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しおりを挟むもう何を言っても綾には届かない気がして、どうしたら良いのかわからなくなってしまった。
諭そうとか、そんな大層なことを考えているわけじゃない。そんな力、私には無いから。
ただ、死なないで欲しいと思ってる。
私は本当に、綾のことが大好きだった。
出会ったときの、素直で、明るくて、前向きな綾が忘れられない。
人は一緒にいる人で変わる。
きっと私の知らないところで、貴也に傷つけられ過ぎて、貴也にのめり込み過ぎて、綾は少しずつ変わっていってしまったのだろう。
でも、変わらないものもあるんじゃないだろうかと思ってしまう。
しばらく考えて、心を決めた。
考えていても綾の気持ちはわからない。
それなら綾に、今どうして欲しいのか聞こう。
そう思ったときには、口から言葉が出ていた。
「綾、考えてもわからないから聞くね。今、私って邪魔?側にいない方がいい?一人で考えたい?」
数分の沈黙のあと、
「置いてかないで。」
震える声で、綾は一言そう言った。
良かった。拒否はされていなかった。
「わかった。側にいるよ。」
私はそう言って、綾の背中に手を回した。
しばらくそうしていると、綾が静かに話し出した。
「唯、聞いてくれる?」
「うん。聞くよ。」
「私、本当はわかってた。そろそろ貴也とは終わるのかなって。貴也は、確かに私を好きでいてくれてたと思う。だけど、最近の貴也は、私といるときあまり楽しそうじゃなかった。会話も適当だし、一緒に出かけても上の空で、とにかく全てがおざなりになってるの感じてた。」
「それは…辛いね。」
「うん。辛かった。一緒にいてもこんなんだから、連絡がとれないと余計に辛くて、もしかしたらまたあの子といるんじゃないかって疑ってた。まぁ、そうだったみたいだけど。」
綾が自嘲気味に笑った。
「とにかく、信用出来なかった私も悪かった。しょっちゅう疑ってたし、持ち物チェックしたり、携帯見せてとか言って、それでよく喧嘩もしてた。こんな女怖すぎだよね。」
「うん。怖いよ。ちょっと引く。」
「はっきり言わないでよ。」
「ごめん。それで?」
「それでも私としては、貴也と仲良くやれてるつもりだった。不安になるのは連絡がとれなかったときだけだったし。貴也が望んだことは、ほとんど拒否したことないし。貴也の好きなことは、私も一緒に何でもやったし。ずっと一緒にいたかった。」
「よりを戻したときに約束したの。卒業したら結婚しようって。今思うと、ほんと、浮かれすぎだよね。だけど、どんなに辛くても、喧嘩しても、約束したから。貴也は私から離れていかないって思ってた。」
「でも、今日貴也に、もう限界だから別れたいって言われた。私が頑張っているのを見ると疲れるんだって。私の全てが否定された。もういいや、死のうと思った。あの子とキスしたから、それが我慢できなかったから死んでやろうと思ったわけじゃないの。」
貴也!あいつ…何てズルい。なぜ綾がこんな状態になったのか経緯を聞いたはず。その中に、別れを切り出した何てこと、一言も言わなかった。
自分のせいになるのが怖くなって逃げたんだ。綾を見捨てたも同然だ。簡単には許せそうもない。
震える綾の声に、貴也への怒りが増す。
でも今は貴也のことより、目の前の綾を見よう。
「そうだったのか。辛かったね。話してくれてありがとう。」
「何で唯がお礼を言うのよ。」
「なんとなく。多分、死にたくなった理由がわかったからかな。知らないことって、意味もなく不安になったりするでしょ。」
「ちょっとわかるかも。」
「それで、話してみて今はどう?」
「辛い。でも聞いてもらえて、今すぐ死んでやるってほどの衝動は…薄らいだ…かな。」
死にたい衝動が薄らいだと聞いても、私は良かったとも、安心したとも言わなかった。
もうひと押し、もう少しで綾がこちらを見てくれる。そんな気がする。
「そっか。そういえば綾、声がカサカサだよ。アップルティー、飲みなよ。」
そして、出来るだけわざとらしくならないように、飲み物を口にするようにすすめる。
何か、何でもいいから、切っ掛けが欲しい。
あんなやつのために綾が死ななくていいんだよって、綾は本当は生きていたいんだって思ってるよって、今綾がいるのはここだよって、気付いてって、そう思いを込めて。
「今はいい。喉乾いてないよ。」
「きっと乾いてるよ。飲んでみな。」
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