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4章 魔女と湖畔の街と革命の鐘
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しおりを挟む3階に上がる。
廊下の奥のほうにいるゾンビを走っていって倒す。
割れた窓の隙間から、ミネルヴァが入ってきて私の肩にとまった。
頭をやさしくなでてやる。
職員用の部屋に入るように二人を促した。
なぜか熊も一緒に入ってくる。
とりあえず
「ここまでの事情を聞かせて。」
クールな顔立ちの茶髪の子が答える。
エヴァンジェリカというらしい。
「うん、わかった」
「えーとどこから話せばいいのか分からないけど大学の休みでこの街に遊びに友達と来てて、」
「この子のことだよね?」
すこし気まずそうな顔。
「えーと、この子は友達じゃなくて、いや友達でもいいんだけど。
この子は今日ゾンビから逃げてる最中に知り合った子なんだ。」
「友達は?」
「し、死んじゃった…」
「何人いたの?」
「2人、私含めて3人で来てた。」
「何が起こったの?」
「えーと、ガレージで車の改造をしてて、そのあと海に行って釣りをみんなでして。」
車の改造なんてできるんだ?
私はそんなのできないよ。
「で、そのあと私はガレージにまた行ってまだ夕方くらいだったけど寝てて。
私よく不規則なタイミングで寝るから。」
「へー、そうなんだね。」
「うん、で起きて車で別荘のほうにもどってる最中にゾンビを見てびっくりして、
車でそのまま逃げて。」
「別荘についたらドアが壊されてて、リビングのあの名前なんて言うかわからないけど引き戸になってるガラスとかも」
あー、あれなんていうんだろうね。わたしもわからない。
「……それで、そこに友達の死体があった…」
うん…
それですぐに車に戻って逃げて
そしたら霧がどんどん濃くなってきて
車で街のほうに来たらもっとゾンビが出てきて車の音に反応してきちゃうし
道が狭くて簡単に出れないから急いで
アクセル踏んでゾンビを撒こうとしてたら袋小路に入っちゃって…
それで車から降りて隠れながら逃げてたら、途中でこの子と他の人たちと合流できたの。
熊はよくわかんないけど、何故かあたしたちと一緒に逃げてる。
怖いんだと思う。成獣じゃなさそうだし。
なんか学校に入る前の大通りから一緒にいる。
クールそうな美人の子は一気にまくし立てるように説明してくれた。
少し息が上がっている、ノンストップでしゃべってたから。
うーん、なるほど。
もう一人の子。マネキンのような坊主頭に眉なしので身長188くらいはありそうな子。
名前はルーシーというらしい。
ルーシーに話を聞いてみると
ここじゃない街に家族で旅行していてその帰り道だった。
この街を通り過ぎる手前のガソリンスタンドでいきなりゾンビが出てきて
人々に襲い掛かったらしい。
そこで一緒にいた人たちと逃げ回ったり隠れたりして、
夜になった頃。
学校のほうにゾンビが少なそうだと誰かがいってみんなで向かったとか。
まぁ、実際に少なかったね。
この学校とかフェンスや塀もしっかりしてるからかな。
ゾンビはよじ登らなきゃいけないようなものは自然と獲物が居なければあまり積極的には乗り越えてこない傾向は確かにあった気がする。
そうか。
ゾンビは意識自体が希薄そうだし、目的や意図がしっかりしてないなら自然とそういう場所には少なくなるか。
必要がなければ無駄にエネルギーを使いたくないのはゾンビも他の生き物も同じか。
あとでミネルヴァと一緒にどの程度この傾向があるかチェックしてみよう。
それはそうと。
キミについてはどうしようか?
目の前のまだ成獣にもなり切っていない熊が首をかしげて私を見返してきた。
この近くに動物園なんてないとおもうし、熊が生息してるのか怪しい、というか知らない。
あとこの子、人に慣れすぎてる。
サーカスとかが近くまで来てたのかな?
2人に聞いてみるとブルネットの子
エヴァンジェリカがサーカスのフライヤーならこの街で見たといった。
じゃあその可能性が高そうだよね。多分…
そうだ、使い魔!
熊の目の前に移動して目線の位置をあわせてかがむ。
「お前は私と契約する?」
若いクマはきょとんとしてたがそのあと私の手にキスをした。
私と子熊の間につながりが出来たのがわかる。
この子の名前は何にしようか。
ぜんぜんいいのが思い浮かばない。
エヴァンジェリカとルーシーに相談してみる。
エヴァンジェリカは目を輝かせて、任せて!
とよくぞ相談してくれたと言って親指を立てて見せてくる。
「OK、いくよ!」
「このクマの名前はパンダ!」
どう? と、わくわくした表情で聞いてくる。
……パンダはいやだな。
「じゃあねぇ、うーん。コブラ!」
どう? と自信ありげに聞いてくる。
うーん、コブラかぁ。面白いけどね…
「待って待って、じゃあね。T34!」
ちょっとよくわからないし。
「とっておきもありますよ! ゴリラ!」
どう? と妖艶な表情で聞いてくる。
ゴリラはちょっと…
私もなんか出してみてと言われて
「えー、わかんないよ。」
「なんでもいいから、出してみたらいいんだよ!」
「じゃあ、グリーンティー…」
むむむ、とエヴァンジェリカが反応して。
「いいじゃん!グリーンティー!
ほら! 今日から君はグリーンティーだよ!」
いやいや、ほんとに?
なんかコブラとどっこいどっこいなきもするけど。
じゃあコブラにする?と聞かれ
「じゃあそうする」
といったらエヴァンジェリカは少し驚いてコブラでいいん?
と聞いてきた。
うん。いいよ、コブラいいじゃん。
「いやほんとにいいの? …コブラだよ?」
エヴァンジェリカの少し引いてる感じでなんか怖くなった。
えーとじゃあ、オスカーで…
というわけでグリーンティーはコブラからオスカーになった。
私の目の前にうっすらと透明の魔法陣が出る。
杖をその魔方陣へ通しオスカーの肩へ杖の先を落とす。
肩にポンと杖が触れる。
オスカーはおとなしくしている。
安心しているようだ。
オスカーが使い魔になりました。
オスカーの位階上昇が可能。
やります。
熊 オスカーは
クマ型魔獣 オスカーに進化しました。
固有アビリティ「???」が発動しました。
クマ型魔獣オスカーは
月の怪物 オスカーに発展しました
オスカー
月の怪物 レベル1
アビリティ
「不可侵の毛皮」 分厚い毛皮はさらに怪物を怪物たらしめる。防御力 大上昇
skillは「怪物の前腕」を取得。
オスカーは全体的に筋肉質になって体も一回り以上大きくなった。
成獣のクマに近いくらいになったんじゃないかな。
毛並みがミネルヴァみたいに黒の中に紫がすこしだけきらめいて見えるような色合い。
オスカーは幼獣というよりはもっと大きい感じだった。
クマの成長のスタンダードとか何も知らないけどね。
どのくらいまで幼獣と呼ぶとかさ。
体重も正直90キロくらいはあったんじゃないかと思う。
今はどのくらいあるのか、わからない。
140くらいあるかもしれない…
大人しそうな感じで気にならなかったけど。
2人には何も説明せずにやったので唖然としている。
エヴァンジェリカは弟子入りしたそうな表情でこちらを見ている・・・
ルーシーは茫然としていた。
2人に簡単に私の経験を話す。
魔女になったこと、最初はショッピングモールその後なぜか普通の世界になり
今度は違う街でゴブリンが大量発生してここに来てたのは
この州の中心の大都市に戻っている途中だったこと。
ルーシーはそこまで聞くと一瞬固まって
「え、待って!もしかしてここから出ていくの!?」
「待って! 連れていってよ! 私たちここで住めないよ! 本気で見捨てるの!? 強いんでしょ!? あなたがどうにかしてよ!」
「……」
ルーシーははっとしたような表情になって
「ごめんなさい、いきなり、パニック、になっちゃって…」
「私だって何でもできるわけじゃない。もし足手まといになるならそれは負担に感じる。
もし、何もできないあなたを私が面倒見続けなきゃいけないなら…」
正直私は彼女から何かプレッシャーを感じてる、
自分の気持ちをかなりストレートに口に出してくるけど
私にとっては精神的に負担に感じる。
彼女の父親のこともだ…
何でだろうか、よく考えてみるとなぜ自分がこんなに不安を感じているのか理由がすぐには
浮かんでこなかった…
彼女は自分の気持ちは主張するけど私の気持ちや負担を無視しているように思えるから?
私の罪悪感を利用されてるように感じる?それは違うか…
彼女の父親はゾンビだ、相対したら殺さなきゃいけない。
放置するのもどうなんだろう…
もし彼女の父を私が倒したら恨まれるんじゃないか、この子は精神的に不安定になりやすそうな気がするけど本当に信用できるの?
助けた子に理不尽に恨まれるなんて嫌だ。
それが今私の懐に入り込んできてるように感じてるのかな…
私だって同じ人間なんだよ! こっちのことも気遣ってよ!
アンタの気持ちはアンタが十分気遣ってるのに!
もし逆恨みしたら絶対に許さないから!
人を助けて後悔させないでよ!
なんでアンタは私の気持ちがまるで存在しないような気分にさせるの!?
自分の中にこうやってこの子に叫んでやりたい気持ちが眠っていたのを見つけた。
インナーチャイルドか、内なる声…
自分もこの子みたいに内なる声をたまには…
その通りに生きたい気持ちもあるのかもしれない。
正直にか…
でも。
切り替えていこう。
気づきや学びはあった。
ありがとう、ルーシー。
…ゆっくりと息を吐く。
「ルーシー」
「面倒はどのくらい見れるかわかんないし、見たいとは思ってない。負担もかけてほしくない」
「うん…」
「でもすぐに見捨てる理由も特にない。まだすこしは余裕もあるし」
とりあえず…
「霧がまだまだ濃いね。霧の怪物はちょっとやばそうだからこの街には滞在するつもり。
あなた達を助けてもいつまで面倒見ればいいのか分からない。」
「だけど、私と協力しあって生きていくつもりがあるなら一緒に考えよう!」
「うん!」
と話していた矢先のことだった。
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