俺は、新(異)世界の神となる! ~そのタイトル、死亡フラグにしか見えないんで止めてくれませんか~

獅東 諒

文字の大きさ
上 下
39 / 80
神様Help!

戦闘だって、真面目にやるよ!?(前)

しおりを挟む
 さて、これが正念場ってやつなのかな?
 目の前に立つ女剣闘士ヴリンダは昨日の試合を見た限り、明らかに俺より力を持っている。
 バルバロイの目的を考えれば、ここで負けるわけにはいかない。

 だが、結局試合前にバルバロイが言ったのは、「胸を借りてこい」の一言だ。

 良いのか? 負けるよ、俺。
 ただ……実はちょっと楽しみだったりもしてるんだよね。というのも、三年ものあいだバルバロイのおかげで軽いトラウマを発症するほどの修行(だってあれ、絶対にトレーニングと呼ぶ代物じゃ無かったからね)をへて地上に降臨しおりたのに、これまでの試合では自分の力、その全て出して戦うことは結局一回も無かったからだ。
 だから地上でどこまで戦えるのか自分でもハッキリと分かってないんだよね。
 ヴリンダは確かに強い。だからこそ俺自身がこの地上で使える総ての力を出して戦えるかもしれないのだ。

 正直なところ俺自身これを認めるのはたいへん癪なんだけど、たぶん……いや間違いなくこれからもこういった事態に巻き込まれるだろう。
 そういう予感がヒシヒシとするんだよね。だからいまのうちに自分の全力を出して戦える相手に巡り会えたことは、ある意味好運なのかも知れない。
 このトーナメント、これまでの試合で死者やその後の生活に支障が出る重傷を負った者は、共にゼロだしね。
 それに考えてみると、天上でのバルバロイのような底の見えない強さとも思えないし、バルバロイとの修行でも意表を突けば攻撃を入れることはできたんだ。手が無いわけじゃないだろう。

 しかし試合が始まろうというのにヴリンダはそれはもう憎らしくなるくらい平静だ。
 奇しくも今回、俺とブリンダ共にこの世界でも追撃剣闘士セクトルと呼ばれる装いだ。
 これは基本的にはトラキア剣闘士トラークスと同じだが、剣が湾曲したシーカ刀でなく直刀のグラディウスで、盾が小型のスクトゥーム盾から、本来の大きさのスクトゥーム盾になる。
 この盾の形は俺がいた本来の世界で、警察などが使っているライオットシールドを思い浮かべると良いだろう。
 最後に今回は女性剣闘士に合わせて、かぶと無しでの戦いになる。

 観客席の中央にある元老院や執政官、財務官など国の運営に携わる人々用の貴賓席もトーナメントの決勝らしく今日は満席だ。
 これまでの試合では半数以上が空いてたもんな。

 その席の一番前に審議員が進み出る。

「右方に進み出るは北の辺境よりやってきた女剣士ヴリンダ! 左方より進み出るは東方は幻のジパングより到り、偉大なる教練士マギステルバルトスに見いだされた剣闘士ヤンマー!」

 審議員の口上に、会場中がスタンディングオベーションだ。
 審議員は盛り上がりが一段落するのを待ってから手で観客を制す。
 それは良いんだが、なんで俺の紹介には余計な装飾が付いてんだ。
 観客の期待値が変に盛り上がったような気がするんだが。

「両者とも初出場にもかかわらず、筆頭剣闘士への挑戦者を決定する、この戦いの決勝へと進み出た希代の戦士である。――この戦いの結果がいかになろうとも我らエルトーラの民はおぬしらに最上級の賛辞を送るだろう! それでは、構えられよ!」

 うわー、やっぱり決勝ともなるとこんな口上が出るんだな。前までの試合は、名前を呼ばれて進み出たらハイはじめみたいな感じだったしね。

「……はじめ!!」

 俺とヴリンダが剣を構えたのを待ち構えるように、審議員の声が挙がった。
 その瞬間、ヴリンダの足下が爆発した。
 いや、彼女の踏出しの力があまりにも強すぎて、足下の土が後ろに弾け飛んだのだ。
 どわーーーーーーーーーーーーーッ!! 悠長に見てる場合じゃなかった!
 あっという間にヴリンダが目の前に迫る。
 ギンッ!!
 という音がコロッセオじゅうに響いたが、その瞬間の攻防を理解したのはこの場にいた数人だけだろう。
 控え通路からこちらを見ているバルバロイはもちろんだが、貴賓席でこちらを見ているルチアはどうなんだろう? 相変わらずデビッドと思われる男の姿は見えないが。

 身体が闘技場の端まで弾き飛ばされた俺は、ザザーーーーッ! という描き文字が出そうな感じで踏ん張り、止まったときには背に闘技場の壁面を背負っていた。
 ヴリンダはまるでニュートンのゆりかごと呼ばれる鉄球の衝突実験装置のように俺のいた場所に立ち止まっている。
 彼女がはじめに立っていた場所には、クレーターのような窪みができあがっていた。
 観客たちは、俺のいた位置に突然現れたヴリンダと、彼女のいた場所にできたクレーターに目を剥いて驚いている。
 ヴリンダの攻撃を凌いだ俺のことも、驚いてくれていいんだよ。
 誰も壁際に弾き飛ばされた俺には目を向けてないけどね。
 ……いいやい。いいやい。自分で褒めるから。
 ――よく凌いだ、俺!

 でもいま持つ実力の総てを出そうと考えていなかったら、間違いなくこの一撃で終わってたよ。
 ヴリンダの一撃は物凄く重い一撃だった。
 攻撃を受けたスクトゥーム盾を持つ左手がビリビリと痺れて、肘の関節がグラグラしたような感じだ。

「いまの一撃を受けきりましたか。思っていた以上にできるようですね。でも、それくらいでないと……」
「ヘッ?」

 あまりにも近くで声が聞こえたので、声のした下方かほうに目をやると、目の前で腰を屈め剣を|薙ぎ払おうとしているヴリンダが目にはいった。
 素早く動くのに邪魔だったのか彼女の盾はさっきまでいた場所に置き去りにされていた。
 瞬間移動してきたようにしか見えない。
 たぶん俺のまばたきに合わせて踏み込んできたのだろう。彼女が置いてきた盾もまだ倒れずに立っている。
 あッ、ヤバっ――!
 次の瞬間、ヴリンダは容赦なく剣を横に払った。
 ワーーーッ! とか、キャーッ! という歓声や悲鳴がアレーナじゅうに響き渡る。
 観客たちは俺の下半身と上半身がオサラバする光景を想像しただろう。
 男たちの多くは残虐さをおもてに表した表情で、女たちの多くは顔を覆う手の指の隙間から好奇の光を放つ瞳でその場面を見ていた。
 ヴリンダが薙払った剣の先、そこには大きく横に切り裂かれた試合場と観客席を仕切る壁面があった。

 うっわー。マジ引くわーこの人。
 完全に殺す気で来ましたよいまの一撃。
 俺が、切り裂かれた壁面を目にして、背筋に怖気おぞけを感じていると、ヴリンダがゆっくりと振り返った。と同時に彼女のすぐそばに上空からクルクルと回る何かが落下して地面に突き刺さった。
 それは、両断されたスクトゥーム盾の上半分だ。
 ……避けられなかったらあれが俺の姿だったわけだ。
 俺は、彼女が剣を薙払う瞬間、スクトゥーム盾を剣の動線に放ったのと同時に地面を蹴って飛び上がり、壁の上部に手をかけてクルリと身体を回し、壁のふちを蹴って試合場中央に飛んだのだった。

 俺が先程までいた場所の足下にも小さなクレーターができていた。
 地面を穿うがった蹴りは、隙間のない状態から相手にダメージの通る打撃を放つ、〔寸勁〕と呼ばれる技術を蹴りに応用したものだ。
 寸勁自体はバルバロイが得意とする技術のひとつで、俺もいちど胸を打たれて殺されかけたが、その後の彼との組み手のなかで、彼の意表を突くために編み出したものだ。
 バルバロイには「足で寸勁を打つバカがいるとは思わなかった」と微妙な評価を受けたんだが……。
 良かったー、覚えといて。

「これも避けましたか、なかなか良いですよあなた」

 ヴリンダはとても楽しそうな雰囲気をまとって微笑む。
 うわぁー嫌だー。
 その笑み止めてください。知り合いの女神を思い出すんで。
 彼女の笑みは、サテラがたまに俺に向けるイタズラじみた笑みに似ていた。

 あれっ? そうか! ――彼女に初めて会ったときに感じた近似感はサテラだ……。
 考えてみれば、彼女の実力からみても、死後に戦女神たちが天界に招いてもおかしくないはずだもんな。でも、女戦士って似たような雰囲気になるんだろうか?
 ……あれ? なんか肝心なところで間違ってるような……?

「はじめの一撃をあまりに見事に受けられたので、すこし力が入りました」

 オイッ!
 なんかいまウッカリみたいなこと言いやがりましたよこの人!
 なんだこの人。
 このナチュラルな横暴さというか、無理矢理感――この感じ物凄く良く知ってるんだけど。
 ……でも、まさか――ね。

「次! いきますよ!!」

 僅かに意識が逸れそうになっていた俺に、彼女はわざわざ声を上げて攻撃を再開した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する

ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。 きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。 私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。 この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない? 私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?! 映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。 設定はゆるいです

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

異世界クラス転移した俺氏、陰キャなのに聖剣抜いたった ~なんかヤバそうなので学園一の美少女と国外逃亡します~

みょっつ三世
ファンタジー
――陰キャなのに聖剣抜いちゃった。  高校二年生である明星影人(みょうじょうかげと)は目の前で起きた出来事に対し非常に困惑した。  なにせ異世界にクラス転移した上に真の勇者のみが引き抜けるという聖剣を引き抜いてしまったからだ。どこからどう見ても陰キャなのにだ。おかしいだろ。  普通そういうのは陽キャイケメンの役目じゃないのか。そう考え影人は勇者を辞退しようとするがどうにもそういう雰囲気じゃない。しかもクラスメイト達は不満な視線を向けてくるし、僕らを転移させた王国も何やらキナ臭い。 仕方ないので影人は王国から逃亡を決意することにした。※学園一の美少女付き ん? この聖剣……しゃべるぞ!!※はい。魔剣もしゃべります。

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

処理中です...