俺は、新(異)世界の神となる! ~そのタイトル、死亡フラグにしか見えないんで止めてくれませんか~

獅東 諒

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神様の家出。

僅かな異変

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「カーサさん、ようすはどうだね」
「珍しいねラルフさん。あんたがうちに顔を出すなんてさ」

 昼食というにはすでにおそい時間。
 放浪亭の扉を開けて入ってきたのは、マクデル村の村長むらおさラルフだった。
 村長という実力者のわりには痩せた初老の男で、貧相しい感じさえした。だがそれがかえって寒村の村長らしいともいえる。しかし、彼の顔には滲み出るようなしふてぶてしさが見えて、たしかに村を束ねるだけの力量を持つていることをうかがわせた。
 ラルフは、ゆっくりと店内を進むとカウンターの前で立ち止まる。

「いや、ダイが居ついてから放浪亭の料理が美味うまくなったと聞いてね。これまで見たこともないような料理を出すとだいぶ評判のようじゃないか」

 ラルフはかるく垂れた目尻に意味ありげな笑みを貼り付けている。

「なんだい。ダイが居つくまえからって評判だったんけどねぇ」
「確かにとは思ったが、山賊にでもなった気分だったがね」

 二人はカウンターを挟んで、片眉を上げた半分ニヤけた表情で言葉を交わす。
 一八〇センチほどの大女のカーサと、一六〇センチほどの小男のラルフ。
 互いを牽制する笑顔の圧力はいい勝負だ。
 しかし瞬刻の間を置いて、カーサが白い歯を見せて、ニーッと凶悪に笑った。
 現在では昔語りの中に出てくるだけの妖魔、オーガさながらの迫力にラルフが一歩後ろへ下がる。
 そのラルフの目の前に、バッとカウンターの奥から何かが差し出された。
 差し出された彼女の腕は太く筋肉質で、その体格を見ても、いまだに現役の戦士といっても差し支えないほどだ。

「なッ、なんだね!?」
「夜の営業の仕込みだけど、味見してみるかい?」

 ラルフが店に入ってきたときからこの展開を見越していたのか、カウンターの上に差し出されたのは深めの木皿に盛られた野菜を多く使った煮込み料理だ。

「これは?」
「ダイが言うにはトリッパ・アラ・ロマーナって料理らしいけどね。しかしダイもどこでこれだけの料理を覚えたんだか――ナイフも扱えないくせに。まあ調理の手際はどう見ても素人なんだけどねぇ」

 ラルフはカーラにうながされるままにカウンター席に座る。
 おっかなびっくりと木製スプーンを突っ込んで掬い上げた。……が、その手は口の前で止まってしまう。
 毒々しくも感じる赤いスープの色が、口の中に入れるのを躊躇させたのだ。

「………………」

 しかし、鼻先をくすぐる食欲を誘う匂いに意を決したように口に運ぶ。

「!? ウムッ、これは……旨い! こいつは牛の内臓……ハチノスか? ……チーズも入っとるのぅ……それにこの何ともいえぬ酸味は? ……! あんたが持ち込んだあのトマトか?」

 ラルフは目を剥いたあと、思案げにカーサに問うた。

「へえー、判るのかい」

 ラルフが料理を口に運ぶのを戸惑っている間に、絞めた鳥の仕込みをはじめていたカーサが意外そうに顔を上げた。

「あたりまえだ。あんたが村にトマトを持ち込んで、いまでは特産といえるまでに広めたのではないか! 毎日口に入れていれば嫌でも味を覚えるわ!」
「まあ、初めはトマトの葉が毒草に似てるもんだからって、誰かさんが毒を食わせるのかって乗り込んできたっけねぇ」
「ふん、……そんなことあったかのぅ?」

 苦虫を噛み潰したような顔をしながらも、ラルフは手を止めることなく木のスプーンで口に運んでいる。

「まっ、いいけどさ。――ところでべつにウチの料理を楽しみにきたわけじゃないんだろ?」

 トマトの件以来、村の集会で顔を合わせる以外に、放浪亭には顔を出したことがないラルフが訪ねてきたのだ、ただ料理の味見をしに来ただけでないことはわかっていた。

「……カーサさん、あんた猟師のクリサフを知っとるよな」
「そりゃ、知ってるさ、食材を入れてもらってるんだからさ」

 カーサは、なにをいまさらといった表情を浮かべる。
 猟師のクリサフは、カーサがこの放浪亭を受け継いで以来のつきあいなのだからあたりまえだった。

「そのクリサフから相談されての……」
「なんだい、ラルフさんらしくないね。いつもみたいにスパッと言ったらどうだい」
「……クリサフが言うには、森のようすがおかしいらしいのだ。わしは森の奥には入らんから、実際のところ詳しくは分からんのだが、ここ一月ほどで森の獲物の数が目に見えて少なくなったらしい」
「肉食獣の群れでも流れてきたんじゃないかい?」
「クリサフもそう思って調べたそうなんだが、肉食獣が獲物を狩ったような痕跡こんせきは見つからなかったそうだ」
「それじゃぁ、何が?」
「そう急くな。――肉食獣が獲物を狩った痕跡はなかったが、何者かが獲物を狩った跡を見つけたそうだ。しかもその跡を隠すような工作がしてあったらしい」

 ラルフのはなしを聞いたカーサの顔に、目に見えてげんなりとした表情が浮んだ。

「また野盗が森に入り込んできたっていうのかい? あの時、この村周辺には近づかないように徹底的に叩いといたんだけどねぇ……」

 カウンターの奥で、カーサが手に持ったナイフを器用にクルクルとまわす。

「まあ六年も経てば、もの知らずが入り込んできたりもするか。でもクリサフも水くさいねぇ、言ってくれれば、あたしだって手を貸したのにさ」

 言いながら羽根を剥いだ鶏にナイフを入れる。

「…………そういえば、ダイはどうしたね?」
「ダイのやつは夕の営業まで休憩だ。あんたが来るしばらく前に食事に行ったよ。キロのところ――納屋にでもいるだろ。いなかったら村の散歩でも……あんた。もしかして、ダイのやつが野盗の仲間だとでも思ってるのかい?」

 ラルフの、いささか不自然なはなしの振り方に、カーサが訝しげに問いを返した。

「…………野盗の中には、仲間を村に入り込ませて、下調べをしてから襲う奴らもいるというではないか」
「なるほどねぇ、クリサフもそれを心配しているわけか。他にもそう考えてる奴がいるのかい?」
「いや――別に確信があるわけでもないから、それはないようだがね。……だが、森で異変がおきた時期と近いこともあって、ダイが村を見て回っているのを気にしている者はいる。わしは少し前にダイと話す機会があったが――野盗の仲間になるような人間とは思えなんだのは確かだな」
「現役は退いたけどさ、あたしは長く命のやり取りをしてきたんだ。心に邪なものを持った奴は判るつもりだよ」
「……うむ、あんたがそう言うなら問題なさそうだな」
「でも、ウチの料理のレベルが上がったとはいえ、ここのところ村のやつらがよく来るとは思ってたんだ。なるほどねぇ、ダイを見張りに来ていたやつもいたってことだね。外の人間が村に居着いたのはあたし以来だから、物珍しくて見に来てるのかと思ってたよ。……まあ、最悪ダイの奴があたしの目を欺くほどの奴だったら、責任を持ってあたしが引導渡してやるよ。安心しな」

 はじめのラルフとのやり取りの剣呑さと違い、おきらくな世間話のように言い放った。
 だがその手元では、ダンッ! という音とともに鶏の首が落された。
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