俺は、新(異)世界の神となる! ~そのタイトル、死亡フラグにしか見えないんで止めてくれませんか~

獅東 諒

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神様Help!

降臨したら、コロッセオ!?(後)

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「よーし、今日の対戦はこれで終わりだ。取りあえず地上こっちの俺の住処すみかに移動するぞ」

 言うなり歩き出したバルバロイを追いかけて闘技場コロッセオから出ると、その周辺は石畳の広場になっていて、食べ物を中心とした露店が並んでいた。

「エルトーラ名物、チーズはどうだい」
「ワインはどうだ、最近出回ってきたビールもあるぞ!」
「パーニス・アディパートスはどうですか。軽くつまむにはちょうど良いよ! トーナメントの観戦のお供にどうですか」

 衣類や日常の雑貨などの露店もあるが野菜や果物、肉や魚などの食材の露店が多い。だが圧倒的に盛っているのはその場で食べることができる商品を扱っている露店だ。
 年に一度、筆頭剣闘士を決めるトーナメント観戦に持ち込める軽食類は尚更だった。
 多く人が並んでいる人気露天からは、見た感じピザの前身のようなパーニス・アディパートスを焼く香ばし匂いが漂ってくる。
 思わずゴクリと喉が動いた。

「小腹が減ったな。お前はどうだヤンマー?」

 俺が物欲しそうに露店を見ていたんで気を利かせたのか? まさか!?

「確かに、腹が減ったかも」

 考えてみると腹が減るという感覚は実に久しぶりだった。天界では食事をらなくても死ぬことがないので食べる必要が無いからだ。天界では食事は完全に嗜好品で、楽しむための行為なのだ。
 ……俺も地味に人間離れしてきたんだろうか。

「よーし、おい娘。そこのバーニス・ビーケンティーノとアディパートスを。おやじ、ワインとビールを一瓶ずつ貰おう。ヤンマー、チーズは食べるか?」
「ああ、俺チーズ大好きなんだ是非」
「あれ、あんた教練士マギステルバルトスか? うれしいねぇ、有名なバルトスの旦那に御利用いただけるとはな。カトノ産の山羊のチーズがおすすめだぜ」
「バルトスの旦那! ドライフルーツはどうだい? イチジクにプラム、ブドウなんかもあるぜ」

 おおっ、バルバロイ、この場合はバルトスって言ったほうがいいのか、人気者じゃないか。
 結局、そこら中から声をかけられて、いつの間にかかなりの大荷物になってしまった。
 まあ、トーナメントが終了するまでは地上にいるらしいので無駄にすることはないだろう。腐りそうな物も界蜃の袋に入れておけば問題ないだろうし。

 この闘技場コロッセオのあるエルトーラという国は、天変地異と文明の崩壊による動乱の時期を戦士達を中心にまとまり、生き残ったもの達を庇護して急速に発展した国だそうだ。
 戦士を中心に纏まったためか、非常に血気盛んだ。
 しかもバルバロイがこの国の守護神だというからその気質も分かろうというものだ。
 この世界の大陸は、異世界とはいっても俺のいた世界とほぼ同じ形をしていて、エルトーラは俺のいた世界に照らし合わせるならイタリアのローマに近い位置にある。
 ちなみに、俺がこの地上に初めて降臨したのは、地球でいえばネパールの東部、サガルマータ国立公園あたりの場所だったらしい。ヒマラヤの登山支援で有名なシェルパ族の人達などが生活しているあたりだったっけ? 子供の頃に行ってみたくて調べた知識だが、あのあたりは森林限界が4000メートルくらいだったはずだから、ペルカ達が生活していたのは富士山の山頂と大差ない場所だったらしい。
 今更ながら、神様補正に感謝だな。

「ところでバルトスさん? ……だんだん住宅街から離れてる気がするんだけど」

 一般の人々が生活するインスラと呼ばれる集合住宅の並んでいた辺りはさきほど通り過ぎてしまった。
 この辺りは、既に大型の建築物が点在していて、見た感じは天界の神殿に似た建物ばかりだ。

「この辺りの建物って神殿じゃないのか?」
「ああそうだ、目の前に見えるのが闘神の神殿。右手に見えるのが識神、その奥に見えるのが戦女神、さっき通り過ぎたのが築神の神殿だ」

 バルバロイが目に入った神殿が誰の物か説明をしてくれた。
 やはり主神の神殿は無いらしい。……知ってたけどね。

「おいヤンマー、こっちだ」

 この国の守護神でもある闘神の神殿は巨大で、闘技場コロッセオより大きな敷地を持っていた。神殿の周りには外界から隔てるかのように高い壁がぐるりと巡らされていて、正面には複雑な装飾が成された門が構えられている。バルバロイはその門をくぐるとずんずんと神殿へ向かって歩いて行く。
 えっ、まさか? いや、確かにあなた闘神だけどさ、地上では教練士マギステルバルトスなんじゃないの?
 門をくぐった瞬間妙な違和感があったが、バルバロイがどんどん先へと行ってしまうので俺は慌てて付いていく。神殿前の広場には、神殿に供物を捧げに来た人々が群れていて闘神バルバロイの人気をうかがわせる。……悔しくないよ。
 広場には多くの人がいるのだが、バルバロイと俺が進んでいくとなぜか波が引くように進路が開けてゆく。しかも良く見るとこの広場にいる人々が俺とバルバロイを認識している感じがしないのだ。

「バルトスさんこれは?」
「おお気付いたか、神殿の門から内側は結界になっていてなこの中で俺達を認識できるのは、俺達と同じ神か、ある程度のレベルに達した神官や巫女たちだけだ。……あといいかげん『さん』付けはやめな。オメエのこの三年の頑張りは大したもんだよ、正直見直したぜ。才能が無いとはいえ普通なら三ヶ月で済む訓練を三年も耐えて成し遂げたんだ。逃げ出さずにここまでよく頑張ったな」

 え゛っ! ……逃げ出してよかったの!?

「――おいっ! まさか逃げるって選択肢が思いつかなかったのか!?」

 俺の、驚愕きょうがくに見開かれた目を見て、バルバロイがあきれを含んだ突っ込みをくれた。

「ブッ! ブァッハハハハハハハハハハハハハハハハ! 馬鹿正直だなオメエ!」
「痛い、痛いってバルバロイ!!」

 バシバシと俺の背を叩いて、バルバロイはそれは愉快そうだ。

「まあ、俺たち神にとっては三年なんて時間はまばたきのみてぇなもんだ。オメエのその馬鹿正直というか愚直さはきっとこの先も力になるだろうぜ。ああっ、それからな結界の中とはいえ地上ではバルトスで頼むぜ」
「だから痛いってバルトス!」

 最後に身体がすっ飛びそうになるほど背中を叩かれ、トットットとつんのめるように進むと、ポムンと柔らかい物に顔が当たった。

「バルトスさまお待ちしておりました――こちらのお方は?」

 恭しい言葉が俺の頭越しにバルトスにかけられる。
 エッ? と言うことはこの柔らかい物は?

「うぁ、うわぁッ! すみません! ごめんなさい!!」

 俺は飛び跳ねるように後ろに下がった。目の前にいたのは三〇代前半と思われる長身の女性だ。巫女と思われるゆったりとした服装でハッキリとしないが、さきほど触れた(胸以外の)感覚だと筋肉質でメリハリのある肉体の持ち主みたいだ。
 ……あれ? でもこの人、見たことあるぞ。

「お前が待ち望んでいたヤツだアンジェラ。予定より時間が掛かっちまったがまだ間に合うだろう」
「ああっ! このお方が……。……有り難う御座います我が主よ!!」

 アンジェラと呼ばれた女性は、バルトスの言葉を聞くとその場に膝をつき泣き崩れた。
 神殿入り口で起きているこの場面。相も変わらず、結界に捕らわれた人々はこの場にいる俺達に気付くことなく俺達を避けて歩いて行く。
 なんだろう、また何らかのイベントに強引に巻き込まれている気がするんですが。
 これって気のせいじゃないよね! ね!!
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