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5章 放浪の弟子と誰もいない世界

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 背後で違和感を感じた。
後ろを振り返ると人が出てきた。

「あ、よかった! 人がいる!
私、人がいなくなって不安になって誰かいないか探してたの。」

 浅黒い肌の鷲鼻の女がいた。矢継ぎ早に話しかけてくる。
ぼさぼさの黒髪を適当にまとめていて、
品があるように見せようとしている声の出し方の奥に獰猛な何かを感じた。

獲物を物色してるような目つき。
違和感がある女。

この倒れている女性について話を触れもしない。

「この女性が倒れてたんです、救急車よべますか?」

「あー。可哀そうに。私もさっきスマホを見たのよね。
でも呼べないの。ネットも電話も繋がらなくて…」

演技がかった声色でそういう。
正直あまり見た目のいい女ではないが、話し方がやたらと気取っている。

上品もしくは育ちをよく見せたいみたいだけど格好はまるで図書館に来るような人種には見えない。
汚いTシャツにホットパンツ趣味の悪いタトゥーがあちこちから見えている。
こいつ警戒したほうがいいよね。

「あたしはこの人を背負って外で誰か助けを求めに行きますね。」

「あ、そうなのね。いい判断だと思うわ。わたしはここでちょっと用があるから手伝えないけどごめんなさいね。」

「うん、じゃあ行きます。」

女性を担いですぐに図書館入り口ほうこうへ歩き出す。

出入口近くに行くまでに話は終わったのに。

やることがあるからといったのに…

こそこそと後ろからついて来ている。

出入り口付近で後ろのマナが騒ぐように動いた。

振り向くとまるで三下のデーモンに取りつかれた人間のように醜悪な表情を浮かべた
あの女がハンマーを振りかぶって飛びかかってきた。

ハンマーを避けながらカウンターで右ストレートを女の耳の下のあたりに叩きこむ。
女が地面にもんどりうって倒れる。
足で女の悪魔のようなタトゥーが彫られている膝小僧を踏み砕く。
もう歩くのは難しいだろうと思えるようなダメージが入ったのが伝わる。

 女はガァッ! タンを吐く前にだすような汚い音をだしてあと即座に
獣のようになりふり構わない感じで掴みかかろうとしてきた。
顎を蹴り上げ、仰向けに倒れた女の右手を掴みひねり上げながら肩を脱臼させる。

そのまま再度手首の骨を折るつもりで引っ張りあげて
図書館受付カウンターのほうへと殺人鬼(仮)を投げる。

今度は頭部を右手で掴んでこのバカの顔面を4、5度と、鼻と歯が折れるようにカウンターの角に叩きつける。


 女は白目で泡を吹いて
血まみれの顔面でわかりにくかったが気を失ったようだ。
そのまま髪の毛を掴んで図書館外へ引きずっていく。

 図書館の外は黄金色で包まれている。
近くには水上公園がある閑静な住宅街だ。

 見渡すが人も車もない。
恐ろしく静かだ。

ハチとエリザベスが見当たらない。
ここの近くにいたはずなのに…
 
 はぐれた?
それともまた世界を移動しちゃった?

2匹とはぐれたのがわかって不安感が少し増す。

 一度図書館に戻り安全そうな2階の小部屋にテントを作成する。
そこになんとか応急処置を施した女の人を寝かせる。
あの犯人の女をまた掴んで部屋から出て図書館の外に出る。

 なにか手当てしないと。
いや、この犯人の女じゃなくてね。

えーとガーゼとか、消毒液とか炒め止めとかでいいのかな。
そうだ。

どこか近くの病院…
ちょうど近くに町医者のクリニックがあるはずだとおもう。
行ったことないところだけど。

行ってみよう。

図書館から出て歩き出したときに
「ちょっと待って! ねぇ! ちょっと待って! どこへ行くの!?」

女が目を覚ました。

「うるさい、黙って。」

女は全力で抵抗して、体重をかけて私を引き倒そうとする、まるで見っともない綱引きみたいに。
だがびくともしない、あたしの身体能力は常人の比じゃない。

あたしの力のほうがはるかに強いとわかるや否や

「誰かぁー!!!!助けてー!!!!!!!誰か!!!!助けて!!!!ギャァァー!!!!!!」

大声を上げ始める。

 女の首を締めあげて黙らせると、まだ動かせるほうの左手でタップしながら降参したと見せかけて
すぐに左手をあたしの顔に伸ばして私の目をつぶそうとしてきた。

左手を受け止めて握りつぶす。
そのまま指をすべて折る。

ギャァヤヤー!!!! と絶叫を出していたがる。
心が冷めていく…

殺人鬼の喉をつぶしてまた頭を掴んで歩きだす…
と道の向こう側から人が出てきた。

人と遭遇するとは思ってなかったのでびっくりする…

ステッキを持った背の高いコートの老紳士。

老人は知的な雰囲気と落ち着いた雰囲気があった。

 そのままこちらに歩いてきて、図書館はこっちかな?
と聞かれる。

はい、と答える。
逆光で顔が見えない…
眩しい…

老人はありがとうと言ってお礼にこれを…

ポケットから何か取り出してあたしの手に置いた。

人間の耳。


ギョッとして老人を見ると相変わらず顔が見えないが、優しい雰囲気で
よく見てごらんとでもいうようにあたしの手のひらに視線を落としたのがわかった。

そこには黒にほんのすこしだけ赤が混じったような色の小石ほどの大きさのダイスがあった。

再度びっくりしてお爺さんを見ると目の前から老人は消えていた…



左手に嫌な存在を感じてみるとさっきの女が足をガサガサ動かしていた。
髪の毛を離して、地面に放っておく。

どうせ動けないでしょ。
こいつは野放しにしてちゃいけない奴だけど

人なんかできれば殺したくないんだよ。

それより今あった出来事はなんなの。

あのお爺さんは一体。

夢じゃないよね。

手の中には8面体のダイスがちゃんとあった・・・


不思議な素材でできてる。
重さや感触がすごく落ち着く、初めて触ったのに何故かしっくりくる。
何か趣味の道具をもっといいものに変えたときに…
何か手に取ったときにそんなこと感じたことあったっけ。

なんだっけ。
何かの道具じゃなくてキーホルダーだったかも。

その後30分ほど歩き回ったが全く人気がない。
クリニックと薬局を見つけて応急手当てに使えそうなものを持って
図書館に帰る。

自分が掴んでいるこの女、そろそろ本当に邪魔になってきた。

 どうしようかな。
もう気がおかしくなりそうだ…

 近くの民家に勝手に入る。
やっぱり誰もいない。

 家の中にあるケーブルや業務用テープをガレージで見つけて殺人鬼と思われる女を
電柱に括り付けていく。

耳を叩いてか鼓膜を破裂させておく。


 もう日が沈み始めている。
図書館に入ってトイレにいく。

「今度は世界から人がいなくなっちゃった、ハチもエリザベスもいない。これからどうしよう…」

久しぶりに一人で泣いた。

 意外なことに世界がおかしくなってから初めて泣いてる自分に気が付いた。
泣きながら壁に頭の側面をつけてぼーっとする。

もう何も考えたくない、何も気にせずに眠りたい。
眠気がゆっくりと襲ってきてそのままトイレの床に崩れ落ちながら眠りにつく。

ダイスがトイレの床で寝ている人間のポケットから落ちた。
そのまま転がり、ダイスは1の目を天井に向けて止まった。

すごく深く眠れた時の脳の感覚を目が覚めて最初に感じた。

最初に「良かった」とおもって次には
「ぐっすり眠れて嬉しい、気持ちいいと思った。」

トイレの床で自分が落ちたことを思い出して顔を上げるとそこは見覚えのない場所だった。

「暗い…どこ? 洞窟?
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