなのですよ。
 だから……不謹慎なのですが、直接ヤマトさんのお役に立てるかもしれないのはとても嬉しいのです。

「ヤマトさんとまた会えるのですね!」
『そうなると良いですね……。私は暫しの間、地上に降臨すおりることがかないません。あなたには定期的に連絡するようにします』
「分かったのです。それでワタシはどちらの方向に向かったらいいのでしょうか」
『あなたのいる位置からですと西北西の方向になります。方角は分かりますね』
「ハイなのです。太陽の位置で分かるのですよ」
『ならばヤマトのこと、お願いしましたよ』

 その言葉を最後に、ワタシの頭の中につながっていた微かな力が途切れました。
 サテラさまからの神託を受け取ったワタシは、サテラさまが示された西北西の方角を見据えました。
 青い空には、雲が糸を引くように流れています。サテラさまが示された西北西から流れてきているのです。
 それはワタシをヤマトさんの元に導く確かな絆に見えたのですよ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

“元“悪役令嬢は二度目の人生で無双します(“元“悪役令嬢は自由な生活を夢見てます)

翡翠由
ファンタジー
ある公爵令嬢は処刑台にかけられていた。 悪役令嬢と、周囲から呼ばれていた彼女の死を悲しむものは誰もいなく、ついには愛していた殿下にも裏切られる。 そして目が覚めると、なぜか前世の私(赤ん坊)に戻ってしまっていた……。 「また、処刑台送りは嫌だ!」 自由な生活を手に入れたい私は、処刑されかけても逃げ延びれるように三歳から自主トレを始めるのだが……。

問題:異世界転生したのはいいけど、俺の「力」はなんですか? 〜最弱無能として追放された少年が、Sランクパーティーに所属するようです〜

鴨山兄助
ファンタジー
 異世界転生したら何かが変わると思っていた。  だが現実はそう甘くない。  転生者である少年ノートには剣技の才能も魔法の才能も無く、唯一あるのは「大抵の物なら弾き返せる」という意味不明な雑魚スキルのみ。  そんなノートは十四歳のある日、所属していた冒険者パーティーを追放されてしまう。  途方に暮れて森をさまよっていたノートは、モンスターに襲われていた少女を成り行きで助けた。  それが切っ掛けで少女が所属している冒険者パーティーに誘われたノートだったが……そのパーティーはなんとSランクの最強冒険者パーティーだった!  Sランク冒険者パーティー「戦乙女の焔(フレアヴァルキリー)」のリーダーにスカウトされたノートは、少し変わり者な仲間達に囲まれながらも、必死に仕事をこなす。  これは、一人の少年が自分の「力」と向き合う物語。  そしてこれは、最弱無能と呼ばれた転生者が、最強の英雄へと至る物語。 ※感想等は随時募集中です。お気軽にどうぞ。 ※この作品は小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+、ハーメルンでも掲載しています。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

レディース異世界満喫禄

日の丸
ファンタジー
〇城県のレディース輝夜の総長篠原連は18才で死んでしまう。 その死に方があまりな死に方だったので運命神の1人に異世界におくられることに。 その世界で出会う仲間と様々な体験をたのしむ!!

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する

ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。 きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。 私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。 この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない? 私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?! 映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。 設定はゆるいです

処理中です...