俺は、新(異)世界の神となる! ~そのタイトル、死亡フラグにしか見えないんで止めてくれませんか~

獅東 諒

文字の大きさ
上 下
35 / 80
神様Help!

囮捜査は、役得ですか?(前)

しおりを挟む
 闘技場コロッセオから出て、ルチアが俺を引っ張って来たのは、神々の神殿が点在している街の南東側ではなく、西側の区画だ。
 この時間は既に居ないが、朝にはこの区画の広場で魚や貝などを広げる朝市が開かれている。
 それらの海産物はこの街から歩行かちで4時間ほど、西の港町から運ばれてくるのだ。
 ただしこの区画は朝市の時間が過ぎると途端に人の往来が少なくなる場所でもあった。
 微かに磯の匂いが漂うこの場所でルチアが俺を伴ったのは、その広場から少し離れた、昼間から薄暗い路地奥に存在する料理店だった。
 隠れ家的な店というよりは、商人が闇取引にでも使いそうな怪しい雰囲気を放っている。

「ヤンマーさま、しばしお別れしなければなりませんがこちらで待っていてくださいね。……注文オーダーをしてきますので」

 俺にピタリと寄り添っていたルチアは店に入ると、なんとも離れがたそうな雰囲気を滲ませ、懇願するような言葉を掛けてきた。
 いやアナタ――6メーター先にいる店員の所へ行くだけでしょ。
 ふぅー、でもやっと離れてくれたよ。
 胸が当たってたんだよしかもポッチが!
 普通なら役得デヘヘな感触のはずなのに、身体は硬直するし悪寒で寒イボが出るし、よく耐えたな俺。
 ……別に童貞でその手の女性に免疫がないからじゃないからね!
 彼女との相性が最悪に悪いだけなんだからね!
 ……ほんとだよ。

 今の時間、昼の食事のピークはとっくに過ぎているので、店内には俺たち以外の客の姿は見えない。
 それ以前に、普通の街の人々が気楽にやってきて、くだを巻いているような店には見えないしね。
 実際のところ入り口付近はこんな所に店? って感じなんだけど、中に入ると思ったよりも広い店内だ。
 しかも使われている建材や調度品は、俺がエルトーラに降臨してから見た建物の中でも高級の部類に入る。さらに店内には消臭か空調の魔法でも掛かっているのか、外に微かに漂っていた磯臭さも感じない。

「さっ、ヤンマーさまこちらですわ」

 ルチアは店員に注文を済ますと、また腕に張り付くようにすり寄って俺を引っ張る。
 ゴワッ、また悪寒が!
 ルチアから受ける嫌悪感を懸命に押し込めて平常を装っている俺を、彼女は席へと押し込んだ。
 ルチアが選んだ席は周りからは死角になっているが、こちらからは店の入り口が目に入る場所だ。しかもさりげなく俺を奥の席に追いやり逃げ場を塞ぐように自分はその隣に座った。
 位置取りが堅気かたぎの人じゃないよ。
 うーん、何かスパイ映画みたいなシチュエーションになってる。
 自分が登場人物じゃなければこの展開も楽しんでいられるんだけどなぁ。
 俺、健全な菓子製造工場の従業員だったはずなのに……。いま異世界の怪しい店のに連れ込まれて、しかも映画の中にしか存在しなさそうな扇情的な女が、隣で肩に撓垂しなだれかかっている状況ですよ。
 しかしなんで隣に座るかなこの女。

「ヤンマーさまはこういうお店は初めてですの? でもこれからはアナタの生活は一変しますわ。今回のトーナメントでの活躍、エルトーラでもすでにヤンマーさまのお名前を知らぬ者はいませんもの。ベルバドさまも契約を続けるためにきっと良い条件を出してくれますわ。逃げられたら困りますものね」

 最後の言葉には悪戯っぽい笑みを添えて、ククと喉の奥に笑いが乗った。
 うーん意外だ、ベルバドに俺を勧誘しないと言ったとおり約束は護るんだな。
 まあ結構辛辣な感じだが。

「ところで、他国の方がトーナメントに参加するために必要な保証人をバルトスさまが引き受けたと伺ったのですが、どのようなご関係なんですの?」

 そう聞く彼女の赤い瞳は好奇心で装飾されている。警戒している俺から見ると探るような光がチラチラと覗いているようにも見える。

「ああバルトスさんか、彼とはエルトーラに来る旅の途中に知り合ったんだけど、なんだか妙に気に入られてしまってね、気が付いたらこのトーナメントに押し込められちゃったんだよね」

 経緯は別として状況はおおむね間違っていないよね。

「そうなんですか……あの方らしいですね。でも教練士マギステルバルトスさまに見込まれるなんて、ヤンマーさまは戦士として素晴らしい資質を持ってらっしゃるんですね。それから……もう一つ伺いたいのですが、ヤンマーさまはどちらから来られたのですか? ワタシも含め黒髪の者はこの国にも多くいますけどヤンマーさまのような肌の色は初めて見ましたわ」

 ルチアは矢継ぎ早に質問を重ねてきた。

「東方のジパングって島国から武者修行の旅をしてきたからね」

 確かにこの世界に来てからまだアジア系の人間は見てない気がする。まあこの辺りの俺の経歴はバルバロイやアンジェラと打ち合わせてあるんで問題ないんだけどね。でもジパングは余計だったかな、いやちょっとそれっぽい名前を言ったほうが良いかな、なんて思ったんだけど。まあ深く聞かれたら遠くの国だからって事で誤魔化せば良いか。

「ジパング!! ジパングというと遙か東方、幻の黄金の島と呼ばれている、あのジパングですか?!」

 エッ! マジですか!? コッチにも在るのかジパング!
 しまった、矢継ぎ早の質問についノリでジパングと言ってしまったが、……アアッ! サテラの冷たい表情が目に浮かぶ。
 済みませんお調子者です。
 しかし、ずっとエロ怪しい雰囲気を振りまいていたルチアが、今の一瞬だけ光り物に目をきらめかせる普通の女の子になってたよ。

「いやぁ、それはたぶん違うかな~、普通の島国だよ。いやホント」
「そうなんですか……」

 なんかシュンとしたぞ。
 しかしこちらの世界でも女性は光り物に目がないんだろうか?
 まあ知ってるのはペルカとアンジェラさん、後エルトーラでお世話になってる数人くらいだけど。サテラやシュアルさんなんかは女神だから割愛します。

「こちら食前酒になります」

 そんな話をしていたら料理が運ばれて来た……。
 ……えーっと、何だかバニーガールのような人が見えるんですが……そういう店か!? いや、違うだろ! もしかして人族とかだろうか?
 目の前に陶器の酒壺と銀製の杯が置かれた。酒壺の中に入っているのは蜂蜜酒のようだ。
 今回の降臨で何回かバルバロイと飲み交わしているので甘い蜂蜜の匂いで判別がついた。食前酒として出てくる酒はそれ以外にも香辛料の入ったワインなんかがあるが、そちらは口に合わなかったんで助かった。
 壺と一緒に置かれた銀製のカップに、うさ耳ウエイトレスが蜂蜜酒を注ぐと、しずしずと奥に下がっていった。
 ……ピョンピョンとじゃなかったな。

「ヤンマーさまとの出会いに……」

 俺の脱線した思考を横に、ルチアが杯を掲げ蜂蜜酒に口を付けた。
 白蛇を思わせる彼女と相まって『蛇ってウワバミだよな』などとまた思考が別方向へと飛びそうになったところで、
「さっ、ヤンマーさまどうぞ」 と、ルチアは自分が口を付けた杯を俺に差し出した。杯にはしっかりと彼女の真っ赤な口紅の跡が残っている。
 そうだった。この国は俺の世界のローマ時代と同じく酒は回し飲みだった。
 既に試合後恒例になってしまったが。試合後の酒宴酒盛りで初めてアンジェラさんが口を付けた杯を手渡されたときには、驚いたものだ。

「さっ、どうぞ……」

 ルリアはさらに俺に撓垂れかかりながら、手を取り杯を渡してきた。しっかりと口紅の跡を俺の正面に向けて。
 うっ、これは断るわけにはいかないよな。でもそうだった、この展開は考えてしかるべきだった。
 だが俺は彼女に対する忌避感から、口を付けるのに瞬間の躊躇する。
 ……いかんいかん。彼女に不審がられないようにしなければ。
 俺は、を決して彼女から渡された杯を口に付けた。さりげなく口紅の位置はずらしたけどね。

「ヤンマーさま、ワタシのことお嫌いですか?」

 ……やっぱり誤魔化せなかったようです。
 俺の胸の辺りを人差し指でこねるようにのの字を書き、拗ねた雰囲気を漂わせる。

「まだお互い、深く知ってるわけじゃないから、ルチアさんもあまり早まらないで」

 居住まいを正し真面目に言ってみました。

「まあっ! 深く知ってくださる気があるのですね!」

 やぶ蛇でした。アアッ、変なところに手を持って行かないように。

「あの、……お客様よろしいでしょうか?」

 うおおおぉぉぉぉぉッ、助かった!
 食前酒に続く前菜を手にしたうさ耳ウエイトレスから声が掛かった。
 見ると彼女の顔は真っ赤だ。
 それはそうだろう、さっきまでのの字を書いていた手は、俺の上着のズリ上げるようにして肌に直接触れているし、もう片方の手は彼女の位置からは股間の付近をまさぐっているように見えているはずだからだ。
 正直なところ、こんな場所で事に及ばられては困るから声をかけたんだろう。
 グッジョブですよお姉さん。
 だけど彼女が俺を見る視線には、女をはべらせて無法を働く悪人を見るようなさげすんだ光が覗いているんだけどね。
 俺――悪くないよね。ね!
 しかしそこは仕事だ、うさ耳ウエイトレスのお姉さんはそれ以上は何も言わず、テーブルの上に卵と前菜を置いて奥に下がっていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

竜皇女と呼ばれた娘

Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ 国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

異世界で俺だけレベルが上がらない! だけど努力したら最強になれるらしいです?

澤檸檬
ファンタジー
旧題 努力=結果  異世界の神の勝手によって異世界に転移することになった倉野。  実際に異世界で確認した常識と自分に与えられた能力が全く違うことに少しずつ気付く。  異世界の住人はレベルアップによってステータスが上がっていくようだったが、倉野にだけレベルが存在せず、行動を繰り返すことによってスキルを習得するシステムが採用されていた。  そのスキル習得システムと異世界の常識の差が倉野を最強の人間へと押し上げていく。  だが、倉野はその能力を活かして英雄になろうだとか、悪用しようだとかそういった上昇志向を見せるわけでもなく、第二の人生と割り切ってファンタジーな世界を旅することにした。  最強を隠して異世界を巡る倉野。各地での出会いと別れ、冒険と楽しみ。元居た世界にはない刺激が倉野の第二の人生を彩っていく。

異世界に転生したら、いきなり面倒ごとに巻き込まれた! 〜仲間と一緒に難題を解決します!〜

藤なごみ
ファンタジー
簡易説明 異世界転生した主人公が、仲間と共に難題に巻き込まれていき、頑張って解決していきます 詳細説明 ブラック企業に勤めているサトーは、仕事帰りにお酒を飲んで帰宅中に道端の段ボールに入っていた白い子犬と三毛の子猫を撫でていたところ、近くで事故を起こした車に突っ込まれてしまった 白い子犬と三毛の子猫は神の使いで、サトーは天界に行きそこから異世界に転生する事になった。 魂の輪廻転生から外れてしまった為の措置となる。 そして異世界に転生したその日の内に、サトーは悪徳貴族と闇組織の争いに巻き込まれる事に 果たしてサトーは、のんびりとした異世界ライフをする事が出来るのか 王道ファンタジーを目指して書いていきます 本作品は、作者が以前に投稿しました「【完結済】異世界転生したので、のんびり冒険したい!」のリメイク作品となります 登場人物やストーリーに変更が発生しております 20230205、「異世界に転生したので、ゆっくりのんびりしたい」から「異世界に転生したら、いきなり面倒ごとに巻き込まれた!」に題名を変更しました 小説家になろう様にも投稿しています

処理中です...