俺は、新(異)世界の神となる! ~そのタイトル、死亡フラグにしか見えないんで止めてくれませんか~

獅東 諒

文字の大きさ
上 下
50 / 80
幕間2

ペルカがんばる!(中)

しおりを挟む
 ペルカをロンダン村から連れ出して、ヤマトが居るというエルトーラへ向かう途中。
 サテラは結界に阻まれたエルトーラ内に入る方法が有るとペルカに語った。

「先ほども聞きましたが、そのような事情にワタシがお役に立てるのでしょうか?」
「ええ、あなたがヤマトの巫女だからこそ使える手があるのです」
「ワタシが、ヤマトさんの巫女だから……」

 その言葉に、ペルカは胸の底から湧きあがってくる歓喜の思いを抑えられなかった。それは他の誰でもなく、今この時、自分だけが彼の役に立つことができるということだからだ。
 理性では、それがいかに傲慢で身勝手きわまりない考えかということも理解できる。だが感情の奔流は理性のつつみを簡単に取り壊してしまう。

「エルトーラの都市を包む結界は主神さまの宝具を使い築かれています。識神さまが云うには、ヤマトの神気は主神さまから授けられたもの、この結界の影響を受けることはないそうです。つまりヤマトの巫女であるあなたも結界の影響を受けない可能性が高いのです」
「しかし、その都市に入れたとして、ワタシはどうしたらいいのですか?」
「……ペルカ――あなたにパスを繋がせてもらいます」
「……?」
「いま識神さまは私の上位の戦女神さまにパスを通し結界内を見ているのですが、同じことをあなたに対して私が行ないます。ただこれは試してみないと分かりません。ですが結界の影響を受けないならば、あなたのうちに私の神気を送ることができるはずです。そうなれば何か事が起ったとしても私が戦うこともできる。ペルカ……あなたの身体を借りることにはなりますが……」

 サテラが複雑な面持ちをペルカに向ける。
 対しペルカも複雑な心境だった。ヤマトの巫女として彼の役に立てると胸に満ちていた強い奔流が急速に澱んでいく。
 確かに爪牙闘士として修行をしているものの、今の自分の実力では、あのアースドラゴンのような邪気を放つ魔の者との戦闘では役に立てないのは分かる。しかし、サテラの力で役に立つというのもまた違う気がするのだ。
 しかし、ペルカは心を決めた。

「……わかったのですぅ、サテラさまが最善と思うことをなさってくださいなのです」

 いまはどのようなかたちであれヤマトのために役に立つことが大事な時だ。
 自分の思いを優先するときではない。

「助かりますペルカ。……それでは」

 言うと、サテラが自分の剣を鞘から抜き放つ。姿を現した剣の刃はその鞘の長さから考えるとあきらかに短いものだ。まえにペルカが見たサテラの剣の刃は鞘の長さに見合うものだったはずだ。
 サテラがうっすらと疑問を抱いている間に、サテラはその刃先で人差指の先を軽く突いた。
 プクリと指先に赤い血が浮かぶ。

「これを口に含みなさい」

 サテラが、ペルカの顔のまえに指先を差し出してきた。

「……わかったのです」

 あむっ――と指先を含むと、血の味が淡く口の中に広がった。

「もういいですよ。……これで準備は整いました。それに、そろそろエルトーラが見えてくるはずです」

 サテラが安堵の表情を浮かべるが、それとは逆にサテラの指から口を離したペルカの表情は怪訝そうに曇った。

「サテラさま。何だかおかしいのです。この一帯の獣たちが怯えてるのですよ」

 ペルカの言葉にサテラは驚きの表情を浮かべると、意識を集中するように前方を凝視した。彼女の話に出てきた識神と交信でもしているのか、少しのあいだ動作が止まったあと苦々しげに表情がゆがむ。

「クッ、既に試合が始まっているようです。試合が始まる前にはエルトーラに着けるはずだったのですが……、風の流れに押され速度が落ちたようです。私の地上界での移動魔法はこれが最速……、しかしまだ間に合うはずです」

 サテラの気持が影響したのか若干光球の速度が上がったようだ。遙か前方の地平線上に影のように薄らと市壁が見えてきた。
 あれがエルトーラという都市なのだろう。
 その都市に近づくにつれ、ペルカにも体毛が逆立つような、ピリピリとした怖気が走る。

「サテラさま、私にも感じられるのですぅ、とても禍々しいものがあそこにいるのです!」

 ペルカとサテラのいる光球はグングンとエルトーラに進み、市壁上からもペルカが指差した場所――コロッセオが確認出来るほどまでに近づいていく。

「……あそこにヤマトがいるのです」
「――! そんな!!」

 サテラに言われ感覚を研ぎ澄ませると、確かに禍々しい邪気の奔流の中に、ペルカの馴染みがあるヤマトの力を感じることができる。
 ペルカは、サテラに悲壮な表情で振り向いた。

「サテラさま! 急がないとヤマトさんが! ヤマトさんが!」

 そのとき地を鳴らすような咆哮が、コロッセオから街を隔てる市壁外にまで響いてきた。
 その咆哮は、ふたりの乗る光球をも揺るがした。

「これは? まさか使徒化!?」

 サテラの操る光球は急激に速度を落とすと地面に着地するまえに泡のように弾けて消えた。
 空中でペルカはサテラの脇に抱え込まれた。サテラはそのままエルトーラの東門まえに着地すると、
「行きなさいペルカ!!」
 ペルカは彼女の手からほうるように放たれた。

「行くのです!!」

 放たれたペルカは四つ足で疾風のように駆け出す。
 ヤマトのいるコロッセオの場所は上空から確認した。この道を真っ直ぐに突き進めば良いだけだ。
 市壁の門をくぐるときに違和感を覚えたが、それがサテラが言っていた結界だったのだろう。しかし結局ペルカにはなんの反応を示すことなく通り抜けることができた。
 門を駆け抜けたときに門兵がなにやら騒いでいたようだが、今のペルカにはそんなことを気にしている余裕はなかった。

「ヤマトさん! いま行くのです!!」

 既にペルカの頭の中に、今の自分が本当に役に立てるのかなどというような考えは一片も存在していなかった。ただただヤマトの側に――その傍らに。
 その思いの噴出にまかせて駆ける。
 サテラの光球に乗っていたときには見る間に近づいてきたコロッセオだが、人族から比べたら遙かに早い狼人族の足をもってしても、なかなか近づかない。
 普段のペルカならば大通りの両脇に立ち並ぶ石造りの二階や三階建ての建物に目を回して、キョドキョドしてしまいそうな状況の中にいるにもかかわらず、今のペルカはコロッセオしか見えない。ただただ先をコロッセオ目指して駆け進んでいく。

『急いでくださいペルカ! 嫌な予感がします。……パスは大丈夫ようですね。識神さまですら自身の神殿内でしか会話ができないと言っていましたから、私の神気を送ることも十分に可能でしょう』
「サテラさま、ワタシの身体を使ってください。ヤマトさんのところに急がないと!」

 見えているのになかなか近づかないコロッセオに、ペルカの焦りが増す。

『それは最後の手段です。アナタは神をその身に降ろせるだけの霊力を持っています。ですが神の力がアナタに掛ける負担は小さなモノではありません。&――今はとにかくヤマトを見つけることに意識を集中しなさい』
「……わかったのですぅ!」

 ペルカが、気ばかりが焦るなか、やっとの思いでコロッセオ前の広場までたどり着くと、コロッセオの入場門からワラワラと人々が駆けだしてきた。

「中に、中に入れてください!! お願いなのです!!」

 コロッセオ内での出来事で恐慌に陥ったらしい人々は、我先にと外に駆け、さらに一刻も早くこの場から立ち去ろうと転び、他人に踏まれようとも這い退るようにと逃げてゆく。
 濁流のような人の流れに押されペルカは思うように前に進むことができなでいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
 女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。  シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。  シルヴィの将来や如何に?  毎週木曜日午後10時に投稿予定です。

苦労人お嬢様、神様のお使いになる。

いんげん
キャラ文芸
日本屈指の資産家の孫、櫻。 家がお金持ちなのには、理由があった。 代々、神様のお使いをしていたのだ。 幼馴染の家に住み着いた、貧乏神を祓ったり。 死の呪いにかかった青年を助けたり……。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

後宮にて、あなたを想う

じじ
キャラ文芸
真国の皇后として後宮に迎え入れられた蔡怜。美しく優しげな容姿と穏やかな物言いで、一見人当たりよく見える彼女だが、実は後宮なんて面倒なところに来たくなかった、という邪魔くさがり屋。 家柄のせいでら渋々嫁がざるを得なかった蔡怜が少しでも、自分の生活を穏やかに暮らすため、嫌々ながらも後宮のトラブルを解決します!

処理中です...