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しおりを挟む諒太との電話を切ってから、綾の家の前に5分程で着いた。
気付いた諒太が駆け寄ってくる。
「あ、唯さん!もう、ほんと無理。助けて。カギ開けてくれないし、今から風呂場で手首切るって言ってるし…俺怖い!」
諒太は焦って一息に捲し立てようとする。
「ちょっと待って。落ち着いて。携帯鳴らしながらチャイムも押してみるから。」
走ってここまで来た私の方も、息を切らしながら一息で答える。
諒太は昨日からの成り行きをずっとみていたからなのだろう。綾の行動に恐れを抱いていた。
正直私も怖い。本当に死んでしまったらどうしよう。
実は、私の身近な人で自ら死を選んだ人が3人いる。
1人は大学に進学してから、体調不良が続き、調べてみたら難治性の病気が発覚した。かなり悩んでいた彼女は、徐々に塞ぎこんでいった。そしてある日、朝起こしにきた母親がもう息をしていない彼女を発見した。
もう1人は高校卒業と同時に就職した先で、酷い嫌がらせに合っていたそうだ。辞めずに頑張っていたけれど、耐えきれず。出勤して来ないのを疑問に感じた上司が、一人暮らしの部屋を訪ねてきて…ということらしかった。
最後の1人は、長く付き合っていた彼氏から別れを切り出されていて思い悩み、思わずやってしまったと言っていた。因みに、最後の1人は一命を取り留め、今は元気に生きている。
3人とも誰にも何も言わず、ある日突然実行に移した。でも、落ち込んでいたり、悩みを打ち明けていたり、SOSは発信されていた。それを周りが上手くキャッチ出来るかは、とても難しい。
だから、今回綾が自殺を仄めかす台詞をわざわざ周りに言ってから閉じ籠ったことに、私には他の人よりもほんの少しだけ、希望が見えていた。
これはきっと綾のSOS。
助けてほしくて言ってるんだ。だから、今すぐどうにかなる訳じゃないと思いたい。
でも絶対じゃない。
衝動的にということもある。
そんなことを考えながら、綾の部屋の前に立ち、気合いを入れて綾の携帯を鳴らす。同時にチャイムも押した。
どちらかに反応して。そう思いながら。
意外にも直ぐに携帯に出た。
「大丈夫…じゃないよね。話聞くから、ドア開けて。」
「嫌。ほっといて。私死ぬから。」
それだけ言って、綾は切ってしまった。
綾の声から怒りを感じた。何の根拠も無いが、まだ大丈夫かもしれない。そう思った。
今は夜の10時を過ぎている。周囲は住宅地だし、大きな声を出すのも憚られる。
とりあえず私は、一旦その場を離れることにした。
今のうちに情報を共有しておこうと、その場にいる男3人に声をかけ、何故こんな状況になっているのか経緯を確認することにした。
昨日の部室で起こった一部始終を、諒太が話し始めた。
昨日の午後、綾と諒太と佳成は、3人で部室に向かったそうだ。そこへ、後輩ちゃんが1人で部室に入ってきた。
そして綾を見た瞬間、顔をむっとしかめたかと思うと、ニヤリと笑い、
『愛されないって可哀想ですね。綾先輩?』
『貴也先輩と私、今でも時々会ってますよ。それに、この間キスしました。』
『貴也先輩は私といると落ち着くって言ってます。綾先輩といると疲れるって。』
『いい加減、別れてくれませんか?』
と言い放ったのだそうだ。
そこから綾と後輩ちゃんが言い合いを始めて、慌てて貴也に連絡したが、県外に居て帰れないと言う。 じゃあ確認だけでもと、貴也に先程の後輩ちゃんの話は本当なのかと問い詰めた。
貴也は時々会っていたことも、キスしたことも認めた。
その瞬間、綾が椅子に座り込んで静かに泣き始め、後輩ちゃんは『だから言ったじゃない。別れると言うまでここにいる。』と綾の目の前に座り込んだ。
ここまで聞いて、思わず うわぁ という声が、私の口から漏れてしまった。
「唯さんゴメン。もう迷惑かけないって約束したのに…」
と貴也が謝ってきた。
「今はその話はいい。後で聞く。それで、どうなったの?」
私は貴也の言葉を遮り、諒太に続きを話すように促した。
それから、佳成が私を探しに行った入れ違いで私が部室に来て、私が去った後は後輩ちゃんが痺れを切らして部室から出て行ったそうだ。
その後、諒太と佳成は、泣く綾をどうにか家へと送り届けた。
そして今日の夕方、県外から戻ってきた貴也は、綾からの呼び出しに応じて綾の家の近くのファミレスへと向かい、綾と話した。
後輩ちゃんと会っていたことと、キスしたことを改めて認めると、綾が『死んでやる!!』と叫んで、ファミレスを飛び出してしまった。
そして、昨日の綾の様子が心配だった諒太と佳成は、2人で綾の家へと向かう途中、ファミレスから飛び出してくる綾を偶然見かけ、ファミレスに残っていた貴也と合流した。
3人で代わる代わる綾と連絡を取るも、何を言っても『死んでやる』としか言わなくなった綾が怖くなって、私を呼び出した。ということらしかった。
もうなんだかお腹一杯。
胸焼けがしそうだ。
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