『女友達』~側にいるのは辛いので遠くからあなたの幸せを願っています~

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6( 騒動の予感 )

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あれから綾と貴也は順調に付き合いを続け、こちらの心配を他所よそに、以前より仲良く過ごしているようだった。

 私は相変わらず、サークルとは距離を置いていて、綾達とも極力関わらずにすむように過ごしていた。

 もう振り回されたくなかった。

 半年程経ち、夏になっても付き合いが続いている2人を見て、今度は本当に大丈夫なのかも知れないと思い始めていた。

その矢先、綾が今回の騒ぎを起こした。

 実は、昨日久々にサークルの部室に顔をだしたときから、近いうちに何か起こるかもしれないという予感はあった。
 まさかこんなに早いとは思っていなかったが…


 部室に顔を出したのは、最終学年である私達4年生から後輩たちへ、サークル内の役割を引き継ぐためだった。

 私はサークルと距離を置いていたのだが、割り振られた自分の役割だけはしっかりこなしていた。
 やめてしまおうかと思ったこともあったけれど、楽しかった思い出もたくさんあるこの場所を、なかなか切り捨てることが出来ないでいた。


 とにかく昨日の午後、全ての講義が終わった私は、久しぶりに部室へ向かった。
 そして扉の前に立ち、少し緊張しながらドアを開いた。

 開けた瞬間、なんだコレ?と思った。

 表情を無くし、声も出さずに涙を流している綾と、怒ったような顔をした例の後輩ちゃんが、向かい合って座っている。そして、綾の横に立ったまま、泣きそうな程困った顔をして、おろおろしている諒太がいた。

 ピリリと張り詰めた空気が部室内に満ちていて、開いた扉にも、その先にいる私にも、誰も気が付かない。


 これはどういう状況なんだ?

 いや、ダメだ。いい。知りたくない。


 そう思うと同時に、ドアノブに手をかけたままだった私は扉を閉めようとした。


 扉が閉まる前に、諒太がこちらに気付いて、

 「いやいやいや!ちょっと待ってよ唯さん!」

と言いながら、物凄いスピードでこちらに近付き、閉まる直前の扉からスルリと出てきて、私の腕を取った。

 「ちょっ、何で行っちゃうの!アレ、俺じゃ無理だから!助けてよ。」

 と諒太が情けない声で引き留めてくる。

 「私の方こそ無理。もう関わりたくない。」

 「そりゃ気持ちはわかるけど、何であんな状況なのか気にならない?」

 「ならない。聞きたくないから言わないで。どうせ貴也の事で揉めてるんでしょ?貴也を呼んでどうにかしてもらいなよ。」

 「貴也は今日、卒業論文のデータ集めで教授と一緒に県外に行ってて、明日の夕方にしか帰れないって言ってた。だから…」

 「嫌だ!本当に無理。私はもう振り回されたくない!」

 諒太が言い終わらない内に、かぶせ気味に拒否した。

 部室の扉前で押し問答をしていると、通路の向こうに佳成が歩いている姿がみえた。
 こちらに気付くと、急いで駆け寄ってきた。

 「唯さんいた!探したよ!貴也のやつ、また浮気した!しかもまたあの子だよ!」

 佳成はとても怒っていた。

 「待って。それ以上言わないで。私はもう知りたくない。」

 佳成の言葉を遮り、その先は言わないでくれ、もう関わりたくないと伝える。

 「何でだよ。唯さん綾の友達だろ?側にいてやらないの?綾が可哀想だよ。」

 そう言って佳成は、信じられないものを見るような目で私を見た。

 「そうだよ。友達だよ。そう思ってたよ。」 

 「でも綾にとっての友達って何だろうね?私は前回の事で綾のことがわからなくなったよ。辛かったのはわかる。それでも、こちらまでおかしくなりそうな程の感情を好きなだけ吐き出して、支えてもらっておいて、裏では私の不満を言っていたなんて。それって友達?」

 そうなのだ。

 綾は、支えてくれて感謝していると私には言いながら、その裏でサークルの男性達に貴也の浮気のことを相談しつつ、私が話を真面目に聞いてくれないだとか、何のアドバイスもくれないだとか、私への不満をこぼしていたのだ。

 その事で私は責められ、とても傷付いた。

 綾の話はいつも真面目に聞いていたつもりだったよ。アドバイスはしてほしければそう言えば良かったのに。責められる謂れは無いよ!
 そう思いながらも、あの時の綾は正常じゃなかったんだと、仕方なかったんだと、私は自分に言い聞かせた。

 でも、もう無理だった。誤魔化しが効かないほど辛くなって、それで綾から距離を置いた。

  「そんな訳だから、私にはもう無理なの。」

 そう言って私は、2人が止めるのも聞かずにその場を後にした。
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