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5(過去)
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綾達ともサークルとも距離を置いたまま時間が過ぎて行き、冬の気配が漂うようになった頃、ようやく私の心も落ち着き、2人のことを過去のこととして受け止められるようになってきていた。
そんなことを自覚し始めたある日、友人であり趣味仲間でもある円に、
「最近ちゃんと笑ってるじゃない。良かったー。安心した。」
と言われた。そんなに酷い顔をしていたのだろうか?
「私、顔変だった?ちゃんと笑ってたつもりだったんだけど。」
「笑ってたよ。でもいつも暗い笑顔だったよ。影がある感じ。」
「何それ。影のある女。良い女に見えた?」
ふざけてそう返すと、
「いや、見えなかった。漫画でさよく顔に線が入ってて、暗い表情を表現したやつあるじゃない?あれ。あんな感じ。」
「あれって。酷いなー。」
途中から笑いが込み上げてきて、円と笑いあう。そして、今が楽しいと感じていることに気付いた。
「綾と貴也君のこと、私もなんとなく聞いてはたんだけど、ちょっと内容が内容だったし、触れられなくて。話、聞いてあげられなくてゴメン。あれから唯が上手く笑えてなくて心配だったんだ。」
「多分もう大丈夫。ありがとう。」
「次は…無いと良いけど、もし何かあったら、今度こそ話聞くよ。もし言えないときは、それなら笑わせてあげる。そこは自信ある。任せといて。」
そう言って笑う円に、心から感謝した。
「そのときはよろしく!」
そう返すと、円がぎゅっと抱き締めてくれた。
円とそんな会話をした数日後のこと、綾から会いたいと携帯にメッセージが入った。
そこには、貴也と2人揃って私に話したいことがあると書いてあった。
胸がざわりとした。
まさか復縁するのでは…いや、それは無いだろう。綾はあんなに悩んで、心が壊れそうになっていたのに。
そう思っていると、なかなか返信しない私に二通目のメッセージが送られてきた。
『私達また付き合うことになったよ。唯にはたくさん迷惑をかけたから、最初に報告して謝りたいの。』
メッセージを見た瞬間、頭が真っ白になった。内容は理解できたが、気持ちがついていかない。
二度も裏切るような人はやめた方が…、いやでも綾がまだ好きだったのなら喜んであげるべき?、いややっぱりやめた方が…でも…
頭の中をぐるぐると同じ言葉が回り、少なくとも心からの祝福は出来そうになかった。
会いたくないな。この話はメッセージのやり取りだけで終わらせよう。
私は何度も断った。しかし、2人がどうしてもと引いてくれず、渋々短い時間ならと了承した。
綾から連絡があった二日後、綾と貴也は私の家へとやってきた。
2人は少し気恥ずかしそうな笑顔を浮かべていた。そして、迷惑をかけて申し訳なかったと頭を下げた。
その瞬間、私はイラッとした。あれだけ騒いだ後で復縁することになり、恥ずかしかったのかもしれないが、申し訳ないと思っている顔には見えない。私の心が荒んでいるのだろうか。2人の世界に入り込み、酔いしれているようにしか見えない。
本当に申し訳ないと思っているのなら、せめてそれらしい顔をして欲しかった。そう思いつつ、頭を上げてもらった。
許されたと思ったのか、私への謝罪は終わりだとばかりに、2人は聞いてもいない、復縁することになった切っ掛けを嬉しそうに話しだした。
そして最後に貴也が、当たり前だがもう浮気はしない、もう迷惑をかけるようなことはしないからと、宣言して満足そうに帰っていった。
私は2人の前で、どんな顔をして座っていたのだろうか。全く思い出せない。
2人の話は、まるで霞がかかったように、どこか遠くの会話をぼんやりと聞いているような心地で、ほとんど頭に入ってこなかった。
帰り際の2人は満足そうな顔をしていたから、きっとにこやかに対応できていたのだろう。
後日、本当に大丈夫なのかと綾に確認した。
あの時綾は、心が壊れそうな程に思い詰めていたのだ。心配しないわけがない。
それに二度も浮気をするような人が、もう二度としないなんて、簡単に信じることはできなかった。口では何とでも言える。
しかし綾は、今度は大丈夫。気持ちを確かめあったから。また頑張ればいいのだからと、自信ありげに答えた。
私はそれ以上何も言えなかった。
そんなことを自覚し始めたある日、友人であり趣味仲間でもある円に、
「最近ちゃんと笑ってるじゃない。良かったー。安心した。」
と言われた。そんなに酷い顔をしていたのだろうか?
「私、顔変だった?ちゃんと笑ってたつもりだったんだけど。」
「笑ってたよ。でもいつも暗い笑顔だったよ。影がある感じ。」
「何それ。影のある女。良い女に見えた?」
ふざけてそう返すと、
「いや、見えなかった。漫画でさよく顔に線が入ってて、暗い表情を表現したやつあるじゃない?あれ。あんな感じ。」
「あれって。酷いなー。」
途中から笑いが込み上げてきて、円と笑いあう。そして、今が楽しいと感じていることに気付いた。
「綾と貴也君のこと、私もなんとなく聞いてはたんだけど、ちょっと内容が内容だったし、触れられなくて。話、聞いてあげられなくてゴメン。あれから唯が上手く笑えてなくて心配だったんだ。」
「多分もう大丈夫。ありがとう。」
「次は…無いと良いけど、もし何かあったら、今度こそ話聞くよ。もし言えないときは、それなら笑わせてあげる。そこは自信ある。任せといて。」
そう言って笑う円に、心から感謝した。
「そのときはよろしく!」
そう返すと、円がぎゅっと抱き締めてくれた。
円とそんな会話をした数日後のこと、綾から会いたいと携帯にメッセージが入った。
そこには、貴也と2人揃って私に話したいことがあると書いてあった。
胸がざわりとした。
まさか復縁するのでは…いや、それは無いだろう。綾はあんなに悩んで、心が壊れそうになっていたのに。
そう思っていると、なかなか返信しない私に二通目のメッセージが送られてきた。
『私達また付き合うことになったよ。唯にはたくさん迷惑をかけたから、最初に報告して謝りたいの。』
メッセージを見た瞬間、頭が真っ白になった。内容は理解できたが、気持ちがついていかない。
二度も裏切るような人はやめた方が…、いやでも綾がまだ好きだったのなら喜んであげるべき?、いややっぱりやめた方が…でも…
頭の中をぐるぐると同じ言葉が回り、少なくとも心からの祝福は出来そうになかった。
会いたくないな。この話はメッセージのやり取りだけで終わらせよう。
私は何度も断った。しかし、2人がどうしてもと引いてくれず、渋々短い時間ならと了承した。
綾から連絡があった二日後、綾と貴也は私の家へとやってきた。
2人は少し気恥ずかしそうな笑顔を浮かべていた。そして、迷惑をかけて申し訳なかったと頭を下げた。
その瞬間、私はイラッとした。あれだけ騒いだ後で復縁することになり、恥ずかしかったのかもしれないが、申し訳ないと思っている顔には見えない。私の心が荒んでいるのだろうか。2人の世界に入り込み、酔いしれているようにしか見えない。
本当に申し訳ないと思っているのなら、せめてそれらしい顔をして欲しかった。そう思いつつ、頭を上げてもらった。
許されたと思ったのか、私への謝罪は終わりだとばかりに、2人は聞いてもいない、復縁することになった切っ掛けを嬉しそうに話しだした。
そして最後に貴也が、当たり前だがもう浮気はしない、もう迷惑をかけるようなことはしないからと、宣言して満足そうに帰っていった。
私は2人の前で、どんな顔をして座っていたのだろうか。全く思い出せない。
2人の話は、まるで霞がかかったように、どこか遠くの会話をぼんやりと聞いているような心地で、ほとんど頭に入ってこなかった。
帰り際の2人は満足そうな顔をしていたから、きっとにこやかに対応できていたのだろう。
後日、本当に大丈夫なのかと綾に確認した。
あの時綾は、心が壊れそうな程に思い詰めていたのだ。心配しないわけがない。
それに二度も浮気をするような人が、もう二度としないなんて、簡単に信じることはできなかった。口では何とでも言える。
しかし綾は、今度は大丈夫。気持ちを確かめあったから。また頑張ればいいのだからと、自信ありげに答えた。
私はそれ以上何も言えなかった。
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